映画コラム

REGULAR

2019年12月13日

無声映画の楽しさを知るための「7つ」のポイント

無声映画の楽しさを知るための「7つ」のポイント


5:カツベンを嫌っていた!?
小津安二郎監督


西洋に比べて日本の映画界は昔も今も映画を保存しようという意識が薄く、特に無声映画時代のフィルムは可燃性であったことも災いして、現在多くの作品は紛失もしくは断片しか見ることが叶わないというのが現状です。
(そういった事情もあって、映画『カツベン!』では現存しないものも含めた当時の無声映画の数々を新たに撮り直して再現させ、劇中に登場させています)

そんな中、1927年に『懺悔の刃』でデビューした小津安二郎監督の無声映画作品群も17作品が未だに紛失したままですが、1929年以降の17作品の現存が確認され、全てソフト化。またその多くがデジタル配信で鑑賞可能となっています。

無声映画時代の小津監督作品は、戦後の「小津調」と呼ばれる独自のしっとりした美意識の構図とカッティングによってなされるスタイルではなく、アメリカ映画のソフィスティケーションに倣ったハイカラでモダン、ドタバタギャグも多々見受けられるエネルギッシュなものでした。撮影も俯瞰や移動などがふんだんに用いられています。

手掛けるジャンルにしても、コメディひとつとっても『突貫小僧』(1929/全長38分版は紛失したままだが、家庭向けに短縮再編集された14分のパテ・フィルムが見つかりソフト化。2016年には18分版も発見)のようなキッズ・コメディから、昭和初期の大不況を背景にした『大学は出たけれど』(1929/全長70分のうち11分が現存)『落第はしたけれど』(1930)『東京の合唱』(1931)『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932)など喜劇と悲劇をないまぜにした小市民映画もあります。



『突貫小僧』(C)1929松竹株式会社 


青春映画でも、スキー旅行に出かけた学生たちの群像劇『学生ロマンス 若き日』(全長109分のうち103分が現存)からチンピラ・ヤクザ系『朗らかに歩め』(1930)など実に多彩なのでした。

<学生ロマンス>若き日 [VHS]



さらには『その夜の妻』(1930)『非常線の女』(1933)のような犯罪映画を発表したかと思えば、『出来ごころ』(1933)をはじめとする人情劇「喜八もの」を撮ったりしています。

実はこの時期、1927年のアメリカ映画『ジャズ・シンガー』が発表されて以降、世の中は無声映画から発声(トーキー)映画の時代に移行している頃でもありましたが、小津監督はチャールズ・チャップリンなどと同様に映画のトーキー化には慎重で、サウンドトラックに音楽などを入れた音響版は発表することはあっても、そこに台詞を入れることはなく、1936年のドキュメンタリー映画『鏡獅子』および劇映画『一人息子』でようやくトーキー映画を手掛けています。

これは「映画は画で魅せるもの」という信念によるもので、その伝に沿うと小津監督は自作の上映で弁士にドラマを説明されるのが本当は嫌だったという説もあります。それは音がないからこそ画ですべて観客に伝える努力を厭わなかった小津監督ならではの、カツドウヤとしての自負心でもあったのでしょう。

そして映画『カツベン!』の周防正行監督が最も敬愛する映画人が小津監督なのですが、そんな彼が活動弁士の生きざまにエールを送る映画を撮ることになったというのも何やら不思議な縁ではありますね。
(ちなみに周防監督作品の常連俳優でもある竹中直人がこれまで演じてきた役名はすべて青木富夫なのですが、これは小津映画『突貫小僧』に主演した子役の名前でもあり、このことからも周防監督の小津作品へのリスペクトが大いにうかがえます)

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