「性別関係なく、惹かれるときは惹かれるのが人間」映画『君は永遠にそいつらより若い』主演・佐久間由衣インタビュー
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奈緒、小日向星一、笠松将など近年注目を集める若手キャストが脇を固め、『あかぼし』(2012)、『スプリング、ハズ、カム』(2015)などの吉野竜平が監督を務めた今作。
自己肯定感の低い主人公・ホリガイを演じた佐久間由衣はどのようにこの作品と向き合ったのだろうか。
身体表現から役を作り上げた主人公・ホリガイ
——登場人物それぞれが簡単には表に出せない暗い過去を抱いていて、人間のデリケートな部分が全面に出ている作品だと感じました。佐久間さんが最初に脚本を読んだ第一印象はどんなものでしたか?脚本を読む前に小説を読ませていただきました。ものすごく素晴らしい小説で、ドキドキしながら読み進めたのを覚えてます。日常を生きていくうちに見過ごしてしまいそうな小さな感情まで、言葉として鋭く描かれているなと感じました。
文章としてはスラスラ読めてしまうんですけど、ふと気づいたら主人公のホリガイとともに、とんでもないところに連れてこられていた……って感覚ですね。
原作を読ませてもらった上で、この作品を脚本に起こすのは大変だろうなと勝手ながら思っていたんです。でも、いざ脚本を読ませてもらったら、大事にしたいところがしっかりオリジナルとしても描かれていて……。これは、丁寧にその場その場をしっかり感じて生きていかなければいけないなと、主役としての責任を感じましたね。
——ホリガイは圧倒的に自分に何かが欠けていると思っていることから、自分に自信が持てないキャラクターですね。役作りはどういった風に進められましたか?
クランクインする前に、吉野監督と何度か「ホリガイってどんな人物だろう?」と話し合いをしました。監督には、わざと猫背にしたり、常に口を半開きにしてみたり……といった身体的な表現を中心に演出をしてもらったんです。
そういった状態に体を持っていくと、自然とホリガイになっていくのを感じました。自信がないゆえに、あんまり人の目をじっと見られなかったりとか、誤魔化すためにヘラヘラと作り笑いをしてしまったりとか。どんどん心の中に本音が隠れていく感覚がわいてきたんですよね。
——体の表現から入っていったんですね。
やっぱり姿勢がいいと前向きになるし、視野も広がるし、人の目をしっかり見て話せるんですよね。猫背で口も半開きで髪もボサボサで……っていうほうが、よりホリガイに近づけるような気がしました。
——今作では、奈緒さん演じる大学の後輩・イノギとのシーンも多いですね。お互いの演技や表現について、どんなやりとりをされましたか?
奈緒ちゃんとは、具体的なお話はあまりしませんでしたね。クランクイン前に吉野監督がお茶会の場を設けてくれたんですが、その時間でこの作品に対する思いをお互いに共有し合いました。台本を突き合わせて「ここの表現が〜」と具体的に詰めるよりは、現場で作り上げていった感じですね。
——前もっての話し合いよりも、現場でのやりとりを重視されたんですね。
奈緒ちゃんがイノギとしてその場にいてくれたので、私も自然とホリガイになれて、心を開けたんだと思います。
自然なふたりが実現した、アドリブで臨んだ「牡蠣鍋」のシーン
——佐久間さん自身がベストシーンを挙げるとしたら、どのシーンですか?ベストシーンはたくさんありすぎますけど、演じていて楽しかったシーンを挙げるとしたら、ホリガイとイノギのふたりで食べた牡蠣鍋のシーンですね。あのシーンには台本がなくって、全部アドリブだったんですよ。牡蠣、おいしかったな……。
奈緒ちゃんがお酒の瓶を倒しちゃったシーンがあるんですけど、それも偶然だったんです。いざ初号試写を観たら使われていたので、リアルな感じがそのまま出てるなぁと思いました。
——ふたりの自然な空気感があらわれているシーンですね。
ただ楽しいだけじゃなくって、奈緒ちゃんを通したイノギと、私を通したホリガイが楽しんでる……。そんな感じがしました。
——ホリガイとイノギの関係性について、佐久間さんはどう解釈していらっしゃいますか?
そうですねえ……。男の人とか女の人とか関係なく、惹かれる人には惹かれると思うんです。ホリガイとイノギの間には共通の価値観があるだろうし、ふたりとも心根が優しいので、惹かれ合うのは自然だったのかなって思います。
原作だと、もともとホリガイがイノギのことを知っていて、「変わった女の子がいるな〜」って気にかけてるんですよね。映画では描かれていない部分ですけど、前からお互いのことを知っていたような空気感を含め、一緒に時間を過ごすのが心地良かったんだろうなって思います。
——お互いに理解し合えている関係性なんですね。お仕事に対するモチベーションも、理解者がいるといないとでは違ってくると思うんですが、佐久間さんのお仕事に対するモチベーションは、どんなことで保たれていますか?
忙しくさせてもらってることが、自分の燃料になると思ってます。お仕事をいただけるからこそエンジンがかかるし、頑張ろうと思える性格なんですよね。仕事のモチベーションは仕事からもらうというか。
たとえば、お仕事の現場でうれしい言葉をもらったり、ときには厳しい言葉をもらったり、その両方あることで仕事のモチベーションに直結するっていう……あれ、なんか私、ドMみたいな発言してますか?(笑)
映画にドラマに活躍が止まらない、佐久間由衣のこれから
——直近ではドラマ「彼女はキレイだった」(フジテレビ)にも出演されていらっしゃいました。ドラマと映画ではそれぞれ違う魅力があるではないかと思いますが、いかがでしょう?先日、『ひきこもり先生』(NHK)というドラマで鈴木保奈美さんとご一緒させてもらったんです。その時に保奈美さんが「ドラマは放送中に撮影が続いていくから、いろんな意見を参考にしながら取り入れられて楽しいよね」とおっしゃってたんですよ。そういう見方もあるんだ、素敵だなと思いました。
きっと色々な意見を目にすることで心が後ろ向きになってしまうこともあるだろうに、そんな感情も含め、もらえる意見を元に変えられることが楽しいって。本当にその通りだな、それがドラマの醍醐味だなと私も思ったんです。
映画は映画で、ドラマよりも濃密な時間を役とともに生きられるのが魅力ですね。
映画は、あらかじめ決められたゴールに向かって、伝えたいことをどう伝えていくか。それをみんなで考えられる時間や、物語だったり人物の心情だったり、深い部分についてみんなで話し合える営み自体が楽しいと感じます。
色々なご意見をきかせてもらった上で、変えるところと変えないところを選べるのが楽しいなって思えるようになりましたね。
——活動の幅がどんどん広がっている印象ですが、今後やりたいことについて教えてください。たとえば、作り手にまわりたいとか……。
作り手は絶対にないですね! 監督やプロデューサーさんにリスペクトがありすぎるので。「ここをこうしたらどうだろう?」って自分で勝手に妄想することはありますけど、監督のように一歩引いていろんなバランスを見ながらものづくりをする……私にはできないことです。
私は俳優部として、原作やシナリオが用意されている状態から関わることがほとんど。少なくとも現時点では、0から1の部分はお任せして、1から関わらせてもらうのが楽しい! って思ってます。
(撮影/冨永智子、取材・文/北村有)
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