〈新作紹介〉『茲山魚譜 チャサンオボ』師と弟子が互いに教え合う麗しき絆を描いた歴史映画
〈新作紹介〉『茲山魚譜 チャサンオボ』師と弟子が互いに教え合う麗しき絆を描いた歴史映画
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
NHK大河ドラマ「青天を衝く」もいよいよクライマックスを迎えるところですが、その主人公・渋沢栄一の孫にあたる渋沢敬三が翻訳版の出版を志したとされる、韓国の海洋生物学書「茲山魚譜(チャサンオボ)」。
本作はその「茲山魚譜」に記された