〈新作紹介〉『彼女はひとり』レビュー:脅す少女と脅される少年の関係性から巧みに浮かび上がるファンタジックなまでの狂気と孤独の哀しみ
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
新鋭・中川奈月監督の立教大学院修了制作として作られた、いわば学生映画ということで、正直なところこちらも若干「ま、そんなものだろう」といった気分で見始めたところ、どうしてどうして、単に思春期特有の狂気であるとか幼い頃のトラウマであるとかの域を優に超えて、ひとりの高校生少女の孤独と哀しみを見事に描出し得ていることにびっくり仰天!
見ている途中、気がつくと姿勢を正している自分がいました。
およそ60分の中編作品ですが、ヒロイン澄子(福永朱梨)の悪びれた行動と、そんな彼女に秘密を握られ、脅迫され翻弄されていく幼馴染の秀明(金井浩人)の関係性が、上映時間の進行とともに濃密な緊張感を伴いつつ、ある種のカタストロフへと見る側を誘ってくれています。
演出そのものには幾分硬さも感じられますが、何よりも脚本の秀逸性に加えて撮影に名手・芦澤明子キャメラマンを迎えていることで、ドラマと画の双方の厚みも充分に保たれているのも本作の強みといえるでしょう。
そしていつしかヒロインの狂気はファンタジックな装いを帯びていきますが、その流れにも違和感はありません。
福永朱梨は『本気のしるし』でも好演していましたが、正直今回は一度見たら脳裏にこびりついてしばらく離れられないほどのインパクトをもたらしてくれています。
またそのインパクトを彼女から引き出した中川監督のエネルギッシュな力技も大いに讃えておくべきでしょう。
本当に、いつのまにか、しかしながら確実に、どんどん新しい才能が登場してくる日本映画界の未来に、最近はかなり希望を抱き始めつつある自分が確実にいるのでした。
(文:増當竜也)
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(C)2018「彼女はひとり」