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『21ブリッジ』の「5つ」の魅力!チャドウィック・ボーズマンの凄みを思い知った理由を解説

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3:「行きすぎた正しさ」を持つも「理性的」という複雑な主人公像



もう1つの本作の大きな魅力は、チャドウィック・ボーズマンが演じる主人公の複雑なキャラクターにもあります。彼は警察官の父を殺害されながら自身も警官となり、苦悩しながらも捜査をしていくという人物であるのです。

スマートなのは、そんな主人公のキャラクターを、開始数分で端的かつ、説明的にならない形で示していることでしょう。例えば、オープニングで少年時代の主人公は父の葬儀において、神父から「良心に従うこと」「善悪の判断を他人に左右されないこと」「今はまだわからないだろうが、君は得たはずだ。13年での父の教えは、他者が得る一生分より濃い」などと、「正しさ」そのものの言葉を聞いているのです。

しかし、大人になって警官となった主人公は、9年で8人に発砲したことを「全て正当なもの」と言う上に、「正義の対価」としてのその犠牲があったことを主張するなど、幼い頃に父が殺害されたことに起因する、「行きすぎた正しさ」を持っているとしか思えない、危うい人間になっていました

しかし、そのような危うさがあるはずの彼は、同時に「誰よりも理性的」でもあるのです。何しろ、「刑事になってからは殺したのは3人か」と問われると、「4人だ。1人は終身刑なんだ」と返すなど、自分が命を奪った人間を冷静に捉えていたりもするのですから。そして、彼は実際に凶悪な事件が起こっても、落ち着いてに1つ1つの問題を処理し、なおかつ「凶悪犯を問答無用に殺害する」ことにも、いの一番に反対していたりもするのです。

「行きすぎた正しさ」と「理性的」というのは、相反するようでいて、実は同時に存在し得るという複雑なキャラクターを、チャドウィック・ボーズマンはその佇まい、そして「ここぞ」いう時に噴出する怒りの表情で、見事に演じ切っているのです。

もちろん、表情だけでなく、チャドウィック・ボーズマンの身体能力も大いに生かされています。ほとんど「パルクール」のような追跡アクションは、闘病中であることを全く感じさせません。

4:不意に見せる「笑顔」にも注目



捜査の過程で、主人公がまさかの「笑顔」を見せる瞬間も印象的でした。ブライアン・カーク監督もチャドウィック・ボーズマンとの撮影で一番印象に残っていることもその笑顔であり、「存在感があって、懐が深くて、彼のすべてが笑顔で表現されていたんじゃないかと思う」とまで語っていたそうです。

この笑顔は、物事を冷静に見つめすぎている、それこそ「ロボット」のようにさえ思えていた主人公の、「人間性」をはっきりと表した瞬間でもありました。そのことが、終盤のとある衝撃的な出来事にも重要な意味を与えていたのです。

なお、ブライアン・カーク監督がチャドウィック・ボーズマンにオファーをしたのは、「ひとりの人間としても役者としても、演じるキャラクターに尊厳と知性と高潔さを沁み込ませることができる人だったから」というのが理由だったのだそうです。

確かに、行きすぎた正しさ、しかし理性的、でも時には不意に笑顔も見せて、尊厳と知性と高潔さも漂わせる……このような役を見事にこなしたチャドウィック・ボーズマンは本当に唯一無二の俳優であり、つくづく惜しい人を亡くした……と思うばかりでした。

5:Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』も観てわかること

この『21ブリッジ』と合わせて、ぜひ観てほしい映画があります。それはNetflixで配信中の『マ・レイニーのブラックボトム』。こちらは事実上の、チャドウィック・ボーズマンの遺作なのです。



Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中


『マ・レイニーのブラックボトム』は、ブルースの母と呼ばれた実在の黒人シンガーのマ・レイニーの姿を追った映画であり、原作が戯曲ということもあって、ほぼほぼレコーディングスタジオのみで展開する会話劇となっています。チャドウィック・ボーズマンが演じるのは、他メンバーとたびたび衝突してしまう、野心家のトランペット奏者でした。

そして何が驚いたって……チャドウィック・ボーズマンが『21ブリッジ』や『ブラックパンサー』の時とは、全くの別人にしか見えないということ! この『マ・レイニーのブラックボトム』におけるその役は、粗野で自信過剰で独善的な、とても褒められたような性格ではない、未熟で生意気な「若者」にさえ見えるのですから。「年齢さえも違って見えるってどういうことなんだ!」と、つくづくその演技力に驚嘆せざるを得ないのです。

しかも、ひどい人物に思えたその役が、自身の過去を語り出した時には、その言葉が「魂の叫び」のようになります。『ブラックパンサー』で黒人たちのヒーローとなったチャドウィック・ボーズマンが最後に演じたのが、「黒人の怒り」を体現したような人物であったということ、それを全身全霊の熱演で表現したことがまた感慨深くもありました。彼の主張と呼応するような、ヴィオラ・デイヴィス演じるマ・レイニーの言葉にも、胸を引き裂かれるような衝撃がありました。

エンターテインメントに特化したアクションサスペンスの『21ブリッジ』と、とても小さな範囲の物語から豊かなドラマを紡ぎ出した『マ・レイニーのブラックボトム』、どちらもチャドウィック・ボーズマン以外のキャストは考えられない、その熱演がびっしりと記録された映画でした。改めて、豪冥福をお祈りします。

(文:ヒナタカ)

参考記事:「21ブリッジ」現役&元警察官の出演でリアルさを追求 監督が明かす舞台裏 (映画.comより)
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