(C)2021「プリテンダーズ」製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2021年10月15日

SNSのフォロワー数増減に一喜一憂するアラサーが映画『プリテンダーズ』を観てほしいと願う4つの理由

SNSのフォロワー数増減に一喜一憂するアラサーが映画『プリテンダーズ』を観てほしいと願う4つの理由


理由2: 「親バカ青春白書」等に出演、小野花梨の演技がすごい

とにかく、主役のひとりを演じた小野花梨の演技がすごい。ライターなんだからもっと言葉を探せよと自分でもツッコミを入れたくなるが、圧倒される・引き寄せられるとはこのことなんだと彼女の演技を見ながら思った。

役名も同じ「花梨」なので、まるで彼女自身のドキュメンタリーを見ているような気持ちにさせられる。高校にも行けなくなり、家族からも見放され、やっと見つけた「プリテンダーズ」という居場所。自信を取り戻し、「これが自分のやるべきことだ、生きる場所だ」と目を輝かせ興奮している様子は、観客を嬉しくさせるものでもあるし、一抹の不安を抱かせるものでもある。

いわば「陽」と「陰」の転換とでも言おうか。感情の振れ幅の大きさだったり、目的を見失っている最中の猪突猛進具合だったり、身体を張って他人の意思を止めようとする頑なさだったり、溢れる感情のコントロールに自身でも辟易している様が見てとれる。

役者として演技でやっているのは重々承知なのだけど、それでも……「小野花梨」その人の奥底にずっと溜まっていたものが、本作をきっかけに噴出したのではないか。私たちはそれを見せつけられているんじゃないか。そう思わずにはいられない、凄まじい演技の連続だった。


理由3: NHKドラマ「きれいのくに」CM「BOSS 抹茶ラテ」抜擢、見上愛の新たな表情

NHKドラマ「きれいのくに」で共演している小野花梨と見上愛。ルッキズムをテーマにしたこの作品では、見上愛演じる凛が小野花梨演じる恵理に、裏整形について教えてもらっている。

綺麗な容姿じゃないと生きにくい価値観が浸透したこの世界では、みんなが整形し同じ顔になるのが半ば当たり前とされる時代があったーーという設定だ。

凛は、決して見た目が良くないわけではないのに(むしろとっても可愛い子なのに)、自分の顔や身体など「容姿」に対するコンプレックスを強く持っている。根本的に自分の見た目を好きになれないからこそ、いざ恵理に出会い、裏整形なるものを知ってからというもの、それが脳裏から離れなくなってしまう。

映画『プリテンダーズ』とドラマ「きれいのくに」に流れる根本的なテーマは、共通しているように思える。どちらも「バケモノみたいに肥大した承認欲求の扱いに疲れた、若者たちの決起と末路」を描いているように見えるのだ。

見上愛がそれぞれの作品で演じたのは、実際に承認欲求に溺れる当人と、承認欲求に溺れる友人の側に立ち、支える立場。どちらも揺れる感情の機微を言葉に乗せるのに苦労しそうな役どころだ。

とくに今回の『プリテンダーズ』で演じた風子は、最初こそ花梨のことを面白がり共にプリテンダーズの活動に参加するが、次第にその在り方に疑問を感じるキャラクターである。少しずつ演技経験を積み始めている彼女が、新たな表現に挑戦している様が見られると言っていいだろう。

理由4:  行動を起こさない人間 VS 行動を起こす人間、果たしてどちらが賢いのか?

作品冒頭で、花梨と父親が言い合うシーンがある。個人的に大好きなシーンだ。

「匿名でSNSやって?人のことディスってマウント取り合いに精を出す。腐れ民族ですね、それがジャパニーズですよ、はーい」

キッチンで朝ごはんを作る花梨が、手を動かしながら父親にこう告げるのだ。日本でTwitterが流行ったのは、140文字の制限が日本文化を代表する俳句や川柳に通じたからだという雅な見方もある。しかし「匿名性」であることが爆発的なブームに繋がったとする見解の方が多数派だろう。

日本人は口下手だ。人と違う意見を堂々と口にすることが怖いのは、現実世界だと顔や名前が割れてしまうからではないか。「誰が」言っているのかわからないTwitterなどのSNSだと「匿名性」が担保される。だからこそ、口に戸を立てず言いたいことが言えてしまう。

作中で花梨が取った行動のように、決して懸命なやり方ではなかったとしても、燻らずに堂々とやりたいことをやり切った人間。そして、自ら行動は起こさない代わりに、匿名で文句ばかり言って終わる人間。

果たして、どちらの方が賢いのだろうか?

この映画を観終わっても、その答えに辿り着けるとは言えないかもしれない。けれど、感情を爆発させながら、自分を認めてほしいと欲を撒き散らしながら、信じる道を突き進んだ彼女たちがたどり着いた最後をどうか見届けてほしいと願う。



SNSがどうした、フォロワー数がどうした。画面の中にはない、数字では表せない、大切なものの在処に気づけるはずだ。

(文・北村有)

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