映画コラム

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2020年11月06日

葛飾北斎に関連する映画たち

葛飾北斎に関連する映画たち




現在、第33回東京国際映画祭(TIFF2020)が開催中です。

世界的なコロナ禍の中、海外からのゲストなど多くを望めない要素はあったものの、オンラインを駆使したイベントや世界中から集められた幅広いジャンルの作品ラインナップなど、映画ファンの興味を引く布陣は今年も魅力的です。
(個人的には『人情紙風船』など山中貞雄監督作品の4Kデジタル復元版などの上映に興味津々。かたや日本が誇る特撮ヒーローもの“スーパー戦隊シリーズ”を上映してくれるのも嬉しいですね)



 (C)2020 HOKUSAI MOVIE



その中で今回のクロージング作品は『HOKUSAI』(11月9日16時~)、その名のごとく世界的にリスペクトされている江戸中期の画家・葛飾北斎の狂おしいまでの生涯を橋本一監督が描いたもの。

若き日の北斎には柳楽優弥、老年期の北斎を田中泯、そして北斎の妻コトに瀧本美織、北斎ら絵師を育てるプロデューサー的存在の蔦谷重三郎(現在のTSUTAYAの基礎を築いた人物)に阿部寛、北斎のライバル喜多川歌麿に玉木宏など、多彩な演技陣が扮しています。

というわけで、今回は『HOKUSAI』上映を記念して、葛飾北斎にちなんだ映画をご紹介!

戯画化された描出の中から
人生を醸し出す『北斎漫画』





葛飾北斎の映画と聞いて、多くの映画ファンが真っ先に思い浮かべるのは新藤兼人監督の『北斎漫画』(81)でしょう。

ここでは北斎(役名は鉄蔵)に緒形拳が、その娘お栄に田中裕子、北斎の友人で密かにお栄を愛している滝沢馬琴(役名は佐七)に西田敏行、そして北斎ら男たちの煩悩を悩ませ苦しめ続ける“魔性の女”お直に樋口可南子が扮しています。

その他、十返舎一九(宍戸錠)、喜多川歌麿(愛川欽也)、式亭三馬(大村崑)狩野融川(観世栄夫)、蔦谷重三郎(大塚国夫)といった面々の登場もお楽しみの一つ。

原作は矢代静一の同名戯曲。

本来北斎漫画とは北斎が描いた絵手本(絵を習う人のために描かれた絵本)のことで、海外ではHOKUSAI SKETCHと呼ばれていますが、新藤兼人監督はこれを思いっきりエロティシズム全開に戯画化しながら、北斎の生きざまを滑稽かつダイナミックに描出。

冒頭、雨の中を走る北斎、その背景の建物なども書割の画になっているのを手始めに、リアリズムとは無縁の滑稽さを重視した漫画チックな演出の数々で、あの時代を駆け抜けた芸術家とその周辺の人々の凱歌を活写しています。

中でも見ものなのは、女性とタコがまぐわる様を描いた春画、通称「蛸と海女」に北斎が取り組んでいく諸所のシーンで、ここでは樋口可南子がそれを美しくも妖艶に体現していますが、タコに関しては完全に作りものと分かる造型で、その滑稽さがまた異様なまでの緊張感と迫力を醸し出しています。

老年期の北斎、お栄、そして馬琴の3人を映し出すクライマックスも、一見バラエティ番組を彷彿させるような老人メイクで名優たちが登場するのに驚かされますが、そこで繰り広げる老いの悲しみや、それでも衰えることのない性愛の欲求など、本作の公開時は69歳で老齢にさしかかっていた新藤兼人監督がその目線で人生を見据えた見事なシーンとなっています。

そして以後も新藤兼人監督は、その都度その都度の自身の年齢に応じた目線野で作品を撮り続け、齢100歳にして旅立つまで(2012年5月29日)、生涯現役監督としての人生をまっとうしてゆくのでした。

北斎の時代の芸術家が
登場する映画やドラマ


では、葛飾北斎の時代の他の芸術家を描いた作品にも少しだけ着目していきましょう。

北斎のライバルとしても謳われる浮世絵師・喜多川歌麿の「女を描きたい」という情念を描いた作品として、溝口健二監督の『歌麿をめぐる五人の女』(46)と、実相寺昭雄監督の『歌麿 夢と知りせば』(77)があります。




特に後者はエロス描写たっぷりで実相寺監督ならではの映像美学が満載。また彼以上に歌麿を演じられる役者はいないだろうと太鼓判を打つほどの、岸田森の名演も大いに特筆しておくべきでしょう。

なお、北斎には菅貫太郎、蔦谷重三郎には成田三樹夫が扮しています。

今なお“謎の絵師”としてさまざまな研究がなされている東洲斎写楽の真相に迫った作品として、皆川博子の小説を原作に篠田正浩監督がメガホンを取った『写楽』(95)が挙げられます。




写楽(ここでの役名は“とんぼ”)に扮するのは真田広之。歌麿に佐野史郎、十返舎一九(役名は“幾五郎”)に片岡鶴太郎、北斎(役名は鉄蔵)に永澤俊矢といった絵師たちはもとより、5代目・市川團十郎(中村富十郎)4代目・岩井半四郎(中村芝雀)、初代・市川男女蔵(市川圓蔵)といった歌舞伎役者、狂歌師・太田南畝(竹中直人)、戯作者兼浮世絵師の山東京伝(河原崎長一郎)など当時の芸術家たちが軒並み登場という、豪華絢爛なザッツお江戸アーティスト・エンタテインメントとしても屹立しています。

なお、蔦谷重三郎を演じたフランキー堺(『北斎漫画』では中島伊勢を演じていました)は、実はこの作品の企画総指揮&脚本(本名の堺正俊・名義)で、本作の映画化は写楽研究家でもあった彼の宿願でもあり、本作が公開された1年後の1996年6月10日にこの世を去りました。

さて、こうしたアーティストが多数闊歩していた時代は、おなじみの人気時代劇“必殺”シリーズとも同じくしていることが多々あります。

TVシリーズ13作目「必殺からくり人・富獄百景殺し旅」(78)ではお艶(山田五十鈴)を筆頭とする“からくり人”たちが、北斎(小沢栄太郎)による「富獄百景」の中に込められた殺しの依頼を遂行していくのでした。

「必殺スペシャル・新春決定版!大奥、春日野局の秘密 主水、露天風呂で初仕事」(89)にはTVの“初代・水戸黄門”で知られる名優・東野英治郎が北斎として登場。

そしてシリーズの顔でもある中村主水(藤田まこと)の最期を描いた映画『必殺!主水死す』(96)には、何と日本映画界を代表する映画監督・鈴木清順が北斎の役で登場しています。
(実は鈴木監督、俳優としても出演作多数の名優でもあったのでした)

(文:増當竜也)

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