映画コラム

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2021年02月12日

『KCIA 南山の部長たち』 レビュー:イ・ビョンホン主演で描く「自分か組織か」

『KCIA 南山の部長たち』 レビュー:イ・ビョンホン主演で描く「自分か組織か」



組織のため、ましてや国に御身を投じる人は、その信念を最後まで貫けるのだろうか。いつか個の自分が現れることはないのか。尊いと思っていた当初の目的の、その背中が遠のく瞬間はないのか。たとえば権力や金に目がくらむなどして。 

ウ・ミンホ監督の『KCIA 南山の部長たち』(2021年)は1979年に起きた韓国大統領暗殺事件の事実を、首謀者であり、のちに絞首刑となるキム・ジェギュ部長(イ・ビョンホン)の視点から描いた作品である。



KCIAとは大統領直属の機関であった韓国中央情報部のことである。軍事クーデターで権を奪還したものの、18年の長期にわたる独裁政権にはほころびが見え始めていたころ。当時の政権は内部告発もありアメリカをはじめ世界から動向が注目されていた時期であった。話は暗殺の日から40日前に遡り、大統領と、彼を支える二匹の虎(部長)が対立軸を成しながら描かれていく。  

権力を握り続けたいのか、引き際を見極めたいのか。本心がわからない大統領と、意のままに操ろうとするライバルの部長との駆け引き。キム部長はかつて大統領とともに闘った思いを胸に葛藤し策を練るが、次第に手詰まり感が出始める。崇高な目的に向かって邁進しているはずが、いつしか個に取り込まれていく(ように見える)。そこが最大の見どころであり、その境界線は観る人によって変わるだろう。監督も観客に委ねたいところではないか。  



緊迫感が続く、ポリティカルサスペンスだが、ワシントンDCやパリの街が登場することで、スクリーンにメリハリがついている。役者の表情によった緩みのない場面と、ヒキの絵はコントラストを生み、ほど良い息抜きにもなる。

また史実で、政治物となると小難しそうだがそこはきちんと作られていて、最終的にどこに戻るのかなど監督は観客を上手にリードする。韓国映画やドラマにはそう明るくないのだが、このあたりは韓国映画のクオリティの高さだろう。ほんの二言だけだがセリフに日本語が登場し、日本の統治があったことを表しているのも見事。深く語らずとも、彼らに消せない何かがあることを感じさせる。  

さて作品の焦点は、なぜキム部長は大統領を暗殺したか、のようだ。しかし答えは当然、表示されない。ラストには本人の写真が表れ、裁判中の肉声も流れる。ここを含めてどう感じるか。監督がなぜこの部分を切り取ったのかをずっと考えている。

(文:山本陽子)

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