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2021-09-28

『ボクたちはみんな大人になれなかった』レビュー:ラブホテル街を邂逅する佐藤のあの"右足の一歩"にグラグラと揺さぶられた

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

89回目の更新、今回もどうぞよろしくお願い致します。

街を歩く人を何気なく眺めてしまう。

言葉も交わしたこともなく、目も合わせたことのない多くの人々が、目の前を歩き去っていく。人々には、当然ながら、それぞれに人生があり、それぞれに歴史がある。ボクとは交わったことがないけれど、それは確かにある、当然ながら。

これから何人の人と、交わることになるのだろうか。いくつもの出会いと別れと再会を繰り返しながら、ボクは自分の人生を歩んでいく。その数々が今とこれからを作る。過去になったものたちは、忘れてしまう微かなものばかりだろうが、気づいた時には、それぞれを大切に思いたい。数年に一度だろうが、数十年に一度だろうが、奥深くにしまった箱をたまには開けて眺められる大人になっていたいものだ。現実に目を瞑り、そんな理想を描く。

そっと開いてもらえたのは、この作品を観たから。今回はコチラの作品をご紹介。

Netflix『ボクたちはみんな大人になれなかった』




11月5日(金)より映画館でロードショー&Netflix全世界配信開始になる本作。原作は、燃え殻による同名小説。

私は原作のファンであり、すでに数回読み込んでいるほどにこの小説が大好きでありまして。

その映像化ということで、期待と心配がグルグルとないまぜになりながら、試写室のフカっとしたシートに腰を下ろしました。が、エンドロールが流れる頃には、そんな思いはすべてなくなり、冷たくもなく暖かくもない、体温と同じ温度の涙が静かに頬を流れていました。ただただ、静かに流れる。

それはなんというか、物悲しさや、懐かしさ、美しさなどの自分の奥深くに大切にしまっておいたものが、東京という街にフワッと、舞い上がっていくような感じ。

この心地よい思いを逃したくないという思いから、試写後の帰路は二つ前の駅でおり、遠い眼差しでゆっくりと歩いた。



作品の主人公・佐藤と私は同年代というわけではないし、90年代カルチャーのことはリアルタイムでど真ん中世代で経験してはいないが、何故だか自分も通った道のように感じた。

誰しも持つ"あの時""あの場所""あの人"そういったものが、人肌の温度を保ちながら記憶の片隅から蘇ってくる。それとの同期でボクはきっとそういう体験をさせてもらったのだろう。鑑賞をした、というより、全身で浴びたと言ったほうが当てはまる気がする。



原作の印象深いシーン、言葉が映像となり、人の言葉で音が発せられ、眼と自身の脳内の音ではなく、目の当たりにさせてもらって、ありがとうございます!と伝えたい(完全にファン目線で失礼)。

確かに小説とは違う部分もあるので、原作至上主義の派閥からは一定の意見はあるかもしれませんが、私にとっては双方どちらも推しとなりました。原作の良さ、映像の良さ、そしてどちらもその手法にしか出来ない魅せ方、それは比べることの出来ないもの。

映画からは、きちんと原作へのリスペクトと愛情をこれでもかと感じられる。あの時代の彩り、匂い、街の揺らぎ、普通に撮るだけでは立ち上がらないと思うからこそ、そう思う。



主人公、佐藤役に森山未來。元恋人役かおりには、伊藤沙莉。ほかに、萩原聖人、東出昌大、SUMIRE、篠原篤、平岳大、大島優子など盤石の布陣。2021年から1995年を繊細に演じ分ける森山未來に、賞賛を。

客は見終わる頃には誰しも、身の前の人物の目となり、心がシンクロし追体験することは必至です。渋谷ラブホテル街を邂逅する佐藤のあの"右足の一歩"にボクはグラグラと揺さぶられた。



出てくる登場人物ひとりひとりに体温があり、キャラクターとなっている人がひとりもいない。それぞれが人生を生きて作品の中に存在していた。どんな作品もそれを目指してはいるが中々そこには辿りつかないもの。

しかしこの作品では、活き活きとたくさんの傷を負った人々がリアルに生きている。その傷を見るたびに、客は自分の心にひとつひとつ刻んでいく。そんな大切なものがパンパンに詰まっているのです。



過ぎ去ってしまった時間、場所、人にポッと光が灯りピントが合っていく。その美しくて切なくて、かけがえのないシーンの連続に涙します。

大人になっているのか。
大人になりたかったのか。
大人とはなんなのだろうか。

忘れてしまった言葉、人、匂い、思い出、誰しもそれぞれの人生を生きるうえで、さまざまなものが降り積り、奥底に埋まってしまった宝物を、皆さまも是非もう一度思い出せますように。

是非、映画館で体感し、配信でも何度も浴びて欲しい本作。原作も合わせて読むことも是非オススメします。人生の一作になること間違いなしの原作、映画をぜひ。

それでは、今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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