2021年05月20日

『いのちの停車場』レビュー:スター性とドラマ性、社会性をもってメジャーの気概を示す初々しくも野心的意欲作

『いのちの停車場』レビュー:スター性とドラマ性、社会性をもってメジャーの気概を示す初々しくも野心的意欲作


■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

在宅医療をモチーフにした映画は高橋伴明監督の傑作『痛くない死に方』および、そこで奥田暎二が演じた人物のモデルとなった医者の日常を追ったドキュメンタリー『けったいな町医者』が今年公開されたばかりですが、在宅医療そのものの実情にリアルに迫ったその2作に比べて、こちらの成島出監督作品『いのちの停車場』は今や「日本映画界最後のスター女優」でもある主演・吉永小百合の個性とオーラに即しながらドラマ性を強調したオーソドックスな作品に仕上がっています。



ユニークなのは外科医としては大ベテランだったヒロインが、大学病院を去って在宅医療の任に就いてしばらくの間、意外と新米先生としてあたふたしているところで、いくつになってもこうした初々しい風情が似合っているのが吉永小百合ならではの映画スターとしての美徳であることを改めて納得させられます。

また今回は若者たち(松坂桃李&広瀬すず)のエピソードにも割と時間が設けられており、本来は重い題材であるにもかかわらず、総じてフレッシュな印象をもたらしてくれています。



もっともこの作品、後半はあえて挑戦的な姿勢で攻めているような姿勢も感じ取れ、もしかしたら鑑賞後に賛否の議論が巻き起こるかもしれません。

おそらく作り手側も「大いに議論してほしい」といった想いで取り組んでいたのでしょうし、その意味では社会の理不尽に対して常に毅然と(それでいて、いつも上品で優しい物言いで)発言し続けている吉永小百合ならではの「映画を通してほんの少しでも、社会に対する意識を向上させていただけたら」とでもいった想いまで勝手に感じ取れてなりませんでした。

個人的にはヒロインの回想シーンに登場する母親役の中山忍をもっと見たかったなあ、などとオタク心まで騒がせつつ、インディペンデント勢がどんどん台頭していく昨今の日本映画界の中で、メジャーの意地を示すべく大いに腐心している気概も認めるのにやぶさかではない作品ではありました。

(文:増當竜也)

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(C)2021「いのちの停車場」製作委員会

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