映画コラム

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2020年11月27日

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』この悲劇をどこまで直視できるか?

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』この悲劇をどこまで直視できるか?



寒さもいよいよ本格化&新型コロナ・ウイルスも第3波の到来となり、外出を控える方もまた増えてきたのではないかと思われます。

もっとも、現在は配信などで手軽に映画やドラマなどの映像&音楽コンテンツに触れることができる時代。

iTunes StoreとGoogle Playでは様々な映画のレンタル100円セールを開催予定。これから師走に向けての心の感動を自宅で味わうのもまた良しとしたいところでしょう。

今回はそのセール作品群の中からラース・フォン・トリアー監督作品『ダンサー・イン・ザ・ダーク』をご紹介したいと思います。



悲劇と呼ぶには過酷すぎる
ヒロインの壮絶な人生

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は過酷な運命に翻弄されながら、愛する我が子のためにすべてを投げ打つ母親の姿を描いた作品です。

ヒロインはチェコからアメリカにやってきたセルマ(ビョーク)。

 彼女は工場で働きながら、シングル・マザーとして息子ジーンを育てています。

 年上ながらもセルマを母のように見守る親友のキャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)、何かにつけて息子の面倒を見てくれる隣人の警官ビル(デヴィッド・モース)夫婦、またセルマに密かな想いを寄せているジェフ(ピーター・ストーメア)など、貧しいながらも多くの人々の愛情に支えられながら、セルマは懸命に生きています。

そんな彼女には秘密がありました。



それは母子ともども徐々に視力が奪われていく先天性の病気に侵されていることで、セルマはせめて愛する我が子だけでも手術を受けさせようとお金を貯めています。

しかし、セルマは視力の悪化によって仕事のミスを連発させ、ついに工場をクビになってしまいます。

しかも、大事な手術代が盗まれてしまい……。

もう、ここから先の展開は怒涛のような展開となっていき、ネタバレしたくないというよりも、もう書きたくない! というのが本音なほどに過酷なことになっていくのでした。

常に観客に挑戦状を叩き続ける
ラース・フォン・トリアー監督

本作は2000年度のデンマーク映画で、日本ではちょうど20年前の2000年12月23日に全国公開されました。

当時はアイスランド出身で孤高のシンガーとして世界的人気を博していたビョークを主演(音楽も担当)に迎えた感動のミュージカル映画といったフレコミで、またその雰囲気に惹かれて多くの観客が劇場に詰めかけました。

カンヌ国際映画祭パルムドール&主演女優賞受賞といった冠も大きく影響していたと思われます。

しかし観客の大半は、まさかここまでの悲劇があって良いのか? などと愕然となる程の展開に言葉を失い、鑑賞後はすっかりトラウマになってしまうほどのインパクトをもたらし、またそれゆえに口コミが広がって、さらに多くの観客が詰め寄るといった現象が起きてしまったほどでした。

手持ちキャメラによる躍動感や、スピーディな場面展開も、見る者を捉えて離さない効果をもたらしていたように思われます。

現実のシーンはセピア色で、時折のミュージカル・シーンを明るく楽しく描くことで、その対比もまた人生のシビアさを濃厚に醸し出していきます。

監督のラース・フォン・トリアーはデンマーク出身の鬼才で、彼としては『奇跡の海』(96)『イデイオッツ』(98)に続く“黄金の心”三部作の最終編として本作に取り組んだとの由。

1995年に「すべてロケ撮影で、セット撮影を禁じる」「キャメラは必ず手持ち」など10個の〝純潔の誓い”を打ち立てた映画運動「ドグマ95」提唱者のひとりとして、それに応じた映画製作を進めてきたトリアー監督のミレニアム時期の代表作が、この『ダンサー・イン・ザ・ダーク』であることに異を唱える人はほとんどいないことでしょう。

ちなみにトリアー監督はこの後もどんどん映像表現が実験的かつ過激化していき、見る者に挑戦的姿勢を突き続けていきます。

特に性的表現は昔も今も多くの賛否を巻き起こすところで、そうこう考えながら振り返ると『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は彼の作品群の中では比較的おとなしめで見やすい類いのものなのかもしれません。

ラース・フォン・トリアー監督のさまざまな挑戦状に応えるための基礎として、まずは本作から始めてみるのも一興でしょう。

(文:増當竜也)

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