役所広司と名監督のコラボの歴史|名優は名監督を呼ぶ?
現役バリバリでありながら、もはやレジェンド枠でもある役所広司。
仲代達矢の無名塾を経て映画デビューして43年、今年で66歳になるというから少し驚きですが、確かに90年代からずっとトップで走り続けていたからこその存在感も当然です。
そんな彼の最新作は大作時代劇『峠 最後のサムライ』。幕末、福井藩の家老を務め新政府軍相手に奮戦した河井継之助を演じています。
本作はコロナ禍で公開延期が続きましたが、やっと劇場公開にたどり着きました。
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『峠 最後のサムライ』と『蜩ノ記』
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
『峠 最後のサムライ』の監督は小泉堯史。
小泉監督は黒澤明に師事し、その死後、2000年の『雨あがる』で監督デビュー。
それ以降『博士の愛した数式』、『蜩ノ記』などを監督したほか、岡田准一主演の「散り椿」の脚本を担当するなど、丁寧で良心的な人間ドラマや時代劇を発表し続けています。
『峠 最後のサムライ』で役所広司が演じる主人公河井継之助は、幕末に福井藩の家老を務めた人物で軍備の新鋭化を進めるなど、藩単位での近代化を進めた人物です。
長年歴史に埋もれた存在でしたが、歴史小説の大家・司馬遼太郎が映画の原作でもある小説「峠」で主人公に据えたこと一躍日の目を浴びました。
実際に資料を追うと河井継之助は幕府側の人間からはもちろん、新政府側の人間からも高い評価を受けていたことがわかっています。
映画はオールスターキャストで、手間暇をしっかりかけたことがわかる丁寧で重厚な時代劇です。その意味で今作はとても貴重で、ヒットして次の大作時代劇にバトンが繋がってほしいです。
小泉監督と主演の役所コンビが最初に競作したのが『蜩ノ記』。葉室麟の直木賞受賞作の映画化作品です。
(C)2014「蜩ノ記」製作委員会
ここでの役所広司は10年後の切腹を命じられた幽閉されている男・戸田秋谷を演じています。
物語は彼の監視役として若い藩士・檀野庄三郎がやってきたところから始まります。この時、すでに戸田秋谷への処分が下って7年が経っていました。
檀野庄三郎は戸田秋谷の人柄にふれあっていくうちに、10年前の戸田秋谷の行動に疑問を抱いていき、真相を追っていく中で藩の中で渦巻く思惑・陰謀を知ることになります。
藩政の中での思惑のやり取りと百姓に寄り添って生きる戸田秋谷とその家族の生活が交互に描かれ、檀野庄三郎もまた人として大きく変わっていくことになります。
檀野庄三郎庄を演じた座岡田准一に加えて堀北真希、原田美枝子、青木崇高、寺島しのぶと言った豪華なメンバーが共演陣に揃っています。
檀野庄三郎を演じた岡田准一はこの年・2014年は『永遠の0』にも主演していて、結果として日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を『永遠の0』で、『蜩ノ記』の演技で最優秀助演男優賞をW受賞、これは日本アカデミー賞史上初の出来事でした。
(C)2014「蜩ノ記」製作委員会
ちなみにこの時、最優秀主演男優賞を争った中には『蜩ノ記』の役所広司もいました。
役所広司は日本アカデミー賞の常連で、96年からの7年連続を含む計20回の優秀賞受賞を果たしています。日本アカデミー賞の歴史が45回ですから、常連中の常連俳優です。
『蜩ノ記』にしても『峠 最後のサムライ』にしても“静と動”のメリハリが効いていて流石は小泉監督と思うと同時に、流石は役所広司と思わせてくれます。
そんな役所広司のキャリアを見返すと、今回の小泉堯史監督だけでなく多くの名監督との複数回タッグを組んできたことがわかります。
名監督との数多くの競作歴
時代劇だけでなく、現代劇、コメディ、刑事から、犯罪者まで何でもこなし、海外作品にも出演している役所広司、その数、長編映画だけでも70作品以上に上ります。
そのフィルモグラフィーを見ると同じ監督との競作が多いことに目が行きます。
