『ザ・ネゴシエーション』、『愛の不時着』の二人が対決する「3つ」の見どころ!
第15回:『ザ・ネゴシエーション』
毎週Amazonプライム・ビデオで配信中の作品から、オススメの韓国映画をご紹介している、この連載。
今回はプライム対象(見放題)タイトルではなく、課金作品として配信中の昨年8月日本公開の韓国映画『ザ・ネゴシエーション』をご紹介します。
現在Netflixで配信中の人気韓国ドラマ『愛の不時着』の主演コンビ、ヒョンビンとソン・イェジンの共演だけでなく、ヒョンビンが悪役を演じたことでも話題の作品なのですが、気になるその内容と出来は、いったいどのようなものなのでしょうか?
ストーリー
ソウル市警危機交渉班の警部補ハ・チェユン(ソン・イェジン)は、事件現場で犯人との交渉中に人質と犯人の両方を死なせてしまう。
それから10日後、事件に大きな責任を感じて辞表を提出しようとしたハ・チェユンのもとに、突然の応援要請が入る。ミン・テグ(ヒョンビン)と名乗る人物が、タイ・バンコクで危機交渉班のチーム長と韓国人記者を拉致し、ハ・チェユンを交渉相手に指名してきたのだ。彼は外事課が以前から追っていた、国際犯罪組織の武器売買業者のリーダーだった。
二人を拉致した動機や、要求・目的も不明なミン・テグの行動に対し、情報不足から有利な交渉の糸口を掴めないハ・チェユン。特殊部隊の人質救出作戦まで残り14時間、何とかそれまで時間を稼がなければならない。警察を嘲笑い、残忍な人質ショーを繰り広げるミン・テグと、数日前に起きた事件のトラウマに苛まれながらも、今度こそ人質の命を救おうと交渉を進めるハ・チェユン。果たして二人の交渉の行方は…。
見どころ1:犯人の目的は?二転三転するストーリー!
ソウルの良才洞(ヤンジェドン)で、突然発生した人質立てこもり事件。
女性に刃物を突きつけて、逃走用のヘリを要求する犯人との交渉も満足に行われないまま、強行突入で犯人を逮捕しようとする班長に対し、30分だけ猶予をもらい犯人との交渉に臨むハ・チェユン警部補ですが、彼女が巧みな話術と心理操作で説得を試みる中、班長が強行突入を開始! 残念ながら事態は最悪の結果に終わってしまいます。
この事件に責任を感じ、目の前で人が死ぬことに耐えられなくなったチェユンは辞表を提出するのですが、その受理を待つ中、ある重要な人質事件の交渉人として、ソウル市警の庁長から指名を受けて犯人との交渉に当たることに。
タイのバンコクで人質を拉致監禁しているミン・テグと名乗る男と、モニターを通して交渉を試みるように命じられる彼女ですが、すでに空軍の特殊部隊が人質救助のために現地に派遣されており、極秘作戦が開始されるまでの間、出来るだけ時間を稼ぐことが彼女の役割であることを知らされます。
タイで消息を絶った韓国人記者を拉致したミン・テグですが、更にチェユンが辞表を提出する原因となった事件で強行突入を指示したチョン班長も人質に取られていることが判明! 強行突入の実行までに残された14時間でミン・テグを説得し、二人の人質の命を救おうとするチェユンですが、交渉中のある出来事により冷静に犯人と対話することができなくなり、遂には交渉役から外されることに。
こうして国家情報院に交渉が引き継がれるのですが、犯人側に有利な状況にも関わらず、何故かミン・テグはチェユンとの対話を要求。彼女が復帰するまで、交渉は打ち切られてしまいます。
一度は交渉役から外されたものの、同じく交渉から排除されたソウル市警外事課のハンから、人質となっている記者の意外な正体や、ミン・テグが関わっていた悪事の全貌を知らされたチェユンは、ある個人的な理由もあって自分たちのチームで犯人を逮捕しようと決意するのです。
人質救出作戦実行までのタイムリミットが刻一刻と迫る中、国家情報院から入手したミン・テグの資料を分析し、モニター越しに彼との対決に臨むチェユン。再び二人の頭脳戦が展開する中、ミン・テグの要求に隠された真の目的が次第に明らかになっていくのですが…。
国家情報院との交渉を拒否し、あくまでもチェユンとの交渉を要求するミン・テグの狙いとは? そして、チェユンのチームは独自の捜査で事件を解決に導くことができるのか?
最後まで二転三転するストーリーとその意外な結末は、必見です!
見どころ2:『愛の不時着』の名コンビの共演!
