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とてつもない報復を画策する『復讐者たち』を観るうえで、押さえておきたい映画や書籍たち



復讐をするのもされるのも嫌だが、「復讐」をテーマにした映画は楽しい。刺せば監獄刺されば地獄ではなく、映画館の椅子や自宅のソファなどの安全地帯に沈み込んで、他人の復讐を観てスカッとできるからである。

『ハムレット』『モンテ・クリスト伯』『忠臣蔵』などを持ち出すまでもなく、クルアーンだって旧約聖書だって復讐について書いている。復讐という言葉が無かった時代だとしても復讐や報復はあった。隣村の奴に狩りを邪魔されたので仕返ししたら小競り合いになってしまい人死が発生、村を巻き込んでの報復合戦に突入、復讐の連鎖は止まらず結果として世界から村が2つ消失、なんて話は容易に想像できる。

とにかく「やられたらやり返すんじゃ」というのは2021年になっても国家で、個人で、現実社会で、SNSで、日常的に行われている。そう考えると、人間誰しも復讐が好き、というか、何らかの復讐劇が好きなのであろう。

さて、映画で復讐されるのは、だいたい「悪い奴」で「どんなにブッ叩いても構わない奴」つまり「最悪役」な場合が多い。その筆頭はナチス・ドイツだろう。第二次世界大戦以降、ナチスはあらゆる作品で、記号化され、陳腐化され、何ならゾンビ化までされ、それらの多くで復讐されて来た。

今やナチスは何もしなくとも、画面に登場するだけで最悪役であることを誰も疑わない。むしろ特定人物ではなく、ナチス(・ドイツ)全体を「いいもん」として描こうとしたならば、四方八方から矢が飛んで来るだろう。だからと言って「いいもん」として描いた映画が今登場しても良い、などと言っている訳では決してない。というか、そんなもんは原理的に無理だ。とにかく、人物だけでなく、制服やハーケンクロイツなどありとあらゆるナチスに関する要素が登場した瞬間、それは高確率で最悪役の烙印が押されている。

前述もしたが、映画におけるナチスは記号化され、陳腐化され、脱色・脱臭され、何ならゾンビ化され、あらゆる使われ方をして来たわけだが、とくにナチスをテーマにした、あるいは大きく関わるような作品の場合「ナチスをどう扱うか」は制作陣一同の腕の見せどころであろう。残虐非道の限りを描いても良いし、対極としてはカラーリングを見せるだけでも可能なはずだ。

そんななか、興味深い一作が登場


復讐者たち(原題:Plan A)』は、第二次世界大戦後のドイツでジェノサイドから生き延びたユダヤ人がナチスに報復していく復讐劇だ。ちなみに劇中に登場する復讐計画は史実を基にしているそうで、ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ両監督は当事者たちの証言から着想を得ている。

大まかなストーリーとしては、強制収容所から生還したマックス(アウグスト・ディール)は離れ離れになった妻子がナチスの手によって殺害された事実を知る。彼はユダヤ旅団の兵士ミハイルと出会い行動を共にし、ナチスに復讐をしていく。その後、所属の変わったミハイルに協力するために過激なユダヤ人組織「ナカム」に潜入し、彼らの計画を突き止めようとする。

ナカムの計画とは、ドイツの民間人600万人の命を奪う大量虐殺のことで「600万人殺されたんだ。だからこっちも600万人を殺す」と、かなりスケールがデカい。この計画が成就してしまうのか、それとも阻止されてしまうのかは最大のサスペンスであるし、クリティカルなネタバレになるので自重しつつも「史実をネタにしている」時点で既にバレているような気もする。だが「終わりが予想できてしまう」のは作品の傷にはならない。未解決事件を基にした映画で犯人が捕まらないようなものだ。

本作はいわゆる「ナチス狩り」の話で「よくある」ナチス物ともいえるのだが、「ナチスをどう扱うか」については中々にフレッシュだった。劇中酷いことをして回るのはナチスではなく、開放されたユダヤ人たちである。彼らはナチスの残党を捕まえて尋問し、殺し、極北としてはドイツの一般人600万人を一網打尽にしようとする。つまり、劇中の最悪役はユダヤ人(ナカムの面々)となっている。

ナチスを題材にした映画でも最悪役がナチスでないものは存在するが、ユダヤ人が最悪役というのは十分に新鮮な設定だろう。

またナチスの扱い方も抑制が効いている。戦後だからしてナチスが残虐な行為をするシーンは無いが、別にマックスの収容所時代がフラッシュバックするような形で挿入しても良かったはずだ。だが本作はそれをしない。「アウシュビッツ・ビルケナウ」の一言で済ませ、凄まじき報復を画策するユダヤ人を悪役(復讐者)として描く。その点で、近年のナチスを題材にした映画のなかでも、ナチスを変に記号化・脱臭化せず、あくまで「復讐」をテーマにした歴史サスペンスとして一本立ちしているといった、ジャンルムービーの枠に収まりきらない魅力が『復讐者たち』にはある。

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