映画コラム
『フォードvsフェラーリ』が最高すぎる!車要素抜きでも大感動の理由とは?
『フォードvsフェラーリ』が最高すぎる!車要素抜きでも大感動の理由とは?
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
マット・デイモンとクリスチャン・ベール、この二大スター競演でも話題の映画『フォードvsフェラーリ』が、1月10日から日本でも劇場公開された。
先日発表された第92回アカデミー賞ノミネートでも、作品賞を含む4部門にノミネートされただけに、かなりの期待を胸に鑑賞に臨んだのだが、その反面、車に興味の無い観客には楽しめないのでは? そんな不安も強かった本作。
果たして気になるその内容と出来は、どのようなものだったのか?
ストーリー
自動車レース界でフェラーリが圧倒的な力を持っていた1960年代半ば、エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)はフォード・モーター社からル・マン24時間耐久レースでの優勝を命じられる。
宿敵フェラーリに打ち勝つ新車開発と同時に優秀なドライバーの確保に励む彼は、型破りなイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)に目をつける。フォード社の重役たちとの確執により、次々と障害が発生する中、二人はフェラーリに勝利するため力を合わせて試練を乗り越えていくのだが…。
予告編
レースシーンに負けない感動のドラマは必見!
やはり本作の見どころは、地を這うようなカメラアングルと迫力満点のエンジン音が描き出す、レースシーンのスピード感や臨場感にある。
これに加えて、スタート直後の予期せぬトラブルにより、予定通りの走りが出来ずにピットインを余儀なくされたり、スタート直後のクラッシュに巻き込まれる後続車の大事故など、まさに"サーキットには魔物が棲む!"を地でいくかのようなリアルなレース展開が楽しめるのも、車好きにはたまらない魅力と言えるだろう。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
もちろんレースだけでなく、男同士の友情や夫婦愛、更に父と息子の絆など、感動の人間ドラマがきちんと描かれている点も、これほど多くの観客から高い評価を得ている理由に他ならない。
こうした人間ドラマを支えるのが、凄腕レーサーのマイルズを演じる、クリスチャン・ベールの素晴らしい演技であり、特に経済的な理由により一度は家族のためにレースの道を諦めたものの、シェルビーからの要請に再びレーサーとして復帰する際の妻との会話は必見!
ここでの夫の夢を尊重し全力で支える妻の愛情も泣かせるが、終盤のル・マン24時間耐久レースのテレビ中継を見守る妻と息子の姿を見せることで、彼らの存在こそがマイルズの心の支えであり勝利へのエネルギー、そう観客に理解させるのも実に上手いのだ。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
加えて個人的に感銘を受けたのが、ラストのル・マン24時間耐久レースにおいて、主人公のマイルズの車が現在どんな位置・状況にいて、どうなったら優勝できるのかを、運転免許を持たない自分のような観客にも充分に分かるセリフや描写で描いてくれている点だった。
こうした観客への細かい配慮は作品の各所に散りばめられており、目まぐるしく順位や状況の変わるレースシーンが観客に分かりやすくなっているのも、実はこうした工夫によるものなのだ。
レースのシーンが長いから飽きてしまうのでは? そんな理由で劇場での鑑賞を躊躇されている方がいたら、迷わず劇場に足を運ぶことを強くオススメします。
実は父と息子の絆を描く物語だった!
すでに多くの方がネット上で発言されているように、フォード側の視点から描かれる物語のため、タイトルと違って実際は、フォード社の経営陣vsレーシングチームの職人魂! といった内容に仕上がっている本作。
例えば、フォード社のレース参戦には会社の経営の建て直しや、企業のイメージ戦略という大命題が与えられているため、優秀だが扱いづらいマイルズのようなドライバーは、大企業のシステムにおいては異質なものとして排除・迫害されることになってしまう。
自身もドライバーだったシェルビーには、フォード社とマイルズ両者の立場が分かるだけに、彼はサーキットの現場クルーとフォード社の重役との間で、非常に難しい立場に立たされることに…。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
そんな彼が自ら運転する車にフォード社の社長を乗せて、マイルズの出場を直訴するシーンは本作の中でも屈指の名場面であり、そこには本作の裏テーマである"父親と息子の絆"が見事に描かれているのだ。
シェルビーの運転により、プロのレーサーの走りを体験させられたフォード社の社長の意外な反応と、その後に語ったセリフには、亡き父への愛情と家業である自動車会社への深い想いが込められており、映画の序盤で非情なビジネスマンに見えたこの男の中にある少年の心を見事に表現していると感じた。
この描写があることで、マイルズと息子の関係性や、父親から息子に託される自動車という存在の大きさなど、カーレースの裏に隠された"父親と息子の絆"というテーマが浮かび上がる点も実に上手く、ラストシーンで、マイルズの息子にシェルビーが渡した工具こそ、マイルズが出来なかった父から息子に対する遺志と遺産の譲渡に他ならない。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
とはいえ、ドライバーのテクニックだけでなく、車の性能や耐久性が勝負のカギとなるラストの展開は、やはり『フォードvsフェラーリ』のタイトルに嘘は無い! そう思わせてくれるのも事実。
アメリカの車社会において、自動車という存在が家族や親子を繋ぐ重要な文化であったことを見事に描く本作こそ、車に興味の無い方や女性にぜひ観て頂きたい作品なので、全力でオススメします!
最後に
自分が特別な存在でいられるレースの世界に魅せられた男たちの、人生を賭けてル・マン24時間耐久レースに挑む姿が感動を呼ぶ、この『フォードvsフェラーリ』。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
ただ、多くの方がネットで発言されているように、タイトルから受ける二大自動車会社の熾烈な争いといったイメージよりは、レースに賭ける男たちの友情や、それを影で支える家族との絆、更にはフォード社という巨大企業のシステム対クリエイター達の自由といった内容になっているのは間違いない。
こうした高いドラマ性により、幅広い観客層が楽しめる内容に仕上がっている本作だが、加えて自動車レースに馴染みのない観客にも分かりやすい言葉や描写で、レースのルールや現在の順位・状況を伝えようとする配慮には、映画の中のマイルズと息子のような親子での来場者への気配りが込められているように感じた。
ただ欲を言えば、悪役として強烈な印象を残すフォード社副社長のレオ・ビーブが、結局何の報いも受けずに終わってしまうので、鑑賞後にどこかモヤモヤした気持ちが残ってしまう点は否定できない。
逆に言うと、それだけビーブを演じたジョシュ・ルーカスの悪役っぷりが素晴らしかったことの証明なのだが、ここはやはりマイルズが最後に一発殴って拍手喝采! くらいのサービスがあってくれればと思ったのも事実。
ここはぜひ、成長してフェラーリのドライバーとなったマイルズの息子がレースで優勝し、今はフォードの社長となったビーブに、シェルビーから渡された工具を投げつける! そんな続編のストーリーを思い浮かべて、鑑賞後のモヤモヤを解消するのがオススメです!
(文:滝口アキラ)
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