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『ONODA 一万夜を越えて』レビュー:小野田氏に29年も「任務」遂行させた要因を探る地獄の戦場サバイバル劇!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

1974年に小野田寛郎氏(最終階級は予備陸軍少尉)がルバング島から29年ぶりに日本に帰還したときのことは、幼いながらも鮮明に覚えています。

その前の1972年に横井正一氏(最終階級は陸軍軍曹)がグアム島から帰還したとき、テレビの映像で見る彼は失礼ながらも痩せ衰えた老人のように思えましたが、小野田氏は同じ痩せ細っていても眼光が鋭く、どこか人を寄せ付けない厳しくもおっかない印象を抱いたものでした。

やがて小野田氏が旧日本軍のスパイ養成学校・陸軍中野学校出身であることを知り、当時抱いた自分の印象に奇妙な確信を持つとともに、アバウトながらも彼のキャリアを調べてみたりして、改めて戦争がもたらす狂気と、それでも生き抜く生存本能みたいなものに仰天したりもしました。



さて、本作『ONODA 一万夜を越えて』の存在を知ったとき、最初に危惧したのはアラチュール・アラリという異邦人監督の目で、小野田氏を奇跡の生還者として単純に讃えたものになっているのではないか?というものでした。

しかし、いざ拝見すると彼が29年間も「任務」を遂行し続けていく上で、現地住民から略奪も行えば、時に殺生も犯していた事実を隠すことなく、その上で彼を生き延びさせた要因は何であったのかを探ろうとする制作姿勢に好感を持つことができます。

この要因にはさまざまな意見があるかと思われますが、本作では陸軍中野学校でのたった3か月の期間を経てガラリと人が変わったことをさりげなくもきちんと描いていることで、やはり中野学校の洗脳教育の賜物であったことも大きな一因であろうと想起させてくれます。



その意味では教官に扮したイッセー尾形の飄々とした中の凄みにも圧倒されつつ、教育以前以後の若き日の小野田氏を巧みに演じ分けながら戦争の狂気を体現していく遠藤雄弥の熱演を讃えたいところ。



一方、帰還直前の小野田氏を演じる津田寛治は、その風貌が実際に帰国したときの小野田氏にそっくりで、これは相当頑張って役作りしたものと想像させられます。



また小野田氏の任務遂行の執念の傍らには常に同胞がいたという、意外に知られていない事実も大いに関係していることを本作は示唆しているようです。

仲間との連帯あればこそ、小野田氏は前向きに生きる気力を保ち続けることが出来、ついに独りになったことで彼は心萎え、やがては祖国への帰還に気持ちが傾いていったことも、彼を探していた旅行者に扮する仲野太賀扮するやりとりの中から巧みに醸し出されているような気もしてなりません。

即ち本作は戦争がもたらす狂気と、その狂気も含めた人間の強固な意思を、肯定も否定もせず、ただただ現実にままあり得ることを描いた傑作だと思いました。



小野田氏本人に関しても賛辞から批判までさまざまな意見はありますが、ここで描かれているのはもっと普遍的かつ奥深い人間のサバイバル本能であり、その意味では水俣病を異邦人監督の目線でワールドワイドに見据えた『MINAMATA』に近いものも感じます。

ところで本作の中でも陸軍中野学校では「玉砕は許さず」といった教育方針が採られていたことが描かれていますが、実は小野田氏が帰国してたった3か月後に作られた(さすが当時の東映プログラムピクチュア!?)佐藤純彌監督の劇映画『ルバング島の奇跡 陸軍中野学校』(74)の中でも同じような指導描写が成されていて、目から鱗が落ちるような衝撃的かつ地獄のような訓練の数々が描かれた傑作です。

(ちなみにタイトルとは裏腹に小野田氏は冒頭にニュース映像で登場するのみで、あとは小野田氏とは全く関係のない生徒らの過酷なドラマが綴られていきます。増村保造監督による1966年大映映画『陸軍中野学校』も傑作ですが、あちらは戦争そのものよりもスパイとしての非情さを描いた印象が強いかな)。

この作品を見てから『ONODA』を見ると、より深く中野学校の恐ろしさと、戦争そのものがもたらす恐ろしさを体感することが出来るでしょう。

正直見る前は3時間弱という上映時間におののいたのですが、見始めるとあっという間の価値ある映画体験でした。



(文:増當竜也)

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