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2020-05-25

コラム

『ザ・キング』検事の頂点を目指せ!成り上がり大エンタメ作の「3つ」の魅力!




第8回:『ザ・キング

延期になっていた新作映画の劇場公開日も徐々に決定し始め、本格的な映画館再開まであと一歩という状況の中、自宅やスマホで手軽に映画を楽しめる各種配信サービスは、今や映画好きにとっての必需品となっています。

ただ、検索機能がいまいち使いにくかったり、各配信サービスによって微妙にラインナップが違うなど、毎回の作品選びに悩んでいるという声が多いのも事実。

そんな方たちのためにAmazonプライム・ビデオで配信中の韓国映画から、毎週オススメ作品を紹介するこの連載。

今回取り上げるのは、2018年日本公開の韓国映画『ザ・キング』です。

ケンカに明け暮れていた不良少年が、あることをきっかけに猛勉強を開始! ついに司法試験に合格し検事として権力の中枢を目指すという内容の本作。

日本でも検察官の定年延長法案が問題となっているだけに、鑑賞するには絶好のタイミングなのですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


ケンカ好きの貧しい青年だったパク・テス(チョ・インソン)は、暴力ではなく権力で悪を制する検事に憧れ、猛勉強の末に夢を実現して新人検事となり、地方都市で多忙な日々をスタートさせる。
だが、ある事件をきっかけにソウル中央地検のエリート部長ガンシク(チョン・ウソン)と出会い、平穏だった彼の人生は激変。他人を踏み台にして出世し、富も名声も手にしたガンシクは、裏で暴力組織とも繋がり大統領選挙を利用して権力をつかんだ“1%の成功者”だった。正義の仮面の下に隠された正体を知ったテスは、次第に悪の魅力に染まっていくのだが、制裁の刃はすぐそこまで迫っていた……。


見どころ1:不良少年のサクセスストーリーと見せて、実は!



本作の主人公テスは、ケンカに明け暮れていた不良少年から、検事へと転身を果たす青年として登場します。

横暴な父親も逆らえない検事の権力に憧れ、必死の努力と意外な才能により司法試験に一発合格、検事としてスタートを切ることになったテス。

ところが、薄給な上に毎日の残業という厳しい現実に直面し、ガンシクという巨大な悪の存在に魅せられた彼は、検察の中でも上位1%の選ばれた存在に入るため、次第にその人生を狂わせていくことになるのです。

こうしたストーリーだけ見ると、政治の裏側を描いた難しい作品と思われそうですが、序盤の不良少年時代のエピソードに代表されるように、主人公のテスが非常に魅力的な男として描かれていたり、駆け出し検事の厳しい現実を味わったテスが、より強い権力を求めて悪事に手を染めていく様子など、実際は『グッドフェローズ』や『日本で一番悪い奴ら』を思い起こさせるような、エンタメ要素満載の内容に仕上がっています。



加えて、単に不良少年が権力と金を求めて成り上がるストーリーではなく、自分が行おうとした正義を捻じ曲げられたことで主人公が権力の重要性に目覚め、次第にその虜になって自滅していく内容は、韓国における検察機構や政治の腐敗の根深さを我々に教えてくれるのです。

中でも印象に残るのは、テスが権力に目覚めるきっかけとなった"ある事件"でしょう。

教師による女子生徒への暴行事件を扱うことになったテスは、有力者の息子ということで不起訴・示談になっていた加害者を起訴に持ち込もうとする中で、後に彼に大きな影響を与えるエリート検事ガンシクと出会うことになります。

被害者の母親が知的障がい者だったため、わずかな示談金で示談にされてしまった事件に、被害者の境遇への想いや加害者への憤りから、正当な裁きを受けさせようとするテス。しかしガンシクの理不尽なパワハラにより、苦渋の決断で起訴を見送ることになってしまうのです。

しかし、この時味わった屈辱と挫折がテスに権力の重要性を再認識させ、検事の頂点に立つ"1%の成功者"であるガンシクの元で着実に出世の道を歩んでいくのですが、それと同時に、幼馴染で今は裏社会の一員となったドゥイルとも運命的な再会を果たすことになります。

表舞台で成り上がった幼馴染のテスのため、裏の汚い仕事を引き受けるドゥイルですが、正義の仮面に隠れて悪事を働く検察や政治家たちに比べて、実はドゥイルの方が友情や恩という損得抜きの感情で行動する描写は、この映画で描かれる善と悪の境界線の複雑さを見事に表現するもの。

加えて、不良少年時代の幸せな記憶の象徴であるドゥイルの存在が、テスをもう一度正しい道へと引き戻し反撃を決意させる終盤の展開は、この二人の変わらない友情や人間の良心の勝利を描いていて実に見事!

政治の駆け引きに呑み込まれても変わらない男たちの友情は必見です!

見どころ2:30年にわたる韓国の現代史が描かれる!



