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2022-01-13

「労働環境改善で作品の質は上がる」上田慎一郎監督が最新作『ポプラン』で掴んだ手応え

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『カメラを止めるな!』(2017)で一世風靡した上田慎一郎監督の最新作『ポプラン』が1月14日より公開されます。

本作は、「予算以外の制約なし」を掲げるレーベル、シネマラボから生まれた奇想天外な物語。漫画配信アプリ事業で成功を収めた男の“アレ”が体から離れて飛んでいってしまい、6日以内に捕まえないと元には戻らないという状況に陥ります。飛んでいった“アレ”はポプランと呼ばれ、ポプランを探す旅に出た男は、自らの人生を振り返ることに。

上田監督が10年前に構想したアイディアを具現化させた作品で、10年間での経験も反映された奇抜だけれど奥行き深い人間ドラマです。

今回、上田監督に本作に込めた想い、そして、制作にあたり、労働環境改善のためにルールを策定したことについて、ご自身が感じる映画産業の課題など多岐にわたり伺いました。

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『カメ止め』大ヒットによる自身の環境の変化が反映


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――本作の企画は10年前に思いついたそうですが、どんなきっかけだったのでしょう。

上田慎一郎(以下、上田):きっかけは覚えていませんが、20代後半のフリーター時代に一週間に一本、オリジナル企画を考えることを自分に課していて、その時に思いつきました。朝起きたら、自分のイチモツが無くなっていたというワンアイデアが浮かんで、それをもとに10年前に脚本を一度書き上げています。

――上田監督は、飛んでいくポプランは何かの象徴として描いてるんでしょうか。

上田:それは観た方それぞれが受け止めていだければといいかなと思います。

この作品は、感想がバラバラでそこが面白いところです。感想って作品と観る人の掛け算なんだなと改めて感じています。

――改めて映画化するために、10年前の脚本をどのように直していったのですか。

上田:主人公の設定が大きく変わりました。最初の脚本では、主人公は小さなバーの店長で、日々をフラフラと過ごしているような男だったんです。それが社会的成功を収めた男に変わっています。 

――それは、『カメ止め』の大ヒットによって、ご自身を取り巻く環境の変化が反映されているのでしょうか。

上田:それもあると思います。この10年間、成功も失敗もありましたし、結婚して子どももできました。10年前に作っていたら、もっとライトなテイストの作品になっていたんじゃないかと思います。


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――主人公は、漫画配信アプリで成功した実業家です。彼はオリジナル作品を作ることを断念し、既存の名作を配信することで成功したという設定になっています。

上田:これは僕自身の問題意識の反映でしょうね。日本の映画・ドラマ業界は、原作ものが多いですが、漫画にしかできないことがあるように、映画じゃないとできないこともあると思います。もちろん、原作もので面白い作品もいっぱいありますが、やっぱり、理想はオリジナル作品を作りたいですよね。

漫画配信会社にも取材をさせてもらって、今は過去の名作漫画を並べるだけでは他社との差別化ができないので、各社オリジナル作品に力を入れるようになってきているようです。

――作中、主人公と共に創業したかつての仲間が出てきます。彼は創業時の理想を忘れずに、オリジナル漫画を作ろうと頑張っている人物です。このキャラクターにも上田監督の気持ちが反映されているのでしょうか。

上田:そうですね。「地位や名誉も持たずに仲間たちと好きなものを作っていた時と、今を比べてどっちが幸せなのかなあ」みたいな。どっちが良かったとはっきり言えないですが、自分の葛藤がにじみ出ていると思います。

――成功して良かったという気持ちは当然あると思うのですが、一方で何かを失ったという気持ちもあるのでしょうか。

上田:「『カメ止め』以降、何が変わりましたか」とよく聞かれるんですが、一番は人間関係なんです。疎遠になった人もいれば新たに出会った人もいます。それと、本当に自分の好きなものを作っていればよかった時代が終わり、求められている中で自分の好きなものをどう作るのかを考える必要がでてきて、この映画は、その葛藤の中で作った作品だと思います。 

俳優とがっつり肩を組んで取り組む大切さ


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――シネマラボは作家性を重視するレーベルで制約は予算だけと謳っています。そういう意味では上田監督の作りたいものを作れたという感触はあるのでしょうか。

上田:そういう感触は毎回あります。予算の制約はいつものことなので、そこは正直何も変わりなかったです。ただ、『カメ止め』以降、大きな商業オファーもいただくようになりましたが、その中で通る企画ではありませんでしたね。

――男性の“アレ”が飛んでいく話は、たしかに企画が通りにくいでしょうね。

上田:おっしゃるとおりです(笑)。『カメ止め』の時もゾンビでバックステージものって、どっちも当たらない企画だと言われていました。シネマラボは好きなものを作っていいということだったので、自分の中で映画にできる感触がやっと掴めたので今回やることにしました。


