映画コラム

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2019年01月19日

『ヴィクトリア女王 最期の秘密』の「5つ」の魅力!カワイイおばあちゃんと実直な青年との“関係性萌え”が詰まっていた!

『ヴィクトリア女王 最期の秘密』の「5つ」の魅力!カワイイおばあちゃんと実直な青年との“関係性萌え”が詰まっていた!



(C)2018 Focus Features. A Comcast Company. 



1月25日より、映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』が公開されます。本作は実話に基づいた歴史ものの映画で、邦題にはややお堅い印象もあるかもしれません。しかし、実際の本編はかなり親しみやすく、エンターテインメント性も存分に高い、万人におすすめできる内容であったのです! その魅力を大きなネタバレのない範囲で、たっぷりと紹介します。

1:カワイイ関係性に萌え萌え! 
尊みが五臓六腑に染み渡る!


本作の最大の魅力であり、幅広い方にオススメできる理由を先に言ってしまいます。それは「キュートなおばあちゃんと実直な青年がおともだち」「身分または年の差を超えた信頼と友情」という“関係性萌え”があることです。とにかく主人公の2人がカワイイ……愛おしい……尊い……もう一度言うけどカワイイ……KING OF KAWAII……!これだけが訴えられたらもう本望です。お願いですから映画館で観てください。

その尊みが五臓六腑に染み渡るシーンの数々は実際に観てほしいので具体的には書きませんが、キュートなおばあちゃんのほうが女王であるがゆえの居心地の悪さを大いに感じており、天真爛漫でもあるインド人従者の青年が彼女を癒してくれるばかりか、身分など気にすることなく“先生”になっていくということが重要です。おばあちゃんが長年溜め込んでいた“本音”を漏らし、青年はただただ実直に(時には“天然”に)その言葉に向き合います。しかも、青年はおばあちゃんに勉強したいと頼まれたインドの言葉だけでなく、さらに大切なことを教えていくのです。

女王は最愛の夫を亡くして長年心を閉ざしてきたけど、従者の青年は王室のしきたりなんかガン無視して、まっすぐに自分に微笑みかけてくれるため次第に心を許すようになる……その後も2人は恋人未満だけど親友以上の関係が続いていき……ああ!もう!観ている間じゅう「しゅき」「素晴らしすぎます」「尊さ測定器5000兆点」「仰げば尊死」「はあ〜〜〜っこれっ、はぁ〜〜〜!ふう〜〜〜〜……好き……」な感じにならざるを得ません。最高ではないですか!

ちなみに、本作の原題は『Victoria & Abdul(インド人従者の名前)』です。つまりは「この2人の物語やで!この2人の尊みが詰まった関係性を描いているんやで!」ということがタイトルから訴えられているんです! それを期待する方はしつこいようですが観ましょう!



(C)2018 Focus Features. A Comcast Company. 



2:“異文化交流コメディ”としてクスクス笑える!
 「なんだこれ?」な食事会が開かれる!


本作のさらなる重要なポイントは、コメディとしてクスクス笑えることと、それが(後述しますが)後半のとある“切ない”展開にも密接に絡んでいることです。例えば、インド人従者である青年が宮殿にやってくる冒頭のシーンが、良い意味で「なんだこれ?」な雰囲気になっているのです。

どういうことかと言うと、盛大で厳かな雰囲気の食事会が開かれるものの、当の女王は豪快ないびきをかきながら豪快な居眠りをしているのです。いざ料理が運ばれると女王はものすごい早さで乱雑に口に運び、来客たちは“女王が食べ終わったら問答無用で皿を下げられる”という理不尽な目に遭います。誰もが「バカじゃないの?」となるおかしみがありますが、同時にこれだけで女王がこれまでも“決まり”を押し付けられており、「はいはい」と事務的に処理してきたか……という過去も想像できるようになっているのです。(以下の予告編でもちょっとだけ観られます)



その他でも、初めてゼリーを見た時の青年のリアクション、詳細は語りませんが“ピクニック”の顛末、インドの文化を知らなかった女王や宮殿の人々の驚きと戸惑いなど、やはりクスクス笑えるシーンがたくさんあります。これは、ローマの建築技師が日本のお風呂にタイムスリップする『テルマエ・ロマエ』などにもある“異文化のギャップ”による楽しさなのです。



(C)2018 Focus Features. A Comcast Company. 



3:後半からは“差別意識”も見えてきて…? 
インドと英国の歴史を知るという意義もあった!


