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『浜の朝日の嘘つきどもと』レビュー:これぞ映画と映画館と映画好きに捧げる快作!“キネマの神様”はこの作品にこそ降臨していた!




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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

本作は2020年10月30日に放送された同名TVドラマ(2021年9月現在、アマゾンプライムで有料鑑賞可能)の前日譚をスコープ・サイズの映画で描いたもの。

福島県南相馬に実在する100年近い歴史を誇る老舗映画館「朝日座」を舞台に、閉館が決まっている同館を立て直そうとするヒロイン茂木莉子こと浜野あさひ(高畑充希)の奮闘と、その理由が描かれていきます。



映画業界の末席を汚して久しい身からするとかなり夢物語の世界に感じられ、またコロナ禍の最中(2020年の初夏あたり?)のお話なのに誰ひとりマスクをしていないのも、役者の顔を見せるために割り切っての趣向なのは理解できるものの、震災以上の惨禍をもたらし続ける「原発」というワードが意外に劇中では希薄なこととも相まって(実は原発こそがヒロインとその父親の絆に大きな亀裂をもたらした主犯でもあるのですが)、どこかしら事の本質的なものをあえて避けているようにも思えてなりません。

しかし、それでも本作が感動的に映えるのは、映画を愛する人々そのものの本質を見事に押さえているためで、少なくともこの作品は、観客がいる映画館の中で人が死ぬのを美化するような事など絶対にありません。



「映画とは残存効果で、半分暗闇を見ているようなもの」であり、だから「映画好きは根暗である」という、一見ディスっているようでいて、いざ見ている観客=映画ファンが何ら腹を立てることなく、むしろ微笑ましく納得できるとともに誇らしさまで感じられてしまうのは、映画ファンこそは映画の暗闇に救われ、勇気づけられてきている存在であることが巧みに訴えられているからでしょう。

ドラマ版も映画版もタナダユキ監督が演出していますが(今回は共に彼女のオリジナル脚本)、この才人が紡ぎ出す世界は『百万円と苦虫女』(08)や『ロマンス』(15)『お父さんと伊藤さん』(16)など往々にしてキャラクターがあっさりしつつも好もしく映えわたる傾向があるのが大きな特徴で、今回も高畑充希は彼女の最近の作品で最も可愛く明るく魅力を発散しているように見受けられ、彼女の恩師・田中茉莉子を演じる大久保佳代子の好演に至っては、本年度の映画賞ものといっても過言ではないほど。

映画ファンの彼女はヒロインとともにTVやパソコンで映画を見ていますが、実はそこからも映画館への憧憬が隠されていることも後々理解&共感できることでしょう。



ちなみに劇中に出てくる『東への道』『青空娘』『喜劇 女の泣きどころ』など実在する映画の取り扱い方もよく、さらには本作の中の朝日座は、かつて『トト・ザ・ヒーロー』&『怪奇‼幽霊スナック殴り込み!』(このタイトルを聞いた瞬間「杉作J太郎の第1回監督作品」と即答できてしまう茂木莉子ちゃん、ナイスです)、『永遠と一日』&『北京原人 Who are you?』といったプログラムを平気で上映していたという、「そりゃ閉館の危機にも直面するだろうよ!」といったツッコミしがいのある食い合わせの悪さにも、どこかしら不思議で微笑ましいシンパシーを抱いてしまいます。

(昭和時代の名画座や二番館三番館って、結構そういうハチャメチャなラインナップを組んだりしていたところもありました)

朝日座支配人役の柳家喬太郎や不動産屋役の甲本雅裕、茉莉子先生の恋人のベトナム青年役・佐野弘樹なども好演ですが、映画館取り壊しを推進しようとする企業側の神尾佑を決して悪人風情に描いていないのも、本作のさりげない美徳のひとつでしょう。

そうこう考えていくうちに、“キネマの神様”って実はこの作品にこそ降臨していたのでは? 

と思えた瞬間、冒頭に記した不満の数々もすべて、映画ならではのフィクション(=嘘)として昇華することができたでした。



そう、映画とはかくも嘘つきで素敵なものであることを、本作は嬉しくなるほどに描出し得ているのです。

(文:増當竜也)

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