
日本のアニメーション・ブームの一大火付け役として、20世紀後半を代表するSFシリーズ『宇宙戦艦ヤマト』。
これを21世紀にリブートさせた新シリーズ『宇宙戦艦ヤマト2199』(13)、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(18~19)に続く最新作『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』2部作の『前章-TAKE OFF-』が2021年10月8日より期間限定上映されます。
これは1979年に発表されたテレフィーチャー(後に劇場公開)『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』のリブート。
前作『2202』で帝星ガトランティスと文字通りの死闘を繰り広げ、多大な犠牲を強いられながらもようやく地球を救い、帰還した宇宙戦艦ヤマトおよびそのクルーたちの新たなる試練が描かれていきます。
実はこの『新たなる旅立ち』、オリジナル版同様にリブート版もシリーズの一大転機のポイントとなる作品ゆえ、新旧ファン共に見逃せないものとなっております。
私自身はオリジナル第1作目となるTVシリーズ「宇宙戦艦ヤマト」(74~75)からリアルタイムで見続けてきた旧世代のファンではありますが、その立場としても今回は非常に感慨深く見ることが出来ました。
まだ前編なので結論めいたことは申せませんが、このリブート・ヤマト、本当に面白くなっていくのはこれからかもしれません。
オリジナル版に準じつつさまざまな新しい設定が!
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』は、基本的にオリジナル版とほぼほぼ同じストーリーが展開されていきます。
(少なくとも前章はそうです)
かつて地球を滅亡の危機に陥れたガミラス星が消滅し、その双子星であるイスカンダル星が軌道を外れて暴走。
これを宇宙戦艦ヤマトは止められるか否か?

もっとも、このリブート・シリーズは既にオリジナル版とは異なる設定や展開が多々成されており、今回もそれに準じた新たな仕掛けがいろいろ設けられています。
もっとも目を引くのは「新たなる旅立ち」、映画『ヤマトよ永遠(とわ)に』(80)に続くオリジナル版のTVシリーズ「宇宙戦艦ヤマトⅢ」(80~81)で初登場した土門竜介が新たなクルーとして参加していることでしょう。
(もちろんキャラ設定などは大幅に変わっています)

つまり今回はオリジナル版のその後の要素までも先取りミックスするかのように挿入させた作りにもなっていて、これはこれで旧世代ファンとしては今後の展開がちょっと分からなくなってきた点も含めて、無視できない存在になってきています。
一方で、リブート版ならではの展開から紡ぎ出された数々の要素が今回は割かし上手い具合にはまっている感があり、またオリジナル1作目でも『2199』でもさりげなくインパクト大であった、あのキャラクターが今回は再登場します!
総体的に今回は、これまでの重責から解放され、ようやく新たなるスタッフ&キャストで新たなるヤマトを作れるという意欲が感じられてなりませんでした。
その重責とは何だったのか?

それはやはりオリジナル版の中で最高傑作の誉れ高い映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(78)という存在をいかに乗り越えていくべきかという、リブート版が必ず通る宿命のようなものでもありました。
–{空前のアニメ・ブームをもたらしたヤマト}–
空前のアニメ・ブームをもたらしたヤマト
ここでざっとシリーズをおらいしていきますと、まず1974年から75年にかけてTVシリーズ「宇宙戦艦ヤマト」が放映され、当時は視聴率が振るわなかったものの(何せ裏番組が「アルプスの少女ハイジ」でしたから)、その後の再放送で人気が高まり、1977年8月に総集編映画『宇宙戦艦ヤマト』が公開されるや、これが少年少女を多数動員する異例のヒットとなって大人たちを驚かせるとともに、ここから一気にアニメーション・ブームが巻き起こっていきます。

それはちょうど海の向こうの『スター・ウォーズ(エピソ-ド4)』(77)が大ヒットとなり、SF映画ブームが到来するのと偶然にも歩調を合わせており、かくしてヤマトも映画シリーズ第2弾『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の制作に踏み切り、翌78年8月5日に公開されるや、これが配収21億円の大ヒットとなり、アニメーション・ブームを決定的なものにまで押し上げていきました。
極論すれば“ヤマト”がなかったら、現在の日本国内のアニメーションの隆盛はもたらされてなかったかもしれません。
ところがこの後、シリーズに異変が生じていきます。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』は敵の強大なる白色彗星に対し、最終的にヤマトが特攻するという、究極の自己犠牲の形で決着をつけました。
つまり、ここで“ヤマト”は終わるはずだったのです。
ところがその後の同年10月から放送されたTVシリーズ「宇宙戦艦ヤマト2」(78~79)は『さらば』と基本的に同じストーリー展開ながらも、ラストでヤマトは辛くも生還を果たすという形に変更されていました。

『さらば』の自己犠牲に滂沱の涙を流していた少年少女たちは、ここで戸惑ってしまいます。
一体何が起きたのか? と。
要するに、ここで『宇宙戦艦ヤマト』シリーズはパラレルワールドとして分岐してしまったのです。
(もっともそれ以前に実は劇場版第1作もTVシリーズとは異なり、ヤマトが目的星のイスカンダルに到着したところ、女王スターシャは既に死亡していたという衝撃の設定のものがお披露目されたのですが、これがファンの不評を買ったのか〈私はかなり気に入っていたのですが〉、『さらば』公開直前に本作がTV放映された際、そのシーンがTVシリーズでのスターシャ生存のものに差し替えられていました。そして現在はその『スターシャ生存編』がオリジナルとされ、ソフト化などされています。『スターシャ死亡編』はそのシーンのみがBlu-rayなどの特典映像に収められています)
そして1979年7月31日、「宇宙戦艦ヤマト2」の続編たる「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」がTVでオンエアされました。

