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『おらおらでひとりいぐも』レビュー:75歳女性、心のジャズセッション!

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鑑賞後、実家の親に
連絡したくなる映画




このように本作は、ひとり暮らしの孤独な女性の心情を決して深刻ぶることなくユーモラスに、そして破天荒に、時に素っ頓狂でファンキーなファンタジック空間などを交えながら、あたかもジャズセッションのような情緒を伴わせながら描いていきます。

もっともユニークなのは、ヒロインの心の声として登場する3人が女性ではなく男性であることで、そのちぐはぐな賑やかさもまた、意外なまでに老境に達した彼女の内面を巧みに象徴し得ていると言っていいでしょう。

久々の主演映画となった名優・田中裕子ですが、ここでも肩の力を抜きながら飄々と好演しており、特に多くの同世代女性のシンパシーを得ること必至。

また回想シーンでの若き日の桃子を演じる蒼井優も、いつもながらに達者な存在感を示してくれています。

46億年もの地球の歴史の中で、75年という人生を生き続けてきたこととは、一体どういう意味があるのか?

そんなことを考えているのかいないのか、いずれにしても桃子さんは「おらおらでひとりいぐも(私は私らしくひとりで生きていく)」といった心境に達しつつあるようです。

監督は『南極料理人』(09)で閉ざされた氷の世界で生活する観測員たちの日常を、『横道世之介』(13)ではなぜか忘れられない若き日に出会った青年の面影を、『滝を見に行く』(14)では滝ツアーに赴いたおばさんたちの遭難騒動を、そして『モリのいる場所』(18)では風変わりな老芸術家とその周辺の人々を、それぞれ温かなキャメラアイで描き続けてきた沖田修一。

今回も3人の“心の声”を登場させたり、家の中がいきなり歌謡ショーの空間と化したりといった賑やかな心象風景と日常の淡々とした描写を巧みにクロスさせ、夫の墓参りへ赴くクライマックスでは現在と過去をもシンクロさせた切なくも愛おしい時空超越ファンタジー・ワールドを展開(ここはもうお見事です!)。

老人を主人公にしていることで同世代の方が大いに共感できる作品に仕上がっているのはもちろんのことですが、若者や中高年くらいの世代も鑑賞後ふと故郷の親に想いを馳せてしまう……そんな気分にさせてくれる作品です(うちも母親がこれを見たら喜ぶだろうなあ、とも)。

ぜひ本作をご覧になった後、実家に電話なりメールなりしてみてください。

(文:増當竜也)
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