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2021-08-19

【徹底解説】『フリー・ガイ』が訴えかける、「現代的なリアル」と「オリジナリティー」


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銀行窓口係として、単調で平凡な人生を送っていたガイ(ライアン・レイノルズ)。やがて自分がゲームの世界のモブキャラ(背景のひとつ)であることに気づいた彼は、自由を求めて立ち上がる…。

2021年8月13日より劇場公開されているSFコメディ『フリー・ガイ』。誰しもが楽しめること請け合いの、痛快な娯楽大作に仕上がっている。筆者の独断と偏見も交えつつ、「現代的なリアル」と「オリジナリティー」という観点から、この作品をネタバレ解説していこう。

※以下、ネタバレを含みます。

現実世界へ越境しない主人公ガイ

【予告編】



「自分が生きている世界は、実は仮構の空間だった」

このストーリー展開は、『トゥルーマン・ショー』(1998年)や『マトリックス』(1999年)に近い設定。サングラスをかけると、隠蔽されていたもう一つの世界が姿を現すというコンセプトも、ジョン・カーペンター監督の傑作SF『ゼイリブ』(1988年)を思わせる。『フリー・ガイ』のメイン・プロットは決して目新しいものではなく、むしろ手垢がついたものだ。

本作の脚本を手掛けたのは、ザック・ペン。彼のデビュー作品は、アーノルド・シュワルツェネッガー演じる劇中劇の主人公が、突如現実世界に現れてアクションを繰り広げる『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)。最近では、VR空間を舞台にしたスティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』(2018年)のシナリオも務めている。現実と仮構の物語は、彼のオハコなのだ。

だが、『フリー・ガイ』はこれまでの作品と大きく異なる点がある。主人公のガイが、フリー・シティから一歩も外へと踏み出さないことだ。『トゥルーマン・ショー』のトゥルーマンは、自由を求めてシーヘブンからの脱出を試みた。『マトリックス』のネオは、コンピュータの支配から人間を解放すべく、現実と仮構を行き来した。だが、本作のガイは仮構空間に留まり、現実世界へ越境しようとはしない。

もちろん「彼はプログラムから生まれたAIだから」という理由はあるれけれども、そもそもリアリティのあるSF映画でもない訳だし、適当な理屈をつけて(失礼な表現ですいません)現実世界に召喚させても良かったはず。しかし本作この作品では、今ここにいる場所で闘うことが、自由を勝ち取るために必要なのだと人々に訴えかける作品だ。

筆者はこの感覚に現代性を感じる。確かに、フィル・ロード&クリストファー・ミラーによる大傑作『LEGO® ムービー』や、『マトリックス』のような哲学的・形而上学的深度は浅いかもしれない。しかしながら、荒廃したフリー・シティから逃げ出さずに、そこに踏みとどまって新しい世界を創り上げるストーリー展開は、現実社会へのささやかなメッセージとも受け取れる。そのシンプルなメッセージゆえに、『フリー・ガイ』はエンタメ感満載のポップコーン・ムービーに成り得ているのだ。

「オリジナリティー」をテーマに掲げた、ディズニーの自己批判映画



この映画のもう一つのテーマ、それは「オリジナリティー」。悪徳社長アントワーヌ(タイカ・ワイティティ)は、天才プログラマーのミリー(ジョディ・カマー)とキーズ(​​ジョー・キーリー)からプログラムを盗み出し、オンラインゲーム「フリー・シティ」で巨万の富を築く。そしてさらなる成功を目指し、「フリー・シティ2」のリリースを目論む。

ここで描かれるのは、オリジナルのコンテンツ開発を軽視し、知名度のあるキャラクターで安易に続編を作ろうとする姿だ。そしてその姿勢は、そのままハリウッドにおける製作現場に当てはめることができる。監督のショーン・レヴィ自身、インタビューでこんなコメントを残している。

