【夏の終わりに観たい映画】ひと夏の恋を生々しく映し出す『きみの鳥はうたえる』
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【夏の終わりに観たい映画】ひと夏の恋を生々しく映し出す『きみの鳥はうたえる』
映画を彩る音楽の重要性
本作品を好きな理由のひとつに”音楽”がある。
「僕」と佐知子と静雄の3人で、クラブで踊り明かすシーンが本当に最高だ。MVとして切り取ってlofi hiphop的な感じで、一日中流しておきたいくらい。クラブシーンにはHi'Spec、OMSBが出演者として登場、サントラもHi'Specがプロデュースしている。
そして、クラブにいる人全員が、石橋静河演じる佐知子に釘付けになっていることは間違いない。
石橋静河は、父に俳優の石橋凌、母に女優の原田美枝子、姉にシンガーソングライターの優河と、とんでもなくアーティスティックな家庭の一員。幼少の頃よりバレエやダンスを嗜み、女優になるまではコンテンポラリーダンサーとして活躍していた。
この背景を知っていれば納得なのだが、クラブで踊る佐知子が魅力的すぎるのだ。もう、ノリ方が他の人と別格。セクシーさとかっこよさを兼ね備えていて、後ろで見ている男たちの視線は自然と佐知子を捉えている。DJブースの目の前でひとり踊る佐知子の後ろから抱きしめる「僕」の優越感はこの上ないものだろう。
石橋静河の魅力は踊りだけではとどまらない。佐知子と静雄、ふたりで行ったカラオケで、「俺、ふたりの邪魔してないかなぁ」と言う静雄に「なんでそんなつまんないこと言うの」と笑いながら返し、『オリビアを聴きながら』を歌いはじめる佐知子。耳に残る印象的な歌声、あんなの、隣で歌われて好きにならない男はいない。
クラブやカラオケなど、日常に溶け込む小さなイベントでかかっている音楽は、思い出に強く刻まれるもの。このシーンにHi'SpecやOMSB、1970年代の懐メロを持ってくるあたりのセンスに脱帽だ。
夏の終わり、この映画を観ながら共にひと夏を振り返ってみてほしい
夏の終わりに観たい映画は、人それぞれあると思う。
たとえば『(500)日のサマー』(08)や『HOT SUMMER NIGHTS』(17)、あとは『火花』(17)など。その中でも、わたしは『きみの鳥はうたえる』一択だ。ジメッとした夏が鮮明に蘇ってくるリアルな描写は、他の映画にはない。
窓を開けて、秋を感じさせる少し冷たい風と金木犀の香りがふわっと入ってくる、そんな夜更けに、この夏のことを振り返りながら観てほしい。きっと、同じような経験をしたことがある人にもない人にも、なにかしら深く刺さる部分があるはずだ。また、「こういうひと夏を過ごしてみたい」と羨望する側面もあるだろう。
柄本佑演じる「僕」、石橋静河演じる佐知子、染谷将太演じる静雄の3人の芝居にも拍手喝采だが、萩原聖人演じるどこか女性を引きつける魅力のある店長・島田や、足立智充演じる終始めんどくさい同僚・森口、山本亜依演じる関西弁がかわいすぎる後輩・みずき、渡辺真起子演じるどうしようもない静雄の母親・直子など、個性豊かなキャストも見どころだ。
ラスト、佐知子は「僕」になんて言おうとしているのか。わたしはこう妄想する。
「なんで今さらそんなこと言うの。もう遅いよ…それに、もし付き合ってたとしても私はいずれ静雄のことを好きになってたと思う」。
(文:桐本 絵梨花 )
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