『すくってごらん』尾上松也&百田夏菜子の好演が光る! “全編見どころ”になったワケ
2021年3月12日公開の映画『すくってごらん』。ドラマ「半沢直樹」への出演で話題を呼んだ尾上松也さんが映画初主演を飾り、ガールズユニット・ももいろクローバーZの百田夏菜子さんが映画初ヒロインを務めた話題作です。幻想的な美しさがあふれる本作の魅力をご紹介しましょう。
憎めない主人公&儚げなヒロイン
尾上さん演じる主人公・香芝誠は、ある失敗により地方へ飛ばされてしまった大手メガバンクの銀行員。オープニングから仏頂面でキャリーケースを引く様子に、「親しみやすいキャラクターではない」と感じてしまうかもしれません。実際ストーリーが進めば進むほど彼の性格がわかってきますが、同時にどこか人間臭さも感じ取れるのではないでしょうか。香芝誠というキャラクターの心の成長を、尾上さんが活き活きと演じきっていく様子はさすがのひと言。顔芸から歌唱パフォーマンスも含めて、作品をグイグイと牽引していくその姿を見ていつの間にか“憎めないキャラクター”になっているはずです。
そんな香芝が左遷先で出会うのは、金魚すくいの店「紅燈屋」を営む生駒吉乃。百田さん演じる和装姿の吉乃は物語の鍵となる“ある秘密”を抱えていて、香芝とは対照的にどこかミステリアスで儚げな雰囲気を醸し出したキャラクターです。情感あふれる映像美に溶け込む百田さんの存在感は、尾上さんと並んで本作の要に。リアリティとファンタジーが違和感なく同居する世界観において、トーンを抑えた百田さんの佇まいには香芝でなくても思わず引きこまれてしまうほどです。
ロケーションを活かした映像美
撮影がおこなわれた奈良県橿原市の情緒あふれるロケーションが美しい本作。日本の原風景ともいえる古き良き町並みそのものも見どころであり、そんな風情を最大限に活かした美術やセット、小道具、演出が全編を幻想的に彩ります。本作のファンタジー性を引き出している要素でもあり、画面の隅々にまで行き届いた“和”の趣向には目を奪われるばかり。
またフレーム内が情報過多になることはなく、1つひとつのモチーフがバランスよく配置されている点も真壁紀幸監督の手腕が光るところ。舞台装置も物語の一部として機能することで、セリフや演技と同じようにキャラクターの感情を補足する働きがあるように感じられます。前述のように全編を彩る幻想美は、まさに邦画ならではの醍醐味。鑑賞しているあいだ、そして鑑賞後も「もっとこの世界を見ていたい」と居心地の良さを感じるのではないでしょうか。
音楽映画としての魅力
映像美もさることながら、全編に散りばめられた歌唱パフォーマンスも実に魅力的。尾上さんの美声を堪能できるエッジの効いたラップ、百田さんのピアノ演奏や主題歌はもちろん、王寺昇役の柿澤勇人さんや山添明日香役の石田ニコルさんが披露するナンバーも、作品を引き締める重要な役割を担っています。ちなみに音楽を担当したのは、東方神起やEvery Little Thingといった有名アーティストへの楽曲提供も多い鈴木大輔さん。本作は映像と音楽の繊細かつ大胆な融合によって生まれた一級のエンターテインメントであり、閉塞的な時代を打破する、いまこそ劇場で観るべき作品であることは間違いありません。
文章では表現しきれないほど見どころ満載の『すくってごらん』。タイトルが出る瞬間はまさに鳥肌ものの演出なので、オープニングからエンディングまで、ぜひともスクリーンの隅々にまで目を凝らしながら楽しんでくださいね。
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(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社