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新型コロナウィルスの感染拡大の影響をもろに受けて、当初の予定より1年半以上の公開延期期間を経てついに『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開されました。
シリーズ25作目というメモリアルな作品であり、ダニエル・クレイグが“007”ことジェームズ・ボンドを演じる最終作でもあります。
※本文では『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のネタバレになる部分には触れていません。ただし、前作『スペクター』までの作品の結末の内容を含む一部ネタバレに触れています。
ダニエル・クレイグのボンドについて

もともと、ダニエル・クレイグがボンドを演じることになってから、シリーズには新機軸がいくつも取り込まれて、毎作ごとに実験作・意欲作とされてきました。
今ではちょっと考えられないことですが、“金髪碧眼”のボンドということ自体にも当初はかなりの拒絶反応が出ていました。
しかし、当時まだ30代だったダニエル・クレイグの若々しさ・荒々しさを取り込んで公開された『007/カジノ・ロワイヤル』は“新時代の007の誕生”として高い評価を受けました。
以降『慰めの報酬』『スカイフォール』『スペクター』そして今回の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』とダニエル・クレイグのボンドは常に革新的な21世紀のスパイ映画を作り上げていきました。
物語の在り方についても、今までの007シリーズの流れとは大きく変わり、すべての作品に濃厚なつながりがあります。今回の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』も前作の『スペクター』の直後から話が始まります。
Amazonプライムビデオで007シリーズの過去24作品がすべて配信されています。ショーン・コネリーの頃からさかのぼると大変ですが、できれば『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の予習や復習もかねてダニエル・クレイグのボンドが活躍する『カジノ・ロワイヤル』から『スペクター』までのダニエル・クレイグの作品だけでもチェックしてみてください。

特に『スペクター』は(ボンドガール改め)ボンドウーマンのレア・セドゥ演じるマドーレヌ・スワンが続投していいて、彼女との関係性などが全く語られずに『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の物語が始まるので、後追いでもいいので見ておいたほうがいいです。
–{予告編は予告編でしかなかった!?}–
予告編は予告編でしかなかった!?
2021年9月に最終版の2分半超の予告編が解禁され、ふんだんに盛り込まれたアクションの数々に期待を膨らませたのですが、いざ本編を見ると、なんとこの予告編で披露されたアクションの数々は“ほんのさわり”でしかなかったことがわかります。
予告編並みのクライマックス級のアクションが『ノー・タイム・トゥ・ダイ』にはたっぷりと盛り込まれています。スケール感にあふれエモーショナルなアクションにはめいっぱい期待値を上げておいても大丈夫です。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はダニエル・クレイグのボンドの最後を語り切る必要もあったので、上映時間が2時間44分と007シリーズ歴代最長の作品となっていますが、このアクションのつるべ打ちで全く飽きさせずに一気に駆け抜けます。
身体中に怪我を負いながらもほぼノースタントで挑んだダニエル・クレイグの雄姿を目に焼き付けてください。
最後の敵はラミ・マレック!!
前作『スペクター』で、権利関係の問題から登場させることが出来なかったシリーズの最大の敵“スペクター”と“ブロフェルド”が登場しました。
とは言え“ブロフェルド”との戦いは『スペクター』の中で一応の決着がついてしまっています。そんな中で、新たな、そしてダニエル・クレイグのボンドの最後の敵として登場するサフィンを演じるのは『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞俳優となったラミ・マレックです。

これまでの『美しき獲物たち』のクリストファー・ウォーケン、『ゴールデンアイ』からのジュディ・デンチ、『ダイ・アナザーデイ』のハル・ベリー、『スカイフォール』のハビエル・バルデム、『スペクター』のクリストフ・ヴァルツに続く6人目のアカデミー賞俳優の登場です。
(『消されたライセンス』のベネチオ・デル・トロは出演後に受賞)
今回の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に登場するサフィンは今まで以上にボンドのパーソナル部分を攻めてくるタイプの悪役です。
『カジノ・ロワイヤル』では愛する女性ヴェスパー・リンドに裏切られ、『スカイフォール』では“自分もそうなっていたかもしれない男”である復讐に取りつかれた元MI6のスパイ・ラウル・シルヴァと、そして『スペクター』では秘密結社の長となっていた義兄のエルンスト・ブロフェルドと対決するなど、これまでもダニエル・クレイグのボンドはスパイであること、組織人であること以前のパーソナルな部分での闘いを強いられてきました。
しかし、今回の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のサフィンの“ボンドの根幹”に関わる度合いは、これまでの悪役たちのさらに一枚上を行っています。
心で闘ってきたダニエル・クレイグのボンドの最終章
詳しくは全編のネタバレに直結するので言えないのですが、このサフィンが“揺さぶってくる”ポイントは今までの007シリーズの中でも、最もボンドの内側に踏み込んだものになっています。