クスクス笑えるコメディであると前述しましたが、映画の後半からは良い意味で笑えない雰囲気にもなっていきます。どういうことかと言うと、劇中ではインド人従者に対しての差別的な見方が徐々に表れていき、そこには出世のために彼の評判を貶めても構わないという、いやらしい価値観で宮殿の人間が行動していることが明らかになるからです。

こうした窮屈な人間関係、他からやってきた誰かを差別的に見てしまうというのは、残念ながら現代でも起こりうることです。それは気兼ねなくクスクス笑えていたはずの異文化とのギャップとは紙一重のことでもあり、他人事ではないと身につまされる方も決して少なくはないでしょう。この差別的な感情に対してド正論をぶつけ、彼らへの“抵抗”としてとある決定をする女王の姿は痛快愉快でもあるのですが、同時に自身の立場も危うくなっていく様は切なくて仕方がありませんでした。

なお、本作の時代背景は1887年。インドが英領になってから27年のことです。その歴史の詳細がわからなくても劇中では十分に「どのようなことがあったか」が示されていますし、とある衝撃的な事実は女王を苦しめることにもなります。そのため、インドと英国の関係性を何も知らないという方が観てこそ(むしろそのほうが)忘れてはならない歴史を垣間見られるという意義があるでしょう。

また、本作でメインに描かれるのは、小難しい政治的な意向やお偉いさんたちの問答ではありません。女王の抱えている悩みは誰もが共感しやすいもので、彼女をまっすぐに慈しむインド人従者の姿も、はたまた差別的な考え方をしてしまう周りの人々も“あるある”として納得しやすいものなのです。歴史ものの映画でありながら親しみやすく、クスクス笑える一方で残酷な事実も顔を出し、(豪華絢爛な王宮を舞台としているのに)“庶民的”とすら感じる内容は『この世界の片隅に』に通じるところもありました。

ちなみに、本作は奇跡的に発見されたインド人従者の日記からドラマを組み立てており、もちろん事実からの改変もあります。その1つが、実際はヴィクトリア女王がインドの文化に憧れを抱いており、即位50年を機にインド人の従者を希望して呼び寄せていたのですが、映画では記念硬貨を献上する役目のために英国にやってきた青年が“たまたま”女王に気に入られた、という風に改変されているそうです。このほうが、2人に信頼が生まれたのは私利私欲や独善的な考え、はたまた国家間の関係から外れたことであるという説得力が増していると言えるでしょう。

さらに余談ですが、劇中でヴィクトリア女王が着ている黒いドレスは実は“喪服”であり、実際のヴィクトリア女王は夫が亡くなってから10年も公の場所に姿を見せず、残りの生涯の40年間もその喪服で過ごしていたそうです(喪服に合うジュエリーが発展したのはこのためでもあるのだとか)。豪華な衣装や王宮の内装からも歴史が見えるということもまた、本作の美点です。



(C)2018 Focus Features. A Comcast Company. 



4:ジュディ・デンチおばあちゃんの凄みのある演技を見逃すな! 
インド人従者を演じたのは『きっと、うまくいく』のあの人!


本作のさらなる大きな魅力は、やはりベテラン中のベテラン、『007』シリーズの“M”役や、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』などでおなじみのジュディ・デンチが主演を務めているということでしょう。前述したように実直な青年に心を許したり、厳かな食事会で眠りこけたり、時にはワガママを言ったり“いたずら好き”にも思える姿がとにかくかわいく“おばあちゃん萌え”が全開なのですが、終盤ではその顔をアップにした長ゼリフのシーンで魅せるなど、やはり凄みのある演技を披露しています。彼女のファンという方も、是が非でも観ないといけないでしょう。

さらに、インド人従者の青年を演じるのは、『きっと、うまくいく』で純粋であるがゆえに次第に追い詰められてしまう大学生を演じていたアリ・ファザルです。彼はこの役を演じるにあたって、当時の資料読みに没頭し、筆記やしゃべり方を含む訓練に2ヶ月を費やしたそう。見た目は大人ではあるけれど、心は子供のように天真爛漫で、女王の心をほぐしていく役として、これ以上は求められないでしょう。

ちなみに、ジュディ・デンチは『Queen Victoria 至上の恋』という映画でも同じくヴィクトリア女王を演じていた経験があります。こちらはスコットランドの使用人のジョン・ブラウンとの交流を描いた作品なのだそうですが……なんと現状ではDVDが発売されておらず配信サービスにもないようです。本作と合わせて観ると尊みが増すでしょうから、何としてでも観られるようになってほしい!



(C)2018 Focus Features. A Comcast Company. 




5:スティーヴン・フリアーズ監督の作家性とは? 
ユーモアと切なさが同居していた!