お馴染みなところでは原田眞人監督。
(C)2017 「関ヶ原」製作委員会
1995年の『KAMIKAZE TAXI』から始まり『バウンスko GALS』『金融腐蝕列島 呪縛』『突入せよ!「あさま山荘」事件』『わが母の記』『日本のいちばん長い日』『関ケ原』と7作品に出演。
もう1人、作品数が多いのが黒沢清監督。
1997年の『CURE』(東京国際映画祭主演男優賞受賞作)から始まり、『ニンゲン合格』『カリスマ』『回路』『ドッペルゲンガー』『叫』『トウキョウソナタ』に出演し、主演から脇まで幅広い形で登場しています。
90年代半ばの原田・黒沢両監督といえば、まだ興行・批評の両面での評価はまだ定まっていなかった時期です。そんな2人の作品に立て続けに出演して作品のグレードを上げた役所広司の功績は大きいと言えるでしょう。
さらに拡がる競作歴
人気、実力、キャリアと揃っているうえに、主人公だけでなく脇役での出演や映画のジャンルも問わ幅広さで、同監督の作品に複数回出演することも珍しくありません。
三谷幸喜監督はコメディの『THE 有頂天ホテル』と時代劇の『清須会議』に起用、また脚本を担当した『笑の大学』にも役所広司は出演しています。
今年の3月に57歳の若さで亡くなった青山真治監督はブレイクポイントとなった『EUREKA ユリイカ』と東野圭吾原作の『レイクサイド マーダーケース』で起用。
異才・中島哲也監督は超特殊メイクを役所広司に施した『パコと魔法の絵本』と犯罪劇『渇き。』で起用、中島監督は同じ俳優を続けて起用することは珍しい印象ですが、役所広司、小松菜奈、松たか子はよく出ているイメージです。
巨匠・今村昌平はカンヌ国際映画祭・パルムドール受賞作品『うなぎ』と最後の長編作品『赤い橋の下のぬるい水』、さらにオムニバス作品『11‘09’‘01セプテンバー11』で役所広司をキャスティングしています。
海外からの評価も高い、三池崇史監督作品では『十三人の刺客』と『一命』に連続出演しています。
役所広司の大きなブレイクポイントと言えば、なんと1っても1997年の『Shall we ダンス』であり、本作で出会った周防正行監督作品には、その後も『それでもボクはやってない』、『終の信託』にメインキャストで登場しています。
懐の深さ、柔軟性の良さ
(C)2018「孤狼の血」製作委員会
役所広司がこれだけのキャリアをこなせるのは、やはり懐の深さと柔軟性の良さが関係していると思います。
主役だけにこだわらず脇役(しかも意外なほどに出番の短い役)でも出演しています。『七つの会議』や『回路』などは思わぬところで出てきてびっくりします。
2018年に『孤狼の血』で“ヤクザ顔負けな”マル暴の刑事を演じたと思ったら、2021年の『すばらしき世界』で生粋のヤクザを演じて見せます。
(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
山本五十六、阿南惟幾、柴田勝家、徳川家康、佐々淳行と言った実在の人物を演じたと思えば、『パコと魔法の絵本』や『ドッペルゲンガー』のようなかなり突飛なキャラクターも自分のものにしいます。
『バイプレイヤーズ』ではなんと役所広司役を演じました。テレビ番組なども含めてナレーションや声優業をやっているのもご存知の方は多いのではないでしょうか?
日本映画で海外の映画祭で非常に高く評価されたものや、『バベル』『SAYURI』『シルク』などハリウッド作品などもあって、近年は海外からのリスペクトも集めています。
66歳という年齢を聞いて驚きつつも、まだまだ活躍の場は拡がっていきそうで楽しみです。
(文:村松健太郎)
■『わが母の記』配信サービス一覧
| 2012年 | 日本 | 118分 | (C)2012「わが母の記」製作委員会 | 監督:原田眞人 | 役所広司/樹木希林/宮崎あおい/南果歩/キムラ緑子/ミムラ/菊池亜希子/三浦貴大/真野恵里菜/三國連太郎 |
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