インタビュー

2019年10月17日

「お気に入りのスペシャルアクターズを見つけてほしい」──上田慎一郎監督インタビュー

「お気に入りのスペシャルアクターズを見つけてほしい」──上田慎一郎監督インタビュー

一大ムーブメントを巻き起こした『カメラを止めるな!』公開からからわずか1年4カ月。上田慎一郎監督の劇場長編映画第2弾『スペシャルアクターズ』が10月18日より公開となる。注目作だけあってオーディションには1500人が集まり、2日間のワークショップを経て15人のキャストが決定。主人公は緊張すると気絶してしまう売れない俳優・和人(大澤数人)で、疎遠になっていた弟・宏樹(河野宏紀)が現れたことにより物語は動き始める。

映画は“演じること”を使った何でも屋「スペシャルアクターズ」と、ある旅館の乗っ取りを企むカルト集団「ムスビル」の攻防が展開。『カメラを止めるな!』を彷彿させる予測不能なストーリーが描かれる一方で、上田監督らしい映画愛にも満ちた作品となっている。今回はそんな上田監督ご本人から、『スペシャルアクターズ』の制作過程や出演者との向き合い方などたっぷりとお聞きした。




──『スペシャルアクターズ』を制作するにあたって、プレッシャーは相当なものだったと思います。興収面や評価など、どのような部分が1番プレッシャーになったのでしょうか。

上田慎一郎監督(以下・上田監督):映画をヒットさせないといけないし評価も気にならないと言ったらウソになるんですけど、一般のお客さんを失望させないかどうか、ということかもしれないですね。『カメ止め』(『カメラを止めるな!』)の公開中にも「次回作にプレッシャーはないですか?」という質問が取材で多かったんですけど、その時は「全然ない」と言ってたんですね。『カメ止め』で走り続けていたのでプレッシャーを感じる余裕もなかったし、まだ遠くの方にぼんやり考えていたと思うんです。

ただ『カメ止め』公開中もそうなんですけど、浴びるように「次回作も期待しています」「次はどんな作品を作ってくれるんですか」みたいな言葉をかけて頂いて。それがいざ次回作に腰を据えて向き合った時に、これまで浴びてきた言葉が一気に背中に圧し掛かってきたという感じでしたね。

──今回1500人にもおよぶオーディションを経てから脚本を執筆されていますが、監督が“あて書き”にこだわったのはなぜでしょうか。

上田監督:『カメ止め』と『スペシャルアクターズ』で少し違うのは、『カメ止め』の場合プロットがあった中でキャストを選抜できたんですけど、『スペシャルアクターズ』はプロットや物語がない状態でひとまずキャスト15人を選抜しています。その15人とワークショップなどを経てインスパイアされたものも含めて物語を0から作ったので、今回の体制で言うとあて書きしか方法がなかったという状況ではあるんですね。

今まで自分が脚本を書いてプロデューサーがキャスティングを概ね決めるということも1、2回だけあったんです。でもキャストが決まってから、結構セリフを書き直したんですよ。ある程度、キャストと役に重なる部分がないと、「演じている」という感じになってしまう。だから「この人がキャスティングされたんだったらセリフはこういう風にした方がいいし、こういう描写は成立しないかな」と、あて書きでない作品であっても、キャスティングが決まった時点で調整しています。

『カメ止め』と『スペシャルアクターズ』については“完全あて書き”と言って差し支えないんですけど、メジャー映画のように美男美女だったり演技が達者な人たちだったりっていう映画と同じことをしても仕方ない。それでまずは、誰も知らないような役者を選抜しているんです。例えば主演の大澤数人は10年で3本しか役者の仕事をしていないし、演技未経験の人がいたりもする。芝居がある程度できる人っていうのは、実は1番最初に落としているんですよ。



(c)松竹ブロードキャスティング



──そうなんですか?