この点についてはかなり賛否両論を巻き起こすのでないかと思います。「いくら何でも」という意見も出てきそうですが、私個人としては常にパーソナルな闘いを強いられてきたダニエル・クレイグのボンドの“最後の闘い”にはこれしかないのではないかと思っています。
1962年のショーン・コネリーから始まり過去5人の俳優がジェームズ・ボンドを演じてきましたが、これらの先人と比べてもダニエル・クレイグのボンドは心の内側をさらけ出し、時に抉られながら闘いの日々を過ごしてきました。

その最終章である『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でボンドが命を懸けるに値する存在はこれしかないと言っていいでしょう。
–{そうは言っても“007”}–
そうは言っても“007”

ここまで書くと、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、なんだか“湿っぽい”映画になっていると思われるかもしれませんが、そこはそれ、そうは言っても“007”シリーズ、“ジェームズ・ボンド”の映画です。しかも今回で25作目の節目の作品、来年で映画化60周年という超人気スパイアクションシリーズの最新作です。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は純正娯楽アクション映画として素直に楽しめる映画に仕上がっています。

前作から引き続きの上司Mを演じるレイフ・ファインズ、マネーペニーを演じるナオミ・ハリス、Qを演じるベン・ウィショーが登場する部分は“お馴染みの”と言った感じの余裕とユーモアを感じさせるシーンになっていて絶妙な緩急を担っています。
ワンシーンだけですがダニエル・クレイグのボンドにおいて重要な女性二人が登場するのでそこもお見逃しなく。ジェフリー・ライト演じるCIAの友人・フェリックス・ライターの登場も嬉しいですね。
さらに前作から引き続きブロフェルド役のクリストフ・ヴァルツが短い出番ではありますが、強烈な印象残しています。

新たな“007”の数字を引き継いだエージェントのノーミを演じるラシャーナ・リンチもCIAの新人エージェントのパロマを演じたアナ・デ・アルマスもアクションから緩急のきいたセリフのやり取りまでこれぞ“007”という見せ場を見事に演じ切りました。
ジェンダー的な面でいろいろ言われてきた“007”ですが、本作では無理のない形で、巧く映画に取り込んでいます。

そして、なんと言っても“007”と言えば“ガジェット”ですが、愛車のアストン・マーティンもマシンガンやスモーク発生装置など秘密装備が満載で登場します。予告編にも登場した特殊グライダーも“らしさ”抜群のインパクトです。
日本とも縁深い『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
かつて、1967年のショーン・コネリー版の『007は二度死ぬ』では大々的な日本ロケが行われ、丹波哲郎が日本エージェントを演じたほか浜美枝、若林映子がボンドウーマンを演じましたことがありますが、今回の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』もまた日本と縁が深い作品に仕上がっています。
監督のキャリー・ジョージ・フクナガはアメリカ人初&日系アメリカ人初&アジア系監督初の007シリーズの監督となります。
劇中でラミ・マレック演じるサフィンの仮面は能面を元にしたもので、独特な神秘性を漂わせています。
日本文化、日本人映画監督からの影響も公言しているフクナガ監督は、超大作シリーズの最新作としての『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を仕上げるとともに、自身の人種的な、そして映画人としてルーツを盛り込むという離れ業をやってのけています。

とにかく、1年半以上も公開が延期された『ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開されるということ自体がちょっとした“お祝い事”と言っていいことなので、まずは映画館にぜひ!!
賛否両論あるかと思いますが『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は個人的には120点です!!
意外な形で登場するガンバレル・シークエンス(銃口を模したカメラに向けてボンドが発砲するお馴染みのシーン)から始まるビリー・アイリッシュの主題歌にも注目です。
(文:村松健太郎)
–{『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』作品情報}–
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』作品情報
【あらすじ】
ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。
【予告編】
【基本情報】
出演:ダニエル・クレイグ/レア・セドゥ/ベン・ウィショー/ナオミ・ハリス/レイフ・ファインズ/ラミ・マレック
原案:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド/キャリー・ジョージ・フクナガ
監督:キャリー・フクナガ
脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド/キャリー・ジョージ・フクナガ/フィービー・ウォーラー=ブリッジ
製作国:アメリカ