もうこの時点で多くのヤマト・ファンは愕然となっていましたが、それでも視聴率は30パーセントを越える大盛況。
「死んだんじゃなかったのかよ?」「俺の涙を返せ!」みたいな激昂の批判もあれば、「またヤマトを見ることが出来て嬉しい!」といった喜びの声まで当時は賛否両論真っ二つで、SNSもない時代によくぞ日本全国あそこまで盛り上がったものと、今にして思うと感心させられます。
パブロフの犬ではありませんが、批判派にしても結局はヤマトの新作が作られると聞かされては黙っていられないという深層心理が働き、その後の映画『ヤマトよ永遠に』(80)も『スター・ウォーズ 帝国の逆襲(エピソード5)』(80)『スター・トレック』(79)『ファイナル・カウントダウン』(80)『復活の日』(80)といったSF超大作がずらり並んだ1980年夏の映画興行の中で配収13億5000万円と大健闘。

もっとも、その直後の同年10月からスタートしたTVシリーズ「宇宙戦艦ヤマトⅢ」は平均視聴率15.4パーセントと低迷し(とはいえ、今のレベルでは十分すぎる数字でしょう)、かくして1983年3月『宇宙戦艦ヤマト完結編』でパラレルワールドとして分岐したシリーズもようやく終結(配収は10億1000万円。ちなみに同時期公開のアニメ映画として『幻魔大戦』『クラッシャージョウ』『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』がありました)。
–{今度こそ完全にシリーズを着地させるために!}–
今度こそ完全にシリーズを着地させるために!
実はこの後1995年よりOVAシリーズとして、『完結編』からおよそ300年後の宇宙を舞台にした『YAMATO2520』がスタートしましたが、製作会社の倒産によって第3巻で中断したまま現在に至っています。

また『完結編』からおよそ17年後を舞台にした『宇宙戦艦ヤマト復活篇(第一部)』が2009年に、またその『ディレクターズカット版』が2012年に公開されていますが、実はこれらもラストが異なるというパラレルワールド化がなされており、つまり昭和から続くヤマト・シリーズは、すっきりとした完結を未だに迎えていないのです。
そうした中、オリジナルをリブートすべく2012年から始まった『宇宙戦艦ヤマト 2199』『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は、昭和から始まるシリーズのポリシーを受け継ぎながら、今度こそ真の着地点をめざすべく腐心し続けています。

特に『2202』はオリジナル最高傑作である映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』とシリーズ分岐のきっかけとなったTV「宇宙戦艦ヤマト2」双方を融合させつつ新たな道をめざすための苦労は並々ならぬものがあったことでしょう。
正直に申して『2202』そのものの出来は、観念的描写の多さや説明台詞の難解さなども手伝って、個人的には評価しておりません。
(ただし二代目艦長・土方竜さんには涙しました)
もっとも、ここを通過しなければリブート・ヤマトは最終目的地に到達できないことを鑑みるに、そこを乗り越えての次なる試練として製作された今回の作品はまさにリブート版の“新たなる旅立ち”として認めるのにやぶさかではなく(多少のアナクロニズム臭はご愛敬としておくべきか)、今後はオリジナル版とはどんどん異なる展開になっていっても許されるのではないか、いやむしろどんどん新たなるスタッフ&キャストで新たなるヤマト・ワールドが形成されていけばいいとまで思っています。

今回の『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち前章-TAKE OFF-』は、そんな今後を期待させるに足る仕上がりでした。
健闘を祈りたいと思います。
(文:増當竜也)
–{『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章-TAKE OFF-』作品情報}–
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章-TAKE OFF-』作品情報
【あらすじ】
白色彗星帝国との戦いから三年──。
滅びに瀕したガミラス民族を救うべく、新たな母星の探索を続けていた
デスラー総統は、天の川銀河の一画に条件に見合う星を見出す。
が、そこは、強大な星間国家の領域内であった。
銀河で勃発した領土紛争は、ガミラスと安全保障条約を結ぶ地球を否応なく巻き込んでゆく。
地球に軍事的・経済的優位性をもたらしてくれた時間断層という魔法は、自分たちの命と引き替えに消滅してしまった──
自責の念に駆られながらも、ヤマト新艦長の任についた古代進は、来るべき有事に備えて新クルーらと共に訓練航海に旅立つ。
その中に、自分をつけ狙う何者かが紛れ込んでいるとも知らずに。
かつてない不安の時代に、新たなる旅立ちの時を迎えるヤマト。
その行く手では、想像を絶する新たな敵が待ち構えていた……。
【予告編】
【基本情報】
出演:小野大輔/桑島法子/大塚芳忠/山寺宏一/井上喜久子/畠中祐/岡本信彦/村中知/羽多野渉/伊東健人
原作:西﨑義展
製作総指揮・著作総監修:西﨑彰司
監督:安田賢司
脚本:福井晴敏/岡秀樹
製作国:日本