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『ベルヴィル・ランデブー』レビュー:シルヴァン・ショメの最高傑作は「我々を正しく感動させる」



超高層ビルの頂上より更に上、月のようにあしらわれた円に3人の女性が嵌め込まれている。カメラが地上に向かって進んでいくと、ビルの入口ではカリカチュアライズされたガタイのよろしい貴婦人たちが続々と入場している。

どうやらビル内には劇場があり、コンサートが開かれているらしい。歌っているのは「トリプレッツ」という3姉妹のコーラス・グループだ。彼女らが歌う「BELLEVILLE RENDEZ-VOUS」は「スウィング」「カンカン」「ヴードゥー」と、一瞬にしてアメリカ・フランス・アフリカを繋ぐ。

「BELLEVILLE RENDEZ-VOUS」の間奏でギターを担当しているのは、マヌーシュ・スウィングの開祖、ジャンゴ・ラインハルト。もちろん左手の運指は3本指だが、左足を使って見事なソロを弾いてみせる。間奏が終わり3姉妹が引き継ぐ。少し歌ってから彼女らが手招きをすると、舞台袖からバナナの腰蓑を身に着けたジョセフィン・ベイカーが登場し、男性客らを全て猿に変えるほどのダンスを踊る。再び3姉妹が引き継ぐ。すると舞台右から今度はフレッド・アステアがすっ飛んで来て、見事なタップを披露する。

画面の色がノイズがかったセピア色から銀鼠を加えたような青色に変わり、カメラがゆっくり引いていくと、孫と祖母が並んでテレビを観ているショットが映し出される。次にテレビの画面に登場するのは、グレン・グールドである。なんという適切な召喚。未だ映画が始まってから5分も経っていない。5分も経ってしまったとも言えるかもしれないが、これだけでも「すんげえもん観ました」とヤラれてしまう好事家は少なくないはずだ。

こう書くと「音楽好きな人にはオマージュったっぷりなんだけど、そうじゃない人にはわからないんでしょ」と感じる人がいるかも知れないし、何なら「鼻持ちならない気取った映画なのではないか」と陰性の反応を引き起こしてしまう方だっているかも知れない。だが本作は好事家だけがニヤリとする映画では決してないし、今や死語だが「おフランス」とか言って、特に理由もないのになぜかフランスに敵対している人すら大いに楽しめる可能性がある。

なにせ、監督であるシルヴァン・ショメはフランス国外に住んでいる期間のほうが長い。つまりフランスという国を客観的に撮れる(撮ってしまえる)。そもそも製作はフランス・カナダ・ベルギーだし、肝心要の音楽を担当するブノワ・シャレストはカナダ生まれ、夢のように美しい美術を担当したエフゲニ・トモフはソ連生まれである。本作はフランスというよりも、誤解を恐れず書いてしまえば移民が作ったフランス産アニメーションとした方がしっくりくるかもしれない。とすら思える。

さて、この驚くべき傑作は、なんと2003年公開であり、今回はリバイバル上映である。

2003年公開の本作ですが、覚えてますか? 2003年の映画



2003年というと最近の気がするが、今から18年前と表記すると結構昔の話な気がする。それはさておき、2003年の興行収入は日本だと『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が173.5億円で1位、2位以下には『ハリー・ポッターと秘密の部屋』、『マトリックス リローデッド』などがランクインしている。全世界興行収入ランキングは『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』が1位、『ファインディング・ニモ』が2位で、これは北米・イギリス・オーストラリア・フランス・ドイツ全て同じだ。

いずれも大作だが、興行収入ランキングには登場しない、優れた作品も多数ある。ガス・ヴァン・サントは『エレファント』を撮ったし、タランティーノは『キル・ビル Vol.1』をドロップした。リチャード・リンクレイターはあの素晴らしき『スクール・オブ・ロック』を届けてくれたし、クリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』だってあった。ジャンゴ・ラインハルト直系のチャボロ・シュミットがとんでもないギターを聴かせるトニー・ガトリフの『僕のスウィング』も公開されたし、音楽映画繋がりで言えば『24アワー・パーティ・ピープル』もあるし、他にも(以下略)。

以下略と書いたが補足する。特に凄まじいのは韓国映画で、パク・チャヌクの『オールド・ボーイ』とポン・ジュノ『殺人の追憶』が公開されている。『猟奇的な彼女』もそうだ。まるで『お嬢さん』『アシュラ』『哭声/コクソン』が怒涛のように押し寄せた2016年のようである。韓国映画当たり年(というか当たりまくっていた期間)の話は脇において(日本公開年を基準にしているので厳密にはズレている作品もあるかもしれないが)大作から小品まで、現在まで残っている良作がたくさん登場した年だと考えていいだろう。上記のような棚に『ベルヴィル・ランデブー』も並べられていた。

他の小品と同様に、規模の大きさから興行収入のランキングに影もないのは仕方がない。では賞レースはどうか。第76回アカデミー賞では、長編アニメ映画賞と歌曲賞にノミネートされている。だが、戴冠したのは『ファインディング・ニモ』(長編アニメ映画賞)、「イントゥー・ザ・ウエスト」(歌曲賞 / ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還)であった。つまり、2003年の全世界興行収入ランキング1位と2位に持っていかれたのである。

これを「アカデミー賞会員見る目がねぇな」とか「そもそも観ていないのでは?」と断ずるつもりは毛頭ないし、毛根ほども思わない。ちなみにシルヴァン・ショメの長編2作目『イリュージョニスト』も第83回アカデミー賞長編アニメ映画部門でノミネートされたものの『トイ・ストーリー3』が戴冠している。またしてもディズニー / ピクサーに持っていかれた格好だが、いずれにせよ「相手が悪かった」程度の話だろう。そもそも、アカデミー賞には好かないというのもあるかもしれない。

さて、上記の作品、特に大作が、今リバイバル上映されたとして、果たして「新しいな」と思うだろうか。CGの技術やカメラワークなどの技法、画質、脚本、スタイリング、宣伝ポスターなど、どんな内容を含めても良い。雑な表現になるが、「ああ、今の映画じゃなくて、ちょっと昔の作品なんだろうな」と感じることが殆どだろう。だが、『ベルヴィル・ランデブー』は明らかに異なる。今観ても新鮮で、古臭さは一切ない。

ときにリバイバル上映が行われる際には、よく「今だから観られるべき映画」とか「現代を予言していたかのような内容であるとか」など、とかく「今・即・NOW」を強調しがちであるが、『ベルヴィル・ランデブー』もまた、SARSが流行した2003年公開であり、COVID-19との共鳴が〜などとは死んでも言わない。今だから観られるべき傑作とも決して言わない。未来永劫、誰かにとっての「新作」あるいは「フレッシュな旧作」であるべきだ。それほど普遍性があるし、時代の風雪に耐えられる格が『ベルヴィル・ランデブー』にはある。

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(C)Les Armateurs / Production Champion Vivi Film / France 3 Cinéma / RGP France / Sylvian Chomet