『空蝉の森』レビュー:製作時のトラブルを凌駕する意欲を感じられるサスペンス映画
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
酒井法子主演で2014年に撮影されながらも、制作会社の倒産などの憂き目に遭い、長らく公開が見送られていた幻のサスペンス映画がようやく公の場にお目見えとなりました。
3か月間失踪していた妻・結子(酒井法子)が保護されて自宅へ戻るも、夫・昭彦(斎藤歩)は彼女を「妻ではなく、別人だ」と主張。
夫婦の家の防犯カメラが、外向きではなく内向きに据えられている異様さに気づく失踪課の假屋警部(柄本明)。昭彦の愛人(長澤奈央)の存在。昭彦の精神カウンセラー(西岡徳馬)と結子の意味深な関係性。
そして失踪者を調べるのが趣味のジャーナリスト(金山一彦)は、島で民宿を営む女性(角替和枝)からある事実を告げられます……。
公開までの諸事情を鑑みるに、ある程度は作品のぎくしゃく感も否めないかと思って見始めると、これが意外なまでに映画的。
濃い緑の色調を活かした引き画の長回し撮影が実に効果的で、ミステリアスな情緒と鬱蒼とした緑=森の対比が、次なる展開を早く見せてほしいという気にさせられます。
監督は『私の奴隷になりなさい』などの亀井亨ですが、こういったこだわりはラブシーンが皆無であるにもかかわらず、ヒロインの被虐的艶めかしさまで見事に描出しています。
ただし、クライマックスからラストにかけての展開が、いきなり「?」「?」「?」となってしまうのは、やはりこの作品が何某かのトラブルに見舞われたことを物語っているようにも思えてならず、こういったところで映画製作の困難さや残酷さを改めて痛感させられてしまったのは残念至極。
作り手の意欲が垣間見えるだけに、その無念さは尚更なのでありました。
(文:増當竜也)
『空蝉の森』作品情報
ストーリー
3ヶ月の失踪後突如帰宅した妻・結子(酒井法子)を夫・昭彦(斎藤歩)は「別人」だと主張。退職直前の失踪課の假屋警部(柄本明)は、新人刑事に「あの家の防犯カメラは、外向きでなく内側向きだった」と指摘する。夫の精神カウンセラー・山井(西岡德馬)に、「夫は祖父の遺産をもらえなくなるから、私が戻ってきたら困るはず」と相談する結子。結子の前に夫の女(長澤奈央)まで現れる一方、失踪者を調べるのが趣味のフリージャーナリスト・青柳(金山一彦)は、島で民宿を営む佐藤(角替和枝)に会いに行き…二転三転する物語の行き着く先は…予告編
基本情報
出演:酒井法子/斎藤歩/金山一彦/池田努/長澤奈央/角替和枝/西岡徳馬 柄本明監督・脚本:亀井亨
製作国:日本
製作年:2016
公開年月日:2021年2月5日
上映時間:117分
配給:NBI(協力:アルミード)
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