2021年04月04日

『グッドバイ』レビュー:どこにでもいそうな女の子の、父と家族への切なく寂しげな想い

『グッドバイ』レビュー:どこにでもいそうな女の子の、父と家族への切なく寂しげな想い



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

友人の頼みから保育園で一時的に働くことになった、ヒロインさくら(福田麻由子)の物語。

彼女はそこで出会った園児の父親(池上幸平)に、自分が幼い頃から離れて暮らす実父(吉家章人)と似たものを感じたのか、徐々に惹かれていきます……。

割かし何でもソツなくこなしつつ、家では母親(小林麻子)に頼り気味の、一見どこにでもいそうな女の子。

しかしながら、どこかファザー・コンプレックスを寂しく内包しているかのようでもある、そんなヒロインの心情を繊細に描く新鋭・宮崎彩監督作品です。



是枝裕和監督の下で映像制作を学んだというだけあって、ヒロインの日常描写や、保育園の中での園児との交流シーンなどの自然さが大いに好感の持てるところ。

もっとも、総じて演出が素直すぎる程に気持ちよく、おかげで次の展開が割かし読めてしまうほどなのは良し悪しでもあり、父親役の双方の男性俳優の雰囲気が似ているのも妙味ではあれ、園児の父親のほうは佇まいなどを少し作り込みすぎているきらいもありました。



新進若手監督の今後の課題として、そうした演技のバランスなどにも一層気を配っていただきたいものと、こちらも素直に独白させていただきます。

一方で幼児が別れ際にヒロインへ放つ「また明日」と「バイバイ」という言葉の違いはストレートに見る側へインパクトをもたらしてくれていて、本作のモチーフを巧みに象徴している印象も受けました。



こうした素直さを今後どんどん長所として活かしていければ、この監督の作品を「グッドバイ」ではなく「また見たい」といつまでも思わせてくれる、そんな期待も抱いています。

主演の福田麻由子の飾らない好演も、巧みに演出をリードしてくれているように映えていました。

特にラスト・シーンのほのかな艶めかしさは、映画のその後をスリリングに想像させてくれるものすらあり、その意味では本作の中で最も映画的情緒にあふれた名シーン足り得ていたと思います。

小さな作品ではありますが、さりげなくも応援したくなる佳作として、作り手にいろいろな感想を寄せていただきたいと願っております。

(文:増當竜也)

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(C)AyaMIYAZAKI

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