『ビルド・ア・ガール』若気の至りに救いをもたらす、エネルギッシュな実話もの青春映画になった理由
『ビルド・ア・ガール』若気の至りに救いをもたらす、エネルギッシュな実話もの青春映画になった理由
2021年10月22日より『ビルド・ア・ガール』が公開される。
本作はイギリスの人気コラムニストかつベストセラー作家で、影響力のあるフェミニストのひとりとして知られるキャトリン・モランが2014年に出版した半自伝的小説「How to Build a Girl」を原作とした青春映画だ。つまりは(ほぼ)実話なのである。
結論から言えば、本作は「若気の至り(または仕事)でやらかしたことがある人」は必見の、本当に「救い」になるかもしれないと思わせる優秀作だった。さらなる魅力を紹介しよう。
あらすじはこうだ。時は1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らす16歳のジョアンナは文才に長けていたが、その力を発揮する場がなく、妄想をしてばかりの日々を過ごしていた。ある日、彼女は音楽マニアの兄クリッシーの勧めもあって、大手音楽情報誌の会社に乗り込み仕事を手に入れることに成功。 髪を赤く染め、奇抜でセクシーなファッションに身を包んだジョアンナは、辛口音楽ライターとして人気者となっていくが、やがてとんでもない大失敗をしてしまう。
魅力として真っ先に誰もが思いつくのが、主演がビーニー・フェルドスタインであることだろう。『レディ・バード』(17)や『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)では、どちらかと言えば「陰キャ」な女子高生に扮していた彼女が、今回は(初めこそ鬱々とした日々を過ごしていたが)ハッピーな人生への選択をしてイケイケになる16歳の少女を好演している。
場面によっては実年齢相応の大人に見える時もあるが、演技そのものが、天真爛漫かつ猪突猛進で思慮に欠ける幼い少女そのものなのだから恐れ入る。そのビーニーは舞台のウルヴァーハンプトンにしばらく滞在してアルバイトをして、主人公の人物像を掴むだけなく、その独特の方言を習得していたそうで、その役作りによって説得力が増したことも言うまでもない。
この主人公は今までの鬱々とした日々と相対するように、人気者になると調子に乗りまくってしまうし、無邪気なままにひどい言動をして周りを傷つけてもしまう、「可愛さ余って憎さ百倍」なキャラへと変貌していく。そして(彼女だけの責任とも言えないが)謝っただけでは到底許されるものではない大失敗をしてしまう。
ともすれば、感情移入できない身勝手でどうしようもない主人公にもなってしまいかねないし、実際に超ウザいしイライラもしてしまうのだが、それでも彼女を見捨てる気にはならない、どこか「信じられる」のは、やはりビーニー・フェルドスタインの元々の愛らしさと、卓越した演技力のおかげだろう。
また、主人公が大失敗してしまうのは、思春期特有の「すぐ影響を受けてしまう」せいでもあった。それは「感受性が豊か」という長所にもなるが、足を踏み外せば「周りから求められている自分を無理やり作り上げ、本当の自分を見失ってしまう」という落とし穴にもなるのだと、本作は教えてくれる。
そして、物語はその大失敗からどのように彼女が「学び」を得て、そして「どのような道を選ぶか」が焦点となっていく。そこから導き出された結論は、若気の至りだけでなく、仕事で何かの大失敗をしてしまった経験がある人にとっては、本当に救いになるのかもしれない、と心から思えるものだった。
その他の魅力では、1990年代の雰囲気を再現していることも大きい。特に編集部のオフィスのセットは、93年当時に活動していたフォトグラファーに協力を仰いで、コンピューターから壁にあるロックバンドの写真まで、こだわり抜いて製作されたそうだ。
人工的なネオンの色を際立たせたロンドンの街、温かく居心地の良い色調が意識された故郷の家の内装など、シーンそれぞれの色彩も鮮やかだ。実際にライブ演奏を撮影することにもこだわり、カリスマ的なロック・スターのジョン・カイトを演じるアルフィー・アレンは、映画オリジナルの楽曲を実際に歌っていたりもする。
少し物足りないと言えば物足りないのは、「音楽ライター」という仕事の特性があまり描かれていないことだろうか。もう少しだけでもそのノウハウやテクニックなどを示せば、「仕事映画」としての強度も増したと思うし、同様に文筆業を目指す人へのさらなるエールにもなったと思う。ただ、そこをクローズアップしないおかげで、「若い頃に飛び込んだ大仕事」としての普遍性を獲得しているので、「これはこれで良い」バランスではあるだろう。
そんなわけで、『ビルド・ア・ガール』は若い頃にエネルギッシュに人生を謳歌した「あの頃」を、雰囲気も含めて追体験できるかのような、真っ当な「青春映画」に仕上がっていた。大人が自分の過去を重ねて懐かしむのももちろん良いが、若い人が観ても「これから」の人生への希望へとなるだろう。ぜひ、劇場で楽しんでほしい。
(文:ヒナタカ)
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