『罪の声』レビュー:過去の事件の真相を追うことで浮かび上がる“今”という時代
(C)2020「罪の声」製作委員会
最近は日本映画も実在の事件などをモチーフにした社会派サスペンス作品が増えてきている感があり、いずれにしてもアニメ映画やキラキラ青春映画など若者向けの作品だけではなく、こうした大人をターゲットにしたものも続々登場してくれている事象そのものは、ジャンルの選択の幅も広がり、喜ばしい限りではあります。
そんな中、最近のこの手の作品で個人的に最も感銘を受けたのが『罪の声』でした。
戦後昭和の中でも太文字で記されるべき未曽有の犯罪事件をモチーフに、平成の後期に発表された塩田武士の同名小説(2016年の週刊文春ミステリーベスト10第1位を獲得)を原作に、新しくも混沌を極めて久しい令和の今、映画化されたもの。
しかも小栗旬&星野源という二大スターの競演で!
実在の事件を基にしているといっても、ここで繰り広げられるスリリングな展開そのものはフィクションです。
しかしながら……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街515》
いくら時代が移り行こうとも、犯罪と、それに巻き込まれてしまった人間の哀しみは永遠に変わることがないという事実を、本作はエンタテインメントの名のもとに見事に描き切っているのでした!
事件に加担していた知った男と
事件の真相を追う男との邂逅
(C)2020「罪の声」製作委員会
映画『罪の声』の概略は、まず……京都で父から受け継いだテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、偶然、自分の幼いときの声が収録されたカセットテープを見つけます。
調べてみると、それは今から35年前に起きた食品会社を標的とする一連の企業脅迫“ギン萬事件”で脅迫状として用いられていたテープと同じ音声でした。
自分が犯罪に関与していたのか? と慄然となる曽根……。
この事件、警察やマスコミを挑発し続ける劇場型犯罪として類を見ないほどの衝撃を日本中に与え、なおかつ犯人は未だに逮捕されておらず、真相も明らかにはなっていません。
一方、かつて社会部として奮闘していたものの、その後文化部に回されていた新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、そういった既に時効も成立している未解決事件の真相を追う特別企画班のひとりとして抜擢され、取材を続けていました。
しかし、既に過去のものとなって久しい事件をほじくり返すことに、一体何の意味があるのか?
最初は乗り気ではなかった阿久津ではありましたが、まもなくして彼は曽根と出会います。
事件に関して最初は口をつぐんでいた曽根ではありましたが、やがてこの事件に自分も含む3人の子どもたちが関与していた事実を知り、阿久津に協力する決意を固めます。
阿久津もまた、この事件が単に過去のものではなく、追い求めることに意義があることを、曽根との交流などを通して学んでいきます。
なかなか糸口が細いまま、事件の真相に辿り着くのは困難ではありつつ、それでも真実を追い求めようとする両者の執念は徐々に実りを見せていきます。
そして辿り着いた衝撃の真相とは……?
小栗旬&星野源の二大スターが導く
奥深くも哀しい犯罪と人間の関係性
(C)2020「罪の声」製作委員会
本作の魅力は、単に1980年代半ばに発生した未解決事件の真相を推理していくことの面白さに留まらず、犯罪に巻き込まれてしまった者たちの悲劇にこそ焦点を当てていることではないかと思われます。
その意味でも今回、小栗旬と星野源というふたりの好もしいスターが醸し出すオーラは、見る側を素直に作品世界の中に導いてくれるのと同時に、彼らを通して、どんな大義名分があろうとも「犯罪は犯罪でしかない」という厳粛たる事実を改めて強く知らしめてくれること必至。
ちなみに本作は、事件の被害者や関係者が今なお多数実在していることを鑑みて、人名や企業名などすべて架空のものに替えられていますが、こうした配慮も今後ますます重要な課題になってくるかと思われます。
特に本作の場合、マスコミ(つまりは伝える側)の罪にも言及している節が多々あり、特にSNSなどで誰でも気軽に情報発信できる今、そしてこれからの時代、見る側もそうした本作のメッセージは大いに受け止めておくべきでしょう。
監督は『いま、会いにゆきます』や『ビリギャル』などヒューマン・タッチの作品にさらなる潤いを与えることに長けた土井裕泰。
今回も奇をてらう事のないオーソドックスな語り口で、真摯にドラマを見せこんでいこうという誠実な姿勢には好感が持てるところです。
私自身、当時のあの事件にニュースなどで触れるたび、何とも陰湿で不気味、そして大衆を嘲笑うかのような雰囲気に辟易していたことを思い出しますが、今の時代、その嘲笑的な姿勢はどんどん一般的なところにまで降りてきてはエスカレートしているような危惧を、本作を通して改めて痛感させられてしまいました。
その意味でも、見事なまでに“今”を描いたエンタテインメントとして一見をお勧めします。
(文:増當竜也)
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