「タイカ・ワイティティが語るセリフは、この業界で私自身が言われてきたことと、ほとんど同じなんです」
IndieWire誌のインタビューより引用)

『グランド・セフト・オート』や『フォートナイト』に代表されるオープンワールド系ゲームを下敷きにしているものの、『フリー・ガイ』は、ハリウッド大作にしては珍しいオリジナル企画。映画スタジオの20世紀フォックスで構想が練られ、2019年にディズニーに買収されて20世紀スタジオと名称を変えた後も、大切に開発が進められた。

考えてみれば、ディズニーそのものが「知名度のあるキャラクター」と「続編」に意欲的な巨大産業。『ダンボ』や『アラジン』、『ライオン・キング』と例を挙げればキリがないし、最近でも『101匹わんちゃん』の悪役を主人公にした『クルエラ』(2021年)、ディズニーランドの人気アトラクションを映画化した『ジャングル・クルーズ』(2021年)が公開されている。

そして、「スター・ウォーズ」と「MCU:マーベル・シネマティック・ユニバース」という、超ヒット・シリーズを傘下に収めているのだ。

実はこの映画、製作にあたって一つの決まりごとがあった。「オリジナリティー」というテーマをできるだけ前景化させるために、ポップカルチャーの引用をできるだけ抑制したのだ。映画の終盤に入ると、キャプテン・アメリカの盾(しかも主人公を演じたクリス・エヴァンスが出演)やライトセーバーが登場したりはするのだが、『レディ・プレイヤー1』のように隅から隅までポップカルチャーが横溢している、ということは周到に回避している。

そう、『フリー・ガイ』は「ディズニーによる自己批判映画」と解釈することもできるのだ。タイカ・ワイティティ演じる社長アントワーヌが、どこか子供っぽくて憎めないキャラ(なぜかラップをカマしてきたりする!)なのも、どこかディズニーっぽいではないか。ちなみにタイカ・ワイティティ自身、MCU『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督を務めている。

モブキャラに重ね合わせた、ライアン・レイノルズの実人生



筆者的には、ライアン・レイノルズがモブキャラを演じていることも感慨深い。コメディ番組『ふたりの男とひとりの女』(1998年〜2001年)で人気を博し、その後もコメディ、アクション映画と幅広く活躍。2008年にはスカーレット・ヨハンソンと結婚、2010年には『ピープル』誌が選ぶ「最もセクシーな男」に選ばれた。

公私ともに順風満帆な人生に思えるが、決してそうではない。『グリーン・ランタン』(2011年)が批評的・興行的に大失敗。その後も『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』(2013年)、『セルフレス/覚醒した記憶』(2015年)など大コケ作品に立て続けに出演し、世間から「ヒット作から見放された男」の烙印を押されてしまった。2010年にはスカーレット・ヨハンソンと離婚。主役級の俳優ではあるものの、『デッドプール』(2016年)で再び脚光を浴びるまでは日陰の人生を歩んできたのである。

本作でも、「おい!そこの40歳の童貞男!」とディスられるシーンがあるが、ライアン・レイノルズは若干ナメられがちなアウトサイダー俳優。そんな彼が、自らプロデューサーとして製作したのがこの『フリー・ガイ』なのである。モブキャラのガイと自分の実人生を重ね合わせたことは想像に難くない。

そしてライアン・レイノルズといえば、当たり役のデッドプールをやたら持ち出す俳優であることで知られている。今回もデッドプールがどこかで登場するかと思いきや、彼の意向で見送りに。「オリジナリティー」という本作のテーマに照らしわせた判断だろう。ナイス・ジャッジ、レイノルズ!

では最後に、『フリー・ガイ』のトリビアをひとつ。テレビドラマ『ゴシップガール』のセリーナ・ヴァンダーウッドセンを模したアバターがちらっと登場するが、このセリーナ役を演じていたのはブレイク・ライヴリー。現在のライアン・レイノルズの奥様であらせられます。

(文:竹島ルイ)

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