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――主演に皆川暢二さんを選んだ理由はなんでしょうか。

上田:がっつり肩を組んで映画作りができる人であることと、成功とその後に訪れる大きな壁を知る人だというのが大きいです。2018年『カメ止め』大ヒットの翌年、皆川さんの『メランコリック』が注目されて同じような境遇にいるので、わかり合える部分があると思ったんです。

――実際にご一緒してみてどうでしたか。

上田:思った以上にがっつりと取り組めました。商業作品を手掛けるようになって課題の一つだと感じているのは、撮影前にキャストとコミュニケーションできる時間が少ないということがあります。『カメ止め』も『スペシャルアクターズ』も、ワークショップ形式で制作して、役者とたっぷりとコミュニケーションして作り上げていきました。そうしないと自分の持ち味を発揮できないと感じていたので、皆川さんとそれができたのは大きかったです。

例えば、漫画配信会社に一緒に取材に行ったり、子役のオーディションの相手役をやってくれたりとか、脚本についてもたくさん意見を交わすことができました。こういう時間が取れるかどうかが映画の質を大きく左右するので、本当にありがたかったです。

――濱口竜介監督も同じようなことを言っていました。濱口監督も撮影前に役者とたくさん時間を過ごすスタイルですが、初めて商業映画を手掛けた時、役者と過ごす時間が短いと感じたようで、『偶然と想像』では再びそのやり方を模索したようです。

上田:じゃあ、僕もカンヌ獲れるかな(笑)。でもみんな同じ悩みを抱えていると思います。日本の俳優さんはみな忙しいですし、映画一本出演すれば生活できる状況じゃないですから。

労働環境改善は作品の質を上げるため


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――上田監督は、今回、撮影現場の労働環境改善のためにルールを設けたことを公表されています。1日の撮影時間は12時間、翌日の撮影開始までに必ず10時間以上開ける、延長する時はスタッフ・キャスト全員の合意の元で行う等のルールだそうですが、それによってスタッフのパフォーマンスが向上した手応えはありましたか。

上田:あります。そもそも、ルールを作ろうと思ったのは作品の質を高めるためです。今回は、自分の会社で制作するので、契約書を交わした上でやってみようと思いました。

――低予算映画ですから撮影日数はタイトだったと思います。1日の撮影時間が限定されたことで撮影日数が増えることはなかったですか。

上田:もともと、そんなに長時間撮影するタイプじゃないので、それはなかったです。ただ、これまで明文化していなかったので、文書化して契約書を交わすだけでスタッフの心理的負担は軽くなると思ったんです。

眠くなれば集中力も当然落ちますし、次の撮影の準備不足にもつながります。この準備の時間を作るのが一番の目的でした。

徹夜で撮影すると、監督は次の日の撮影プランを考える時間がなくなりますし、技術部にも物理的な準備時間が必要ですし、役者だって今日の芝居を踏まえた上で翌日の演技プランを練るものです。そういうことを考える時間が必要で、その方が作品のクオリティが上がると思うんですよね。そのために撮休もきちんととっています。

――よく「画(映像)に金をかける」べきと言いますよね。それは、セットやロケ地、衣装や小道具を豪華にしたりするという意味でもあったと思いますが、スタッフの労働環境を良くすることでも、映像の質は高められるわけですね。

上田:おっしゃるとおりで、疲れてくるとどこかで妥協が出ちゃうし、アイデアも思いつかなくなってくるし、グルーブ感も減っていきます。ただ、今回のルールで十分だと決して思っていません。アメリカでは確か1日10時間まで、キャストは原則8時間までですから、ゆくゆくは同じレベルにまで持っていくことを目標にしています。

労働環境が大変だと訴えるのも大切だと思いますけど、実践して結果を発信することも大事だと思っていて、これに続いてくれる人が出てきてほしいと思っています。

――この問題は業界人だけでなく、映画ファンの間でも問題意識が高まっていると感じます。労働問題などが取り沙汰されると、ファンも素直に応援しにくいと感じる時代になってきているのかなと思います。

上田:そうですね。作るものだけでなく作る人が見られる時代になっていると思います。でも、白石和彌監督が『孤狼の血 LEVEL2』でハラスメント対策のリスペクト講習を導入したりとか、動いている人はいますし、確実に変わってきていると思います。

それに、映画業界の人って、忙しすぎて映画ファンより映画を観られてないんですよね。そうなると、今の流行や最新の表現も吸収できなくなるので、単純に撮影期間中の環境健全化だけではない効果があると思いました。

――貴重なお話ありがとうございます。最後に本作をこれから見る人にメッセージをお願いします。

上田:あらすじだけ聞くとイロモノに思えるかもしれないですが、全年齢対象の上品な映画に仕上がっております(笑)。観た人によって感想が全く変わる作品なので、ぜひ鑑賞後に語り合っていただきたいです。

 (取材・文=杉本穂高)

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