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2021-10-16

映画『歩き始める言葉たち』升毅インタビュー:昔の作品のことを今でも言われるのは「評価されていると思う」

映画『歩き始める言葉たち〜漂流ポスト 3.11をたずねて〜』が、10月16日(土)より渋谷ユーロスペースほかで順次全国公開される。

2011年3月に起こった東日本大震災により、大切な人との再会が叶わなかった人たちが行き場のない思いを手紙に託して投函していた岩手・陸前高田の「漂流ポスト」。現在では、震災以外の理由で亡くなった人へ当てた手紙を投函する人も多く、遺族の心を受け止める場所として存在している。


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本作はもともと、『半落ち』『八重子のハミング』などの佐々部清監督が漂流ポストをモデルとした升毅主演の劇映画として企画を進めていたが、紆余曲折あり、数々の佐々部作品に関わっていた野村展代氏がドキュメンタリー映画としてメガホンを取ることになったという。しかし、佐々部監督が2020年3月に急逝したことを受け、さらに形を変えたドキュメンタリー映画として完成。

『群青色の、とおり道』での出会いから佐々部監督と親交を深めていた升毅が、思い出話も交えながら監督ゆかりの地を訪れ、また陸前高田でもインタビューを行って、残された人々の思いを作品として紡いでいく。

再度主演に抜擢された升毅に、佐々部監督への思いを交えながら、本作の撮影や自身のキャリアについて語ってもらった。


——まず、改めて本作の主演を務めるとなったときの最初のお気持ちを教えてください。

升毅:佐々部監督が作る段階では、僕が漂流ポストの管理人をしている赤川勇治さんを演じる形で話が進んでいたんです。それがなくなったときは、寂しい気持ちと、いい脚本だったのでやりたかったなという思いが強かったですね。でも、仕方がないことなので、「当初のお話がなくなったのは残念ではあるけど、いい作品を作ってくださいね」と思っていました。

それが、佐々部監督が亡くなったことによって、監督へのオマージュというか、思いを伝えたい、という形に変わったわけです。漂流ポストに手紙を出している方やその周りの方達の気持ちを映画で伝えようとしていたのが、佐々部監督の死によって自分たちも伝える側になってしまったという……。


そこで僕を選んでもらったことについては、複雑な感情もひっくるめてわかりやすい言葉でいうとうれしかったですし、素直に「僕にやらせてください、やります」という気持ちでした。「こういう形にするなら僕でしょう」と思えるところがあったので、もし、ほかの俳優がやるとなっていたら、「それはちょっと違うんじゃない?」と感じたかもしれないですね(笑)。

——佐々部監督と関わってきた多くの方のお話をこのような形でたくさん聞かれて、監督に対して改めて感じたことや生まれた思いはありますか?

升毅:過去に聞いたことを違う角度から聞いたり、動揺したり、楽しかったことを思い出したり。すごく揺さぶられるような感じでお話を伺っていたなと思います。特に印象的だったのは、やっぱり奥様のお話ですね。奥様とは何度かお目にかかったことはあってもゆっくりお話をしたことはなかったので、ちゃんとご挨拶をさせていただいてお話を伺いました。すると、監督から聞いていた話っていうのは、やっぱり普段の監督と奥さんの関係とは結構違うものだなと思いましたね。監督も今更言い訳できないですけど(笑)。

長期ロケのときに、僕がコインランドリーで洗濯をしているときに監督も来て、「お、監督も自分で洗濯するんですね」「おう、やるよやるよ」みたいな会話をしたことがあって。「えらいえらい」と思ったなんて話を奥様としていたら、「そうなんですよね。でもこんなことになるんだったら、私がちゃんときれいなものを送ってあげたらよかった」って笑いながらおっしゃってたりとか。そういうところにご夫婦の関係がすごくリアルに見えましたし、「そういうことがあって、あのコインランドリーにいたんだな」とか、そんなことが思い返されましたね。

最初、奥様に話を聞きに行くと聞いたときは、正直、「ちゃんと聞いていられるんだろうか」と不安もあったんです。でもそれが杞憂だったくらい気丈でしっかりとした奥様で、ちゃんとお話してくださって、すばらしいなと。学生時代からのお付き合いという監督と奥様の関係性みたいなものも感じつつ、自分なんかよりもよっぽどつらい人がいるっていうのも、そこで確認できて。いかんいかん、と思う次第でした。


その後、佐々部監督の遺作となった『大綱引きの恋』の鹿児島での先行上映でお会いしたんですが、撮影ではない素の状態でお話できたのでよかったです。変な言い方ですが、仕事でお会いしただけみたいになっていたのが少し引っかかっていて。あの場所でお話できたことで救われたというか、よかったなと思いました。

——『大綱引きの恋』に出演された比嘉愛未さんと中村優一さんもお手紙を書かれていましたが、何か本作に関してのお話はされたんですか?