1980年~2010年の、実に30年にわたる激動の韓国現代史が描かれる本作。

実際の歴代大統領の映像を交えて、大統領選の裏で暗躍する検察の姿や裏社会との癒着など、韓国の政治の裏側が描かれる点も大きな魅力なのですが、一般の検事たちが薄給な上に連日の残業を強いられていることも描かれるので、テスが次第に悪の魅力に染まっていく展開にも説得力が生まれることになります。

中でも印象的なのは、大統領選挙でどちらの候補に付くかで、その後の検事たちの出世や処遇に大きく関係してくることから、対立候補に不利な情報やスキャンダルを支持する大統領陣営に渡す描写は、検察という正義のイメージを大きく覆すもので実にリアル。特に祈祷師に頼んで対立候補の落選を祈るなど、韓国特有の文化が描かれる点も、非常に興味深いと言えるのです。

さらに、ガンシクの意に反して当選した対立候補が辞任に追い込まれ、辞任後に彼が投身自殺したことを伝える実際のニュース映像は、検察の腐敗や癒着がもはや手の届かないところまで入り込んでしまった事実を、観客に実感させてくれて実に見事!

こうした時代の移り変わりの中、ついに女性の監察部検事によってガンシクたちの不正に捜査が入るのですが、実はこの女性検事も実在の人物をモデルにしているのです。

強大な権力を持つガンシク逮捕の足がかりとして、家族の問題や女性関係などを抱えるテスに追求の手が伸びたことで、事態を恐れたガンシクは彼を地方に左遷して切り捨てようとするのですが…。

ここからテスが見せる反撃も見どころなのですが、30年にわたる韓国の政治の変遷が描かれるだけに、『1987、ある闘いの真実』や『タクシー運転手~約束は海を越えて~』と合わせて鑑賞すると、90年代以降の歴代韓国大統領や社会情勢の変化がよく理解できる、この『ザ・キング』。

鑑賞しながら韓国現代史が学べる内容なので、お家時間にぜひ!

見どころ3:主人公が放つ一発逆転の秘策に注目!



エリート検事ガンシクの元で着実に富と権力を手にしていくテスですが、ある女性検事の追求が自身に伸びたことでガンシクから切り捨てられ、次第に破滅への道を歩むことになります。

悪事に手を染めて権力を手にした主人公が、最終的に全てを失って破滅したり、逆に警察に協力して生き残ったりするのは、過去の類似作品でも見られた定番の展開と言えますが、本作が素晴らしいのは、全てを失ったテスが一発逆転の行動に出る点!

検事の職を追われ全財産を奪われたテスが、今は検事長となったガンシクにどうやって正当な裁きを受けさせるのか?

これから鑑賞される方のために詳しく書くことは控えさせて頂きますが、最後に残された人脈をフルに使って、人生最大の賭けに出るテスの心情に観客が十分共感できるだけに、「なるほど、この手があったか!」そう思わされることは確実な名案、とだけ言っておきましょう。

加えてタイトルの『ザ・キング』に隠された真のキング=王様の存在が明かされるラストには、きっと多くの方が共感・納得できるはず!

検察と政治家の暴走や横暴に対する抑止力は、国民の存在に他ならない。そんな力強いメッセージを、ぜひ受け止めて頂ければと思います。

最後に



衝撃的な冒頭のシーンや歌って踊るチョン・ウソンの姿など、まだまだ見どころの多い本作ですが、やはり魅力的なのは、悪の道を選択しながらもどこか憎めない主人公テスのキャラクターでしょう。

横暴な父親も逆らえなかった検事の権力に憧れ、必死の努力と意外な才能により司法試験に一発合格、検事としてスタートを切ることになったテス。

ところが、地方都市で働く検事の厳しい労働環境を味わった彼は、ガンシクという巨大な権力の象徴に吸い寄せられるかのように、次第に悪の道に足を踏み入れていくのです。

そんな彼の人生にとって重要な分岐点となるのが、前述した教師による女子生徒への暴行事件なのですが、ここで特に重要なのは、この事件を起訴できず再び示談にさせられたテスに届けられた、被害者の母親からの弁当に添えられた手紙の存在でしょう。

この手紙が何に書かれていたか? この細かい描写だけで母親の貧しい暮らしぶりと、テスの無力さや絶望感が見事に表現されている上に、社会的に弱い存在の味方であるべき検事の本分を観客に伝えてくれるからです。

こうした過去の経験を経て、ガンシクに取り入ることで権力を得ようとしたテスが、最後にもう一度自分の力で正義の裁きを受けさせるための行動に出る展開は、過去の間違った選択や被害者である女子学生への贖罪をも意味するもの。

全てを失い絶望の淵に立たされたテスが、実は過去の誤った選択を未だに後悔していることが描かれるなど、善と悪が割り切れない複雑な世界での、生き残りを賭けた闘いが繰り広げられる、この『ザ・キング』。

映画の後半ではかなりの暴力シーンも登場しますが、ラストまで楽しめる大エンタメ作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)