上田監督:すごく達者だったりすれば検討に入るんですけど、芝居がある程度できちゃう人が自分はなんだか1番選びづらくて。なんて言うんですかね…… その人本来の素も出てないし、完全に憑依しきって演技ができるわけでもない。誰でもないっていう、記号にしかならないものなので。

僕は『カメ止め』でも『スペシャルアクターズ』でも、どちらかというとその人が本来持っている素の面白さが魅力的な人を選んでます。それでその人が役者として頑張るということと、登場人物がフィクションの中で頑張っているということが、虚実一体となる瞬間を撮りたいっていうのはあります。

──上田監督は物語を考える上でスランプに陥ったそうですね。脚本執筆以外でも生みの苦しみを味わうような場面はあったのですか?

上田監督:まずはクランクイン2カ月前に企画をゼロに戻して、そこから新しい企画を考えて脚本に向かいましたね。『カメ止め』との現場の違いでいうと『カメ止め』はほとんど自主映画の体制で撮っていて、スタッフも10人いるかいないかっていう中で気の知れたスタッフとやっていたし、割と自分の自由なスタイルでやれたんです。ただ商業映画となった場合、今回“はじめまして”のスタッフも多かったのとスタッフの人数も現場に常に2、30人いて規模も大きくなっているということで、どうしても撮るスピードが落ちざるをえなかったですね。段取りをして、テストをして、本番をという段取りをしっかり踏んでいかないといけない。『カメ止め』の時とかはテストなどを飛ばして、1発本番も多かったので。



(c)松竹ブロードキャスティング



一流の技術を持った役者さんであれば段取りをしてテストして本番にマックスを持っていくことができるんですけど、まだそこまで経験が豊かでない俳優の場合テストで1番いい演技を出し切っちゃったりとか、「ああ今の撮っとけばよかった」というようなことになりかねない。やっぱりやればやるほどライブ感みたいなものが失われていくんです。そのライブ感を撮りたいけれど、スタッフがいっぱいいるから段取りもしっかり踏まなきゃいけないということもあって、結構序盤の方はヤキモキしましたし、ピリピリしたこところはありましたね。

──上田監督の作品の魅力は『カメ止め』『イソップの思うツボ』『スペシャルアクターズ』も“二転三転するストーリー”が大きいと思うのですが、監督ご自身がミステリーやサスペンス好きでそういった作風になっているのでしょうか。

上田監督:ちょっと難しい話になるかもしれないですけど、ハリウッド映画って展開に次ぐ展開の作品が多いんですよ。二転三転、三転四転、ストーリーで面白い映画を作る。日本映画の場合は、人間ドラマが多いんですよね。誰々が誰々のこと好きだったけど実は誰々が誰々のこと好きじゃなくて、悲しかったけどそれを押し殺してるみたいな内面の動き。もちろん人間ドラマを否定しているわけじゃなくて、ただ僕はとにかくまず面白いストーリーがあって、展開があって、人間ドラマっていうのはあんまり前に出さないようにしてるんです。ただ向き合って会話したりとか感情的に言い合ったりとか何か吐露したりとかっていうことは、作るものとしてはあんまり自分の好みではないんですね。

ではその人間的な部分を今回どこで出すかと言ったら、大澤数人っていう人間がいきなり長編映画の主役に抜擢されて壮絶な緊張とプレッシャーを背負いながら芝居を続けるということと、映画の登場人物が緊張で気絶しそうになりながら芝居を続けるっていうドキュメントとフィクションがないまぜになったところなんです。役者本人をそういったドキュメントというところで出したいし、演じている人たちやスタッフたちの熱量、背負ってるドラマをフィクションに内包して、そこに人間ドラマを見てほしいというのがあって。

『カメ止め』とかもそうなんですよね。できるだけ展開・展開・展開の面白さを徹底的に考えて、ベースとして主人公の日暮とその娘のドラマを敷いてますけど、前に出さないようにしてるんです。それは自分の作風の特徴のひとつかなと思いますね。まずは徹底的にストーリーを面白くしようとしていて、人間ドラマは滲み出させようとしている。もうひとつ言うとやっぱり昔から人を驚かせるっていうことが好きなんだと思います。サプライズだったりそういうことが好きなので。

──ちなみにあて書きやキャラクターを作り上げるとき、監督ご自身の性格や特徴が反映されることはあったんですか?