この映画に関しては特に話していないのですが、事前に手紙を読ませてもらって、なんかもう、「かわいいなぁ、愛おしいなぁ」という気持ちになりましたね。「監督のことどう思ってる?」なんて話は普段、しないじゃないですか。

佐々部組としてやっているときから、みんな監督のことが大好きで、監督もみんなのことが大好きだというのはあからさまだったから、そんなに驚くべきことではないんだけど、手紙として文字で読むと、改めて「ああ、こういう風に思ってたんだ。幸せだったね」と思いますよね。愛未ちゃんの手紙なんか読んでると、「監督、幸せだよね」と思わざるをえない。そういうことは生きてるうちに伝えなきゃだめだよ、とは言うけれど、亡くなるなんて思ってないですからね……。

——佐々部監督と初めてお仕事をされた『群青色の、とおり道』の撮影エピソードも作中で語られていますが、監督に芝居を変えるように言われたことは、俳優人生の中でも特に大きな出来事だったのではないでしょうか。

升毅:とてつもなく大きな出来事でしたね。これは自分の性格でもあるんですけど、思わぬことを言われたときに、「え?」と驚きはしても、それこそ「ふざけるな」とはならないんですよね。

「ほう、そういう人もいますか」「あなたの言った通りにやるとこうなりますよ」とやってみる。そうしたらOKが出て、「佐々部清大監督のいうことですから、やりますよ」と徹底的にやったら、自分にとってもいい結果になったんです。そこで妙な絆が生まれて一緒にいろんなことができたので、監督が私に投げかけた一言は大変大きかったです。


それまで佐々部監督とはお付き合いがなかったので、言ったことをその通りできる人なのか試した、というようなことを、なんとなく言っていたような気もするんですよね。で、言った通りにできる人なんだ、っていうのがわかってすごく満足して、という話も本人から聞いたことがあるようなないような…(笑)。

——長いキャリアをお持ちの方が、そこまで素直にやれるというのはすごいことだと感じました。

升毅:おそらく、60歳手前で今までのやり方を変えるというのは勇気がいるというか、変えないか、へそを曲げるか、という感じになるんじゃないかと思うんですけど。

でも、僕も60歳を前にして、「ここから先、自分はどうなんだろう」ということもぼんやり考えてはいたんですね。そこで佐々部監督が言ってくれたから、自分はこういうスタイルだと決めていたことを覆してみて、それを評価して下さったし、自分でも納得できたということがすごく大きかったんですね。そのきっかけをくれたことにはもう、感謝してもしきれないです。

——佐々部監督の言葉を素直に受け止めて、反映した仕事をできる升さんだからこそ、交流が続いたんでしょうね。

升毅:そうですね。そのへんは自分は人間がよくできてるな、と思いますね(笑)。でも、シチュエーションがよかったのだと思います。初めましてで言われて多少カチンときたものの、でも、佐々部監督の言うことだから信じて演る価値があるだろう、じゃあ変えてみようと思えたこと。それで、今に至っているので、本当に大きなことでした。


——最後に、キャリアの長い升さんと言うことでお伺いしてみたかったことがあります。私は『仮面ライダーアギト』での升さんの記憶がどこかにあって、もちろん役のイメージに直接つながるわけではないですが、他の作品にご出演されるときも「『アギト』の升さんだ!」とうれしくなるんです。そういうふうに昔の作品のことをいつまでも言われるというのは、俳優さんとしてはいかがなものなんでしょうか。

そのとき演じた役が、その方に残ってるって言うのはうれしいことですよ。嫌な意味だったらそういう話もされないだろうし、いい形で残っているということは、その人にとっていいドラマであり、いい役であり、それを表現できた役者の評価につながるんじゃないかなと思うので。

だから、“あのときのあの役ではじめて升毅を見て”というフレーズは大好き。「あぁ、そうなんだ、そこからスタートしてるんだ」って。さらに、あの役の人が今これを演じている、とかって、最近見た役と比較したりするわけじゃないですか。それはいい意味でも悪い意味でもうれしいですよ。

——悪い意味でも、ですか?

あんな役者だと思ったけど、こんな役もやるんだ、っていう感想をいい評価としてもいいですけど、「ギャップに驚き」だけではわからないじゃないですか。どう驚いたかとか役を比較をしてもらえるということは、役者を長くやってるというのも含めて評価されていると思うので、決して嫌なことではないです。どちらかで言えばうれしい、ですかね。「よく覚えてますね、あの役」って思いますし。「そんなんじゃねえぞ、俺は」っていう人もいるのかもしれないですけど(笑)、でも、あのときはああだった、っていうのは本当のことですから、僕は肯定しかしないですね。

(スタイリスト:三島和也、ヘアメイク:白石義人、撮影:冨永智子、取材・文:大谷和美)

<衣装>コート(BRU NA BOINNE/BRU NA BOINNE DAIKANYAMA/¥39,600)※その他スタイリスト私物

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