『愛の不時着』の名コンビの共演が話題の本作ですが、それぞれが全く違うイメージの役柄を演じている点も、ファンにとっては大きな魅力と言えるでしょう。
まず、ソン・イェジンが演じるハ・チェユン警部補は、非番の日に参加した合コン会場からそのまま人質立てこもり事件の現場に車で乗りつけるような、有能な警察官として登場します。
交渉相手からのビデオ通話を一方的に切ったり、大統領府国家保安室の人間に毅然とした態度で接する彼女の仕事上の姿勢と、こうした私生活でのギャップが、このキャラクターに深みを与えてくれるのですが、特にミン・テグに関する情報や、事件の状況が分からないまま捜査本部に呼ばれたチェユンが、一瞬でその場を掌握して自分が主導権を握る描写は、その後の対決に大きな期待を持たせてくれるもの。
加えて、合コン用のミニスカート姿のチェユンが、警察車両内で周囲の目を気にせず平気で着替える描写や、英語を喋る犯人の説得に手間取っている班長の変わりに現場に呼ばれたことが分かるなど、彼女の仕事に対する有能さが自然と観客にも理解できることで、ミン・テグとの互角の対決に説得力が生まれる点も実に上手いのです。
対してヒョンビンが演じるミン・テグは、韓国製の武器取引に手を染める凶悪なマフィアのボスとして登場します。
凶悪なマフィアのボスでありながら、表面上は笑顔で穏やかに話すミン・テグとの交渉が始まるのですが、一度怒るとその凶暴な本性を明らかにするなど、次第に彼の凶暴が見え隠れすることに。
孤児で海外を転々としていたため、国内資料や過去に関する情報がほぼゼロに近いミン・テグに対し、チェユンはモニターに映る情報だけを手がかりに、交渉への糸口を見つけようとします。
全く面識のないチェユンを交渉相手に指名したり、1時間以内に大韓日報の社長を呼べと要求するなど、その行動に謎が多いミン・テグですが、交渉の主導権が次々に入れ替わる中、彼の奥の手やその正体が次第に明らかになり、同時に一見凶悪な犯罪者に見えた彼の真の目的や、国家と企業を巻き込んだ軍需不正を巡る陰謀の存在が浮かび上がってくるのは見事!
ラブコメとは180度違った二人の新たな魅力を、ぜひご堪能頂ければと思います。
見どころ3:モニター越しの対話劇と見せて、実は!
人質が監禁されているタイのバンコクと、遠く離れたソウルの捜査本部を繋ぐパソコンのモニターを通して、決死の交渉が繰り広げられる本作。
特に映画の序盤では、他愛のない会話の中でお互いの性格や思考を読み取ろうとする、二人の熾烈な駆け引きが描かれるのですが、犯人からの要求に対して、すかさず人質の安否確認を要求するチェユンの描写など、お互い一歩も引かない腹の探り合いでありながら、外見上は穏やかな世間話のように進んでいくのは見事!
こうした演出により、チェユンの交渉人としての能力の高さと、突然凶暴さを見せるミン・テグとの対比が際立つことになる点も、実に上手いのです。
ただ残念ながら、物語の設定上、パソコンのモニターを通しての対話が続くため、直接対面しての共演を期待するファンにとっては、若干物足りなさを覚えるのも事実。ひょっとして二人のスケジュールの都合? そんな大人の事情も考えてしまうのですが、そこは多くのファンを裏切らない展開が用意されている、とだけ言っておきましょう。
身代金や利益目的と思われた人質事件が、国家規模の緊急事態にまで発展する中、最後まで人質救出への交渉を続けようとするチェユンがたどり着いた事件の真相とは? そして、ミン・テグと人質を亡き者にして全ての陰謀を闇に葬ろうとする国家情報院の計画を阻止できるのか?
コロナウイルス禍で映画やドラマの撮影中止や内容変更が余儀なくされている現在、この内容と描き方であれば現在の状況でも問題なく撮影できるのでは? そう思わされてしまう、この『ザ・ネゴシエーション』。
今の状況で観ると更に面白さが増す、まるで時代を予見したかのような内容が素晴らしい作品なので、全力でオススメします!
最後に
凶悪な犯罪者と交渉人がモニター画面を通じて人質解放への交渉を進める中、次第に犯人の真の目的や、その背後に隠された国家規模の陰謀が次第に明らかになっていく、この『ザ・ネゴシエーション』。
お互いに手の内を隠し、少しでも交渉を優位に進めようとするチェユンとミン・テグが繰り広げる駆け引きや頭脳戦も、本作の大きな見どころですが、中でもヒョンビン演じるミン・テグの悪役っぷりは素晴らしく、実は潜入捜査官だった! という、よくある展開などではなく、ある個人的な理由により捨て身の行動に出た、この男の複雑な内面を見事に表現してくれています。
例えば、交渉中のある出来事をきっかけにして、チェユンはこの残酷な犯人に対して激しい怒りを覚えるのですが、ヒョンビンの演技力によって、この犯人が単なる悪役には終わらず、その裏に秘められた悲しみや巨大な悪への怒りが観客にも伝わり、ラストシーンで見せるチェユンの決意の表情がより際立つのは見事!
映画中盤からの転換と盛り上がりや、映画の冒頭から事件のヒントや伏線が巧妙に仕掛けられているなど、その練りこまれた脚本の素晴らしさはもちろん、あえて恋愛要素を絡ませず、ヒョンビンに非情な悪役、ソン・イェジンに強い女性を演じさせるなど、新たな試みが満載の作品に仕上がっている、この『ザ・ネゴシエーション』。
『愛の不時着』で二人を知ったという方、『愛の不時着』ロス後の作品選びに迷っている方にこそ、ぜひ観て頂きたい作品です!
(文:滝口アキラ)
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