上田監督:それは毎回主人公に反映してしまってますね。今回の主人公は売れない役者で緊張すると気絶するっていう弱点を持っていて、上手くいかない灰色の日々を送っているんですけど、唯一自分の大好きな映画を何回も何回も観てその映画に救われているっていう人間ですよね。僕も映画に救われている人間なので、そこは投影されていると思います。



(c)松竹ブロードキャスティング


それに僕も意識してやってるわけじゃないですけど、深読みすると主人公は父親の抑圧によって緊張すると気絶するっていうトラウマができてしまっていて。父親を乗り越える闘いを裏では描いているわけなんですけど、その父親っていうのは自分にとって『カメ止め』を乗り越える、みたいなものもあったのかなと考える時はありますね。気絶しそうになりながら進む、ということで言うと。

──主人公に大澤数人さんを選んだ理由や、大澤さんの魅力というのはどこにあったのでしょうか。

上田監督:逆に、どうでした(笑)?

──冒頭から最後の最後に至るまで、演技をしているというより作品の中で生きているという印象で。それが魅力に思えました。

上田監督:そうですね、そういうことだと思います。彼がまずはオーディションに来た時から歩き方や立ち姿、なんだか全て独特のものがあって目が離せなかったんですよね。それは芝居する時だけではなく誰かの芝居を見ている時だったり、常に彼の一挙一動が目が離せないものがあって。

彼は特段演技が上手いっていうわけではないんですよ、経験も浅いですし。彼の狭い幅の中で演じているわけですけど、それが下手には見えないじゃないですか。彼そのものが映画の中で生きているっていうことがやっぱり1番大事なので、彼なら売れない役者を、そして緊張すると気絶するという特殊な設定を無理なく演じられるだろうなと。むしろ演じると言うか、映画の中でその役として生きられるだろうと思ったから主役にしたんでしょうね。彼、気絶しそうじゃないですか。助けたくなる、支えたくなるじゃないですか。




──今回上田監督から、演技指導だったり役者にリクエストしたりということはありましたか?

上田監督:演技指導はもちろん都度してますね。ワークショップをして読み合わせをして、リハーサルも何回もして本番に入ってますので、撮影時には都度演技指導してます。でも特に撮影序盤のころは、みんな現場経験がまだ少ないので単純にアガっちゃってたんですね、緊張しちゃって。プレッシャーというか、長編映画のメインキャストということに気絶しそうだったんですよ。気絶してたんです、みんな(笑)。全然本来のその人たちの良さが出てなかった人たちもいて、そんな彼らをリラックスさせたりして本来のその人に戻してあげるっていうことが序盤の方は多かった気がしますね。

──上田監督の中で「この部分を大事にしよう」だとか、「ここは絶対外さないようにしよう」というようなルールはありましたか?

上田監督:今回の作品に限らずなんですけど、ギリギリまでジタバタするってことですね。用意スタートって声をかけるじゃないですか。でもその用意とスタートの間でアイデアが浮かんだりすることがあるんですよ。用意って言ったらその役者のスイッチが入り、現場の空気ができて、そこで何かアイデアが思い浮かんだら1回止めて仕切り直したりとか。カチンコが鳴るその瞬間までもっと面白くできないかっていうのはいつも考えてますし、このぐらいでいいやって1回許したらズルズルいくので、全カットベストを尽くすっていうのは当たり前ですけどやってますね。

──生みの苦しみを味わうことになった作品ですが、「これで形になる!」と手応えを感じた瞬間はありましたか?