本作の監督はスティーヴン・フリアーズ。実話を基にした歴史ものの映画を数多く手がけており、それらには(監督本人が脚本を書く訳ではないのにも関わらず)とある一貫した作家性があります。『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』で主演の1人を務めていたヒュー・グラントのコメントが実に的確で、それは“慣例を覆す人々を描いている”ということです。

例えば、『あなたを抱きしめる日まで』では婚前交渉で妊娠しカトリックの戒律により修道院に収容されてしまった女性の生き様を、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』では“史上最悪のオペラ歌手”と世間で呼ばれていても彼女への愛は本物だった(?)夫を、『クイーン』ではダイアナ元皇太子妃が交通事故死した際のマスコミの報道と国民との世論のために対応を迫られる女王を描いていました。

いずれの作品も、どちらかが正しく、どちらが間違っているという単純な善悪の二元論ではなく、それぞれの立場や抱えている事情が痛ましく、同時に共感しやすく示されていることも共通しているのです。

今回の『ヴィクトリア女王 最期の秘密』でもそれは同様です。英国らしい階級社会を反映したような上下関係を描きながらも、ただ一辺倒に差別的な人たちを悪人にするのではなく、女王側にも行き過ぎた“虚勢”も見えるようになっていく……ただ歴史的な事実を並び立てているのではなく、どのキャラクターにも“人間くささ”が大いに見えてきて、同時に(英国の階級や文化という)“慣例を覆す”ことに信念を持つ人間の姿を描いていくということも、全くブレていません。

さまざまな人間の価値観が交錯する群像劇として、また偏向的にならない歴史ものの映画として、誠実なアプローチがされており、同時に十分なエンターテインメント性も担保されているということが、スティーヴン・フリアーズ監督作品の大きな魅力でしょう。

個人的に印象に残ったのは、女王が“駆け落ちの物語”を聞いた時のリアクションです。これもクスクス笑えるのですが、ただのコメディシーンというだけでなく、終盤の展開の皮肉にもなっているのです。センチメンタルなシーンが多くなる終盤はやや賛否が分かれるかもしれませんが、歴史的事実を大きく変えることなく、“クスクス笑えること”と“切なさ”を同居させる作劇は、やはり支持したくなりました。

ちなみに、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』のヴィクトリア女王は、『クイーン』でヘレン・ミレンが演じていたエリザベス2世の高祖母に当たります。しかもヴィクトリア女王の在位期間は63年と7ヶ月(!)と歴代最長だったのですが、2015年にエリザベス2世がその記録を突破したりもしています。同じ監督の作品でもある両者を合わせてみると、この女王の2人に“似た者同士”な印象もあって、さらに面白く観ることができますよ。

※『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』の紹介記事はこちら↓
□『マダム・フローレンス!』が最高級の音楽映画である5つの理由

おまけ: 2019年はこの“女王もの”映画もチェック!


総じて『ヴィクトリア女王 最期の秘密』は、主役の2人の関係性に萌え萌えになり(超重要)、スティーヴン・フリアーズ監督らしいユーモアと切なさが同居している作劇も見事、インドと英国の歴史ものとして誠実なアプローチがされているなど、親しみやすさとエンターテインメント性と歴史的な事実を知るという意義もあるという、本当に幅広い方におすすめできる内容になっていました。英国の豪華絢爛な衣装と内装、風光明媚な景色の数々は映画館でこそ堪能してほしいです。

さらに、2019年は以下の2つの“女王もの”映画も公開となるので、合わせてチェックしておくと良いでしょう。

1.『女王陛下のお気に入り』:2月15日公開




(C)2018 Twentieth Century Fox  



『ロブスター』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』などのヨルゴス・ランティモス監督による、女王と彼女に仕える2人の女性との愛憎を描いた人間ドラマです。巨大な権力の座を巡って、夫や恋人の奪い合いだけでなく、軍隊を動かせる地位を得ようとするドロドロ劇になっていくのだとか…。オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルトなどが豪華共演しており、映画情報サービスIMDbでは7.9点、Rotten Tomatoesでは94%という超高評価ですので、大期待しています。


2:『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』:3月15日公開




(c)2018 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 



『ハンナ』や『レディ・バード』のシアーシャ・ローナンと『スーサイド・スクワッド』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のマーゴット・ロビーの豪華共演によるドラマです。いとこ同士であり互いに複雑な感情を抱きながらも惹かれ合う2人が、男性社会の中で孤軍奮闘する姿が描かれるのだとか。聞くところによると『アナと雪の女王』のような印象もあり、こちらも女性2人の“関係性萌え”がある作品なのだとか……?もちろん、大期待しています。

(文:ヒナタカ)

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