『時間回廊の殺人』は母の愛を描く感動作!驚愕の展開が待つ「3つ」の魅力!
第9回:『時間回廊の殺人』
Amazonプライム・ビデオで配信中の韓国映画の中から、毎週オススメの作品を選んでご紹介しているこの連載。
今回取り上げるのは、2018年日本公開の韓国映画『時間回廊の殺人』です。
実は、2013年に製作されたベネズエラ映画『マザーハウス 恐怖の使者』のリメイク版である本作。
予想外の展開と感動のラストが待っている傑作として、オリジナル版も非常に評価が高いだけに、南米が舞台の設定をどうやって韓国の風土に置き換えるのか? 個人的にも非常に興味があった作品ですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?
ストーリー
1992年11月11日、閑静な住宅街で起こった殺人事件で、夫(チョ・ジェユン)と息子を殺害したとして被害者の妻で母のミヒ(キム・ユンジン)が逮捕される。しかし、息子の遺体は見つかっておらず、ミヒ自身は無罪を訴えたにも関わらず、懲役30年が求刑されてしまう。
事件から25年後、仮釈放されたミヒは、行方不明の息子を捜す手がかりを求めて事件現場となった家に戻り、そこで何者かの気配を感じ取る。一方、受刑者のケアを担当しているチェ神父(オク・テギョン)は、頑なに心を閉ざしているミヒの過去を調べていく中で、惨劇の舞台となった家にまつわる驚くべき過去を突き止めるのだが…。
魅力1:実はオリジナル版も傑作だった!
冒頭でも触れた通り、今回ご紹介する韓国映画『時間回廊の殺人』は、ベネズエラの映画『マザーハウス 恐怖の使者』のリメイク版。
その日本版のポスターデザインからは、完全にホラー映画としか思えない『マザーハウス 恐怖の使者』ですが、観客の予想を超える展開と感動のラストで、ユーザーからも高い評価を得ている作品となっています。
こちらもAmazonプライム・ビデオで配信中なのですが、これから鑑賞される方のために、簡単にあらすじを紹介しておきましょう。
『マザーハウス 恐怖の使者』あらすじ
1981年のベネズエラ。ドゥルセは失業中の夫と2人の息子の4人で、ささやかな生活を送っていたが、兄弟が遊んでいた最中の不幸な事故で、弟のロドリゴは亡くなってしまう。
11月11日の深夜11時過ぎ、家の中で夫ホセが殺され、長男のレオポルドがこつ然と姿を消すという事件が起こる。
ドゥルセは警察に逮捕され、夫と息子を殺害したとして終身刑を言い渡される。
30年後の2011年11月、30年ぶりにドゥルセが保釈され、自宅である家に戻ってきた。
保釈された老女のカウンセリングを担当することになった神父は、30年前の事件の謎に迫っていくことになる…。
韓国版と同様に、謎の殺人事件と突然の子供の失踪で観客を一気に惹きつける冒頭部分や、その後の二転三転するストーリーが素晴らしい作品なのですが、特に、それまで断片的に描かれていた伏線が一気に回収され、予想外の真実が明らかになる後半の展開には、観ていて思わず「そう来るか!」と、声を出してしまったほど。
言葉や文化の壁を超えて、韓国でリメイクされたのも納得の傑作サスペンス映画なので、こちらもオススメです!
魅力2:ホラー映画と思わせて、実は!
冒頭からいきなり父親が殺され、更に母親の目の前で長男が消え去るという意外な展開に、観ている側も「これはホラー映画なのか?」、そう思って引き込まれてしまう本作。
1992年11月11日の夜、ある家族に起きた謎の殺人事件。その真相が回想シーンで明かされるのと平行して、現在の年老いたミヒとチェ神父が、屋敷に隠された秘密に迫っていく様子が描かれていきます。
その調査の過程で、殺人事件の舞台となったウィルソン洞34番地に建てられた家は、1984年にミヒ一家が越してくる以前から幽霊屋敷として有名であり、1967年の11月11日にも、母親と娘二人の一家失踪事件が起きているなど、実は1942年に日本軍の将軍夫婦が失踪して以来、25年ごとの11月11日に必ず住人が失踪する事件が繰り返されていたことが判明するのです。
事件が起きた夜、家にいた何者かによって夫が殺され、そいつらが息子を連れて行ってしまったと主張するミヒの言葉が、観客には事実だと分かっているだけに、その謎の多い展開や描写に対する謎解きが最大の見どころとなっている本作。
オリジナル版と同じ風貌の霊能力者による交霊の儀式が行われるなど、『呪怨』や『インシディアス』のようなホラー映画を思わせる展開ながら、最終的に母親の深い愛情が奇跡を起こす感動のラストへと繋がる、この『時間回廊の殺人』。
当初は悪霊や亡霊の仕業に見えた、数々の超常現象に隠された意外な真実は、ぜひ本編でご確認頂ければと思います。
魅力3:韓国版独自のアレンジが光る見事な脚本!
