『イカゲーム』解説|なぜ「子どもの遊び」が行われるのか?賛否両論にこそ本質が表れている理由
まとめ:賛否どちらも同じことを言っているかもしれない
世にあるデスゲームものはインモラルかつ残酷なようでいて、人の死を強く意識させることで、相対的にの命の尊さを、もっと言えば「生きる意味」を考えさせてくれる、実は教訓を与えてくれるジャンルではないか、とも思わせる。『イカゲーム』ではそのことを、「子どもの遊びで負けたら死ぬ」という理不尽さ、それと相対する深刻な貧困に置かれた登場人物の状況を丹念に示すことで、デスゲームものの中でも頭一つ抜きん出た説得力を持たせているのではないか。
『イカゲーム』が賛否両論を呼んでいる理由を改めて記すと、ゲームが子どもの遊びであるため単純かつ理不尽であり、主催側が参加者に選択肢を与えるようで実は欺瞞に満ち満ちているといった、端的に言って「胸糞が悪い」ことにもある。それを「つまらない」と思えば否定的になるし、それを「面白い」と思えば肯定的にもなる。実は賛否どちらも同じことを言っているのではないか、とも思うのだ。
また、前述したように登場人物はそれぞれが(特に韓国の)貧困を体現した存在であるが、だからこそ「ステレオタイプすぎる」という批判もあるようだ。筆者個人としては、これには悪い印象はない。貧困の実情をわかりやすく、デフォルメして示すことで、ストレートに問題の当事者意識を持ちやすくなっていると思うからだ。情けないが確かな善意も持つ主人公を筆頭に、表面的な印象だけにとどまらない、豊かな人間性を描くことにも成功していると思う。
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もちろん、これら以外の理由で否定的な感想を持つ方もいるだろう。だが、それはそれで良いことではないだろうか。『イカゲーム』の物語に触れれば、良いにせよ悪いにせよ、貧困の先に待ち受ける「死の淵」にいる人間の存在を意識できる。そして、どんな作品でも否定的な感想を持つということは、その人の大切している価値観を再確認できたということでもあるからだ。例えば、結果として「人の命が薄っぺらく感じる」などと思ったのであれば、それはしっかりと人の命の大切さや、貧困などの社会問題を誠実に考えている、ということでもあるのだろう。
ちなみに、監督と脚本を務めたファン・ドンヒョクは2011年に『トガニ 幼き瞳の告発』という、実際の社会問題、それも障害を持つ児童への性的虐待という最悪の事件を元にした映画を作り上げている。監督自身が、社会問題を映画に昇華させて提示する、気骨のある作家というのは間違いないだろう。
その他にも、アカデミー賞作品賞を受賞したポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』(19)も格差社会の問題をブラックユーモアを通じて描く内容であった。確かな娯楽性がありながらも、しっかりと観た人に社会問題を考えさせる韓国のエンターテインメント。そのハイクオリティぶりと高評価の理由は、そこにもあるのではないだろうか。
おまけ:『今際の国のアリス』も要チェック
この『イカゲーム』の前、2020年にもデスゲームもののドラマがNetflixで展開していた。日本のマンガを原作とした『今際の国のアリス』である。『イカゲーム』ほどの話題にはならなかったものの、そちらの大ブームもあって世界各国の「今日のTop10」に再浮上しており、かなり高い評価も得ているようだ。こちらは、うだつの上がらない青年とその友人が、突如異世界に送られ、次々と智略や体力を必要とするゲームに挑むというもの。まずは第1話の、巨大セットにより実現した「渋谷から異世界への転送シーン」の長回しが圧巻なので、ここだけでも観てほしい。この巨大セットは、後に日本映画『サイレント・トーキョー』や中国映画『唐人街探偵 東京MISSION』でも使われている。
原作の再現度、リッチな画、山崎賢人や土屋太鳳を筆頭とした豪華キャストの熱演、地上波放送では不可能な残酷描写と、全方位的に優れた内容だ。緊急事態になるほどにテンポが鈍重になるという欠点もあるにはあるが、中盤からのゲームの規模の大きさ、そして「空手水着美女VS日本刀全身タトゥー男」という異色すぎるバトルには涙が出てくるほどの感動があった。
『アイアムアヒーロー』(16)や『キングダム』(19)など、マンガの実写化作品の成功例をいくつも作り上げた佐藤信介監督の力が遺憾無く発揮されている快作と言っていいだろう。『イカゲーム』とはデスゲームものというジャンルは同じでも、全く異なる魅力のある作品として、ぜひ『今際の国のアリス』も楽しんでほしい。
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