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四季とそのつどの料理を通してヒロインの成長を描く『リトル・フォレスト』2部作

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(C) リトル・フォレスト製作委員会


猛暑の域を優に超える暑さ(というより、もはや“熱さ”と誤字したいほど!?)の8月ではありましたが、それでも9月に入って少しだけしのぎやすくなった感もある2020年、夏から秋への移り変わりはいつぐらいになるのやら……。

そんな日本の四季折々の風景を背景に、ひとりのヒロインの心の成長を描いた『リトル・フォレスト』夏・秋&冬・春の2部作をご紹介したいと思います。

都会から田舎へ戻ってきて
自給自足生活を送るヒロイン


五十嵐大介の同名コミックを原作にした映画『リトル・フォレスト』は、『夏・秋』(14)と『冬・春』(15)の2部作仕様として製作されました。



(C) リトル・フォレスト製作委員会


主人公は、かつて東京で生活していたものの、そこでの恋愛や人間関係などに上手くなじめず、自分の居場所を見いだせないまま、故郷である東北の小さな集落・小森(モデルは原作者が実際に暮らしていた岩手県奥州市衣川区大森)に戻ってきた女性いち子(橋本愛)。

古びた一軒家に独りで住まい、何もかも自分でやらないと気が済まない性格のいち子は、何と自分で畑を耕して野菜を育て、野山で食材を採るなど自給自足の生活を送るようになっています。

当然ながら食事も自炊で、料理が得意な彼女はパンもジャムもウスターソースも自家製です。

ただ、いち子にそういった料理を教えてくれたのは、かつて突然家を出ていった母の福子(桐島カレン)でした……。

さて、小森にはいち子と同じように都会から戻ってきた友人のユウ太(三浦貴大)がいます。

彼はどうも都会を嫌っている節があるようですが、いち子は「都会から逃げてきた」という意識を払拭しきれず、そのくせ地元に定住することもどこかためらっているかのようです……。

映画はそんないち子の夏から翌年の春までの、およそ一年の日々に伴う心の揺れ動きを『夏+秋』、そして『冬+春』の2部作に分けて描いていくのでした。

韓国でもリメイク!
四季を抱く国々の普遍の魅力




(C) リトル・フォレスト製作委員会




ここでのヒロインいち子は自給自足生活を満喫しつつ、ユウ太やキッコ(松岡茉優)など数人の友人を除くと、他者との接触を極力避けているかのようにも映ります。

それはどこか達観して冷めた風情を装いつつ、その実傷つくことを恐れがちな現代の若者像を象徴したものなのかもしれません。

しかし、本作はそんな若者たちを非難するのではなく、あくまでも慈愛の眼差しで見据え続けていきます。

またその目線に応えるかのように、いち子たちは画面の中でどんどん魅力的に輝きを増していくのです。

若手実力派女優のひとりでもある主演の橋本愛の上手さを讃えるのは今更ながらではありますが、それでもこの2部作は特に彼女の素の魅力みたいなものが好もしく醸し出されているような感もあります。

実際、彼女は撮影前から幾度も現地で生活しながら、いち子と自分を同一化させていったようで、そういった演者としての意欲は畑を耕すシーンや料理を作るシーンなどでごくごく自然な行為として映えています。春編のクライマックスとなる神楽舞もすべて吹替なしで撮影に臨みました。

また、豊かな大自然の中でいち子が手作りする料理の数々も実に美味しそうですが、一方でそれらはその時々のいち子の心理状態をさりげなくも代弁してくれているかのようです。

監督は『Laundry』(02)『重力ピエロ』(09)『見えない目撃者』(19)などの俊英・森淳一。この2部作は彼のキャリアの中でも筆頭に挙げたくなるような、しかしそういったこちらの熱のこもった持ち上げ方をも「まあまあ落ち着いて」と優しく諫めてくれるかのように、静謐で心優しい作品なのでした。

ちなみに本作は韓国で『リトル・フォレスト 春夏秋冬』の邦題で2018年にリメイクされています。主演は『お嬢さん』のキム・テリで、都会から故郷へ帰ったヒロイン1年の流れを1本の映画に凝縮しながら描いています。

登場する料理がトッポギや蒸し餅、マッコリなどだったりするのもお国柄として楽しく、そうこう考えていくと四季のはっきりした国々でこの原作を映画化すると、それぞれの国の特色なども魅力的に描出されていくことでしょうね。

(文:増當竜也)