『天外者』レビュー:三浦春馬が演じる五代友厚の駆け抜ける幕末の青春
増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」
自分の出身地を舞台にした映画やドラマなどがあると、妙に張り切ってその作品に見参したくなることってありませんか?(私はあります)
自分の場合は鹿児島県出身で、最近ではNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」はもちろんのこと、映画でも『きばいやんせ!私』(19)『あまのがわ』(19)『かぞくいろRAILWAYSわたしたちの出発』(18)『ゆずの葉ゆれて』(16)など多数。
また先日“はやぶさ2”が地球に帰還したばかりではありますが、その前のはやぶさ1号機を打ち上げた大隅半島肝付町のロケット基地(正式名称は忘れたけど、地元の人は皆こう呼んでます。ちなみに私の故郷です)が登場する『はやぶさ/HAYABUSA』(11)『はやぶさ 遥かなる帰還』(12)『おかえり、はやぶさ』(12)が競作されたのも記憶に新しいところ。
これからの新作としては、『ビューティフルドリーマー』(20)に主演した映画監督の小川紗良が阿久根市を舞台に撮り上げた青春映画『海辺の金魚』が2021年初夏に公開予定とのことで、こちらも楽しみです。
さて、前置きが長くなりましたが、その鹿児島が生んだ偉人の中に五代友厚がいます。
明治維新に尽力したひとりで、明治時代は大阪経済界の重鎮として活躍した人物です。
同時代の西郷隆盛や大久保利通、また土佐の坂本龍馬や長州の伊藤博文、高杉晋作など交友範囲の広さでも知られています。
正直、西郷や大久保などに比べると具体的に何をやってたのか今ひとつ把握しきれてない人も多かったことでしょうが、NHK連続テレビ小説「あさが来た」(15~16)でディーン・フジオカ演じる五代友厚が登場したことで、全国的に知名度がアップした感もありますね。
その五代友厚の青年期(この時期は五代才助)を主体に映画化した『天外者(てんがらもん)』が12月11日から全国公開となります。
主演は三浦春馬。
惜しくも今年この世を去った彼ですが、映画でもドラマでも演劇でも、表現者への追悼はその作品を見ることによってなされるべきと個人的には思っていますので、ここではそれ以上のことは申しません。
(映画だけでも『君に届け』『アイネクライネナハトムジーク』など、好きな作品は多数ありますので)
それでも、本作の三浦春馬は真摯な熱を込めて、この五代友厚を見事に演じ切ってくれていることは、大いに讃えても差し支えないことでしょう!
ちなみに「てんがらもん」とは鹿児島弁で「凄絶な才能の持ち主」といった誉め言葉で、並外れた賢さと大胆な行動力を兼ね備えた五代にぴったり当てはまる言葉でもあるのでした。
幕末から明治をかけぬけた
“てんがらもん”の青春時代
五代友厚(三浦春馬)は1836年2月12日、幕末期の薩摩藩(現在の鹿児島県)の上級武士の家に生まれました。若い頃の名前は五代才助。
そして1853年、ペリーが黒船で浦賀に来航した頃、五代才助は坂本龍馬(三浦翔平)や岩崎弥太郎(西川貴教)、伊藤博文(当時は利助/森永悠希)らと知り合い、交友を深め合いながら開国論者として日本の未来を見据え続けていきます。
もっともその先見性ゆえに、坂本龍馬ともども命を狙われることもしばしば……。
1863年の薩英戦争でイギリス軍の捕虜になったり、1865年にはそのイギリスに薩摩藩遣英使節団のひとりとして留学したり、またかねがね知り合いであったグラバーと手を組むなど、実業家としての才覚をどんどん身に着け、発揮していくようになります。
そんな才助に惹かれる長崎の遊女はる(森川葵)。
映画の前半は、才助とはるの恋を織り交ぜながら幕末期の才助を、そして後半は明治時代に突入し、政府の要職を辞して大阪商工会議所の初代会頭として君臨していく五代友厚の姿が描かれていきます。
エネルギッシュで破天荒、そして
どこか耽美な五代友厚=三浦春馬
本作は五代友厚の歩んだ史実に沿いつつ、プライベートな面などに関してはフィクションも織り交ぜて進行していきます。監督は『火天の城』(09)『利休にたずねよ』(13)『海難1890』(15)といった歴史ものに定評があり、一方では『サクラサク』(14)などのさだまさし原作作品をみずみずしく撮り上げた田中光敏。
脚本も上記を手掛けた小松江里子が担当しており、特に今回はこの監督とこの脚本家、双方の資質が巧みに融合され、エネルギッシュで破天荒な五代の青年期がみずみずしくも時に艶やかで耽美に描かれているのが妙味ともいえます。
前半の森川葵、後半で伍代の妻となる豊子を演じる連佛美沙子の存在も、そうした艶に大きく貢献しているといっていいでしょう。
また田中監督とは名コンビである大谷幸の音楽も、今回はファンキーなノリを重視しており、かなり狙っているなとニンマリさせられます。
また何よりも、周囲に嫌われつつも決して我を曲げない頑固さを嫌味なく演じ切っているのも、三浦春馬ならではの個性の賜物かと思われます。
個人的には明治に突入してからの、晩年の五代友厚をもっと見たかったという想いもあります。
それでもラスト、1885年9月25日に彼が逝去し(意外に早く亡くなってるのですね)、その通夜にまつわる一幕は、なかなかに“てんがらもん”の生涯に敬意を表した優れものに仕上がっていました。
と同時に、そのまま三浦春馬の追悼にも成り得てしまっていると思った瞬間、ウルッと来てしまったことも、正直に告白しておきます。
(文:増當竜也)
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