上田監督:何回かそういう瞬間はきますよね。初稿を上げた段階では不安でしたね。初稿の時は、まだ緊張すると気絶するっていう設定などがなかったんですよ。気弱な青年が演技を通して成長するっていう、これではちょっと面白くないなぁと思っていて。それで2稿で緊張すると気絶するという設定が加わって、それによって全体のテンションが変わったというか、これは面白くなるぞと。

現場ではやっぱり、いいショットが撮れたとかいいシーンが撮れたっていう時はその都度手応えはあります。ただお客さんに観てもらうまでは、ずっと不安はありますよ。それはいつでも、『カメ止め』の時もそうですけど。

昨日ちょうど『スペシャルアクターズ』の完成披露試写会があって一緒に観てたんですよ、監督キャスト一同観客に混じって。何回も笑い声が起きて、最後にロビーでみんなでハイタッチでお見送りもさせてもらったんですけど、皆さんすごくにこやかな笑顔で「良かったです」「最高でした」といろいろな声をかけてくださって。1番直近で言うなら昨日がまず手応えを感じましたね。



(c)松竹ブロードキャスティング


──『カメ止め』もそうでしたが、今回“団結して何かを作る”というテーマ性を感じました。監督にとっては映画作りの醍醐味はどこにあるのでしょうか。

上田監督:映画作りに関わらず、仲間と一緒にチームで何かを作るっていうことが多分好きなんだと思います。高校生の時とか文化祭でたこ焼き屋さんだったりお化け屋敷だったり、クラスごとの出し物ってやるじゃないですか。僕らのクラスは毎年映画を作ってて、クラスメイトにそれぞれあて書きをしてスタッフを役割分担して映画を作ってたんですけど。夜遅くまで練習したり、みんなでアイデアを出し合ったりしてやってたんですね。なんだかチームでものを作るということが自分の今回の人生のテーマなのかもしれないというぐらいに思いますけどね。

──ちなみに監督は映画を撮るようになる前と後で、“映画の見方”が変わったというような経験はありますか?

上田監督:僕は中学生の頃から家のハンディカムで放課後友達と毎日のように映像を撮っていたし、高校生の時も自主映像みたいなのをいっぱい撮っていて、つまり映像を学ぶ前から撮ってたんですよ。学校で勉強するわけでも本を読んで勉強するわけでもなく、映画を観て映画を撮ってたんですね。「クルクル回るカットってカッコいいな今度撮ってみよう」だとか「スピルバーグのぐっと寄っていってセリフ、みたいなあの感じを撮ろう」というように、映画を観て学んで、映画を撮って体で学んでいった感じなので。

──それでは、これから作品を鑑賞する読者に向けてメッセージをお願いします。

上田監督:まだ誰も知らない人たちばかりかもしれませんけど、映画を観終わったあとにきっと親近感が沸いたり、好きになるキャラクターがいるはずだと思います。自分のお気に入りのスペシャルアクターズを見つけてほしいなと思います。




──最後によろしければ、映画監督になりたいという人や映画作りを志している人たちに上田監督から何かエールを頂けますか?

上田監督:そうですね、『カメ止め』公開中とかも「映画を作りたいんですけどカメラは何を使えばいいのでしょうか」だとか「どういう物語がいいんでしょうか」「演技指導はどうされているのでしょうか」と聞かれるんですけど、本当に「まずは撮れ」と。僕がそこでカメラはコレ使ってます演技指導はこうしてますと言ったところで、それは僕の100点なので。その人の100点って、その人が失敗して、トライアンドエラーを繰り返して辿り着くしかないと思うんですよ。その人それぞれの100点があるから。

とにかく猛スピードでトライアンドエラーを繰り返して自分の100点はこれなのかと、俺の使うカメラはこれかと、俺の演技指導スタイルはこれかというのを自分で探すしかないなと思いますので、まずはいっぱい撮っていっぱい失敗して、いっぱい失敗作を作ってください。僕も中学・高校の時に放課後毎日のように「今日はこういうの撮ろうぜ」と言って日が暮れたら終わって、次の日また「今日はこれ撮ろうぜ」から始まるっていう、山ほどの失敗作というか習作みたいなのを撮ってきた先に今があるので、まずは量。量が質になるまで、だと思いますね。

(撮影・取材・文:葦見川和哉)

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