基本的なストーリーや設定など、かなりオリジナルに忠実な韓国版ですが、子供たちが遊ぶ駄菓子屋の老婆や地相鑑定士が登場したり、子供を叱るときに、ある物でムチのように叩くなど、実は物語の舞台を韓国に移行するために様々な工夫が施されていることに気付かされます。
中でも秀逸なのは、物語の重要な要素である教会や神父の登場に違和感を覚えないよう、ミヒをクリスチャンに設定したり、事件の舞台となる屋敷が、水脈の流れや風水的に特別な場所に建っていることを地相鑑定士が解明するという、独自のアレンジでしょう。
ただ、韓国版では殺人事件の起きた屋敷の秘密に、第二次大戦中の日本軍が関係してくるという独自のアレンジが加えられているため、オリジナル版では単にセリフで触れられるだけだった屋敷の秘密が、より詳しくビジュアルで解説されることになります。そのため兄弟の関係性や父親の苦悩など、オリジナル版で重点が置かれていた部分が弱まってしまった感が強いのも事実なのです。
実際、冒頭で描かれた殺人事件へと発展する過程にも、オリジナル版では父親の行動に十分納得できるだけの描写が積み重ねられているのですが、韓国版ではホラー要素が増えてしまったため、幼馴染の少女に対する淡い恋心や、次第に追い詰められていく父親の精神状態など、母親の再婚により家族となった人々の関係性が崩壊していく人間ドラマが薄まっている点は、よりエンタメ方向へとシフトさせた韓国版の残念な点と言えるかもしれません。
最も変更が加えられているのは、やはりヒロインが再婚した相手の設定でしょう。オリジナル版の再婚相手は失業中でありながら、家族のために何とか仕事を見つけようと努力している実直な男として登場します。そんな夫に対して冷たい態度を取る、妻のドゥルセ。この二人のすれ違いが、ある決定的な出来事によって後の惨劇へと発展する展開は、幸せそうな家族に訪れる悲劇的な結末を、より盛り上げてくれるのです。
それに対して韓国版では、再婚相手が刑事にも関わらず浮気していたり酒癖が悪い男として描かれており、長男ヒョジェの持っていたメモに書かれた内容も、より具体的に書かれているなど、早い段階で後の惨劇への予感を観客に与えることになります。
このように、非常に複雑な設定で展開する物語を、より分かりやすく観客に伝えるための工夫が施されている韓国版ですが、中でも、子供に対する母親の愛情に加えて、母親に対する子供の想いが描かれている点は、目上の者を敬う韓国文化を反映させた、素晴らしいアレンジと言えます。
こうして、南米の設定を見事に韓国へと移行することに成功している本作は、オリジナル版に匹敵する素晴らしい内容なのですが、やはり両方を見比べてこそ、その素晴らしさが実感できるのも事実。
家族の崩壊や子供たちの絆を中心に描いていたオリジナル版に対し、惨劇の舞台となる屋敷に秘められた謎や、ホラー映画的演出を多用してよりエンタメ性を高めたのが、この『時間回廊の殺人』と言えるでしょう。
この韓国版を観てからオリジナル版を観ると、ドラマ部分や登場人物の関係性が更に深く描きこまれていることが分かるので、お時間あればぜひ2作品を見比べて頂ければと思います。
最後に
映画の冒頭から登場する殺人事件やショック演出に、てっきりホラー映画と思った方も多いはずの本作。
しかし、次第に明らかになる事件の真実や、過去と現在を巻き込んだ衝撃の展開は、映画を観る喜びと謎解きの面白さを存分に味わせてくれるものとなっているのです。
更に前述した通り、基本的にオリジナル版を踏襲している韓国版ですが、ラストで母親に突きつけられる選択は、実は両者で真逆のものとなっています。
オリジナル版では、子供のために自分の人生を犠牲にする母親の決意や愛情が描かれるのに対して、この韓国版では無実の罪で犠牲になった自分の人生をやり直すかどうか? その選択が子供から母親に与えられることになるのです。
最終的に母親が取る行動は同じなのですが、子供の側が自分を犠牲にして、報われなかった母親の人生を正しい方向に直そうとする展開は見事!
何故ならこのアレンジにより、ラストの行動に込められた母親の愛情がより際立つことになるからです。
加えて、25年の厳しい獄中生活に耐え、自身も喉頭ガンになりながら、再び忌まわしい記憶が残る我が家に戻ってきたミヒの目的には、自分が25年前に救えなかった息子への想いが込められているのですが、この25年という年月が人々の人生を救う重要なカギとなる展開は必見!
作品の性質上、できれば極力ネタバレ無しで観て頂きたい作品ですが、一度鑑賞した後でもう一度見返すと、その巧妙に張り巡らされた伏線の数々に気付かされる、この『時間回廊の殺人』。
邦題の中にかなりのネタバレが含まれてしまっているのが残念ですが、母親の愛情と子供たちの変わらぬ友情が涙をさそう感動作なので、全力でオススメします!
(文:滝口アキラ)
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