『パラサイト 半地下の家族』観客絶賛も納得な「3つ」の見どころ!


© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED



第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。更に、先日発表されたゴールデングローブ賞でも外国語映画賞に輝いた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。

こうした勢いと観客からの絶賛に支えられ、まだノミネート作品の発表前ながら、すでに今年のアカデミー作品賞の大本命! との声も上がっている本作。

日本版のポスターからは、貧困家族が裕福な家庭に取り入って次第に彼らの財産を乗っ取っていく! そんな怖い内容に思えるのだが、果たしてその内容と出来は、いったいどのようなものだったのか?



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ストーリー


"半地下の住宅"で暮らすキム一家と、"高台の豪邸"で恵まれた暮らしをするパク一家。
真逆な環境で接点の無かった二つの家族が交錯するとき、想像を遥かに超えた衝撃の光景が広がっていくことになる。


予告編




見どころ1:格差社会の厳しい現実が描かれる!



本作の主人公となるキム一家は、訳あって全員が失業中の身。当然ながら生活は貧しく、彼らが住んでいるのも日当たりが悪くスマホの電波も入りにくい、半地下の住宅という始末。

こうして、窓やトイレが自分たちの目線よりも高い位置にある半地下の部屋で、道行く人々の足元を窓の外に見ながら暮らす4人の家族の日常が、映画の序盤では描かれていく。

貧しいながらも家族4人で協力しながら生き抜いている彼らだが、上の階の住人のWi-Fiを無断で使用するなど、厳しい生活環境が彼らのモラルや品位に大きな影響を与えていることが、次第に観客にも分かってくることになる。

そんな彼らがあるきっかけにより、高台に住む富裕層のパク一家と繋がりを持つことになるのだが…。



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本来であれば決して接点を持つとは思えない、対照的なこの二つの家族。だが、パク一家がキム一家を家庭教師や使用人として雇うことで、次第に両者の生活が交わり始めた結果、予想を超えた結末へと突き進んでいく。

自分の生活のために経歴を偽って面接に臨んだり、巧妙な罠を仕掛けて他人から職を奪おうとするこのキム一家だが、決して働くのが嫌だったり社会に適合できない訳ではなく、肝心な仕事の方は問題なくこなせるだけの能力やスキルを持ち合わせているのは、正直かなり予想外だった。

例えば、パク一家の運転手の職を得ようとするキム一家の父親が、自動車販売店の試乗サービスを利用して運転を練習したり、家政婦として入り込んだキム一家の母親も、急な予定変更や深夜の食事に充分対応するなど、そこには決して彼らが怠け者の悪人ではなく、貧困による格差や、投資の失敗による借金のために成功のチャンスを奪われ貧しい暮らしを余儀なくされている人々の存在が描かれていたからだ。



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だが、いくら家の中に招き入れて生活の一部を共にするようになったとはいえ、裕福なパク一家にとって、キム一家はあくまでも使用人としての存在でしかない。その決して超えられない壁が、自分たちも裕福な家族の一員となった気分でいたキム一家の前に突きつけられる、半地下に住む人々に特有の"臭い"という点も、非常に象徴的なものがある。

町ですれ違うなど、一定の距離を保っているのであれば、この家族の"臭い"は届かないのだろうが、逆に"臭い"によって差別されるということは、彼らがそれだけ裕福な世界に接近したことを意味するからだ。

加えて、キム一家が用意した架空の経歴で人を判断して雇い入れるパク一家の描写も、データや家柄で判断してその人の本質を見ないことの証明であり、表面上はフレンドリーだが時に使用人として彼らを扱う態度には、この二つの家族の間に存在する絶対に埋められない格差が、見事に表現されていると感じた。



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見どころ2:大量の雨水と下水が描き出すものとは?



本作で観客に強烈な印象を残すのは、何と言っても終盤に登場する集中豪雨のシーンだろう。

突然降り出した大雨の中をキム一家が、パク一家の豪邸から本来の住みかである半地下の家へと急いで帰る長い移動シーンは、それまで観客が実感できなかった、この二つの家族の間に存在する隔たりを視覚的に表現していて実に見事!

加えて、高台にあるパク一家の豪邸からどんどん坂を下ってキム一家の住む地区に向かうにつれて、周囲の景色の変化や道路にいる住人の数が増えていく描写も、お互いの住む世界の格差を観客に実感させてくれるのだ。

次第に激しさを増す豪雨の中、富裕層の住む高台から、ものすごい量の水が流れ落ちてきて、キム一家の家の中は水浸しどころか水位が上がって溺れそうになるだけでなく、更にトイレからも汚水が逆流して噴出してくるという、最悪の状況を迎えてしまうのだが…。



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ここで重要なのは、水が高いところから低いところに流れ落ちるが、その逆に上には登って行かないという点だろう。

前述した移動距離による貧富の差の表現と同様に、ここでも住む場所による貧富の差が見事に表現されており、実際、この豪雨で被害を受けたキム一家は避難所で一夜を明かすが、高台に住むパク一家が豪雨の被害を受けることは決して無いのだ。



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更に、トイレから汚水が逆流する描写は、この一家の更に下層にも格差が存在することを暗示しており、富裕層の住む高台からの水害と、自分たちの足元から逆流する汚水に挟まれて溺れそうになるキム一家の描写は、まさに映画終盤の彼らの運命を暗示する見事な伏線となっているのだ。

ちなみに、韓国の建物によく見られる、こうした半地下の居住空間が存在する理由は、本来防空壕としての目的なのだが、これを頭に入れておくと後半の展開がより楽しめるかも?

見どころ3:二転三転する先の読めないストーリー!



「先の展開が読めない!」「予想を裏切られた」など、そのストーリーの面白さに対する絶賛評がネットにも数多く寄せられているだけに、今回はストーリー紹介の文章も、必要最小限にさせて頂いた。

確かにネット上の評判通り、予想を覆して思わぬ方向に進んでいく中盤以降の展開には、韓国が置かれている厳しい現実問題と、最後の救いであり心の拠り所となる"家族"の存在が描かれており、この点は日本人にも共感できるものとなっている。

実際、日本版の予告編やチラシからは、半地下の家に住む貧困家族が裕福な家庭を次第に乗っ取っていくサスペンス映画のような印象を受けるのだが、時にコメディ要素や残酷な描写を挟んで観客を翻弄する本作は、決して一つのジャンルに分類できる単純な展開には終わらないのが見事!



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加えて、エンタメ作品としても充分面白い本作が、観客や批評家からこれほど高い評価を得ている大きな理由は、その深い余韻と問題定義を観客に残すラストシーンにある。

一見すれば、自分たちの生活のために周囲の人々を欺いたキム一家には当然それなりの代償が伴うという教訓と同時に、家族の強い絆や将来への希望をも抱かせる素晴らしいラストに思えるのだが、「計画を立てても、その通りにはならない」という、キム一家の父親のセリフをどう受け取るか? によって、実はラストの意味が全く違ったものになってしまう点も、鑑賞後の余韻を更に深いものにしてくれるのだ。

もちろん、詳しい内容やネタバレは知らずに観た方がいいのだが、一度鑑賞した後で見返すと、より細かい描写や伏線が分かって更に楽しめる、この『パラサイト 半地下の家族』。

果たして、キム一家の将来に待つのは希望か、それとも絶望なのか? それは、ぜひご自身の目で観て判断頂きたいのだが、できれば内容に関する情報が拡散する前に劇場で観ることを、強くオススメする。

最後に



鑑賞前の予想を覆す衝撃の展開に加えて、映画の中だけの話とは到底思えないテーマや内容となっていた、この『パラサイト 半地下の家族』。

実際、日本でも給与の額がなかなか上がらず、雇用形態も非正規雇用が増えてきているなど、多くの人々が将来や生活への不安を抱えながら生きているだけに、本作で描かれる半地下の部屋に住む家族の描写は、国や文化を超えて多くの人々が共感できるものと感じたのも事実。



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例えば、この二つの家族が互いに良い影響を受けて、最終的に双方の価値観が変わったり人間的に成長すれば感動的なドラマになり得るし、突然の侵入者に自分たちの生活を奪われる恐怖を描けば、ホラーやサスペンスに仕上げることもできるだろう。

だが、本作は時にコメディ要素を盛り込みながら全く予想もつかない展開へと観客を案内し、最終的に我々の意識を変えてくれる素晴らしい内容となっている。

加えて、そこで描かれるのは能力があってもチャンスに恵まれなかったり、一度沈んだ人間は容易に這い上がれないという残酷な現実であり、更には生活の安定や居住環境がその人の人格をいかに左右するかなど、様々な現実的問題に他ならない。

特に印象的だったのは、キム一家が家族全員で宅配ピザのパッケージ組み立ての内職をするシーンや、不良品がありすぎて自分の娘くらいの年齢の店長から注意される父親の描写だった。

今は笑って見ていられるが、数年後には日本でもこれが身近に感じられるようになるかも? そんな想いがどうしても消えなかったからだ。

そんな厳しい生存競争の中、貧困から這い上がることを夢見たキム一家に残された唯一の希望こそは家族の絆であり、失業中であろうとも父親を敬う息子の存在が、本作のラストをより感動的なものにしてくれているのは、間違いない。

しかも前述した通り、避難所で父親が語った言葉に注意して映画を観ると、ラストシーンに隠された別の側面が見えてくる点も、実に上手いのだ。

先の見えない現代社会を反映し、言葉や国を超えて多くの観客が感情移入できる作品となっただけに、本年度のアカデミー賞ノミネート発表の瞬間を楽しみに待ちたいと思う。

(文:滝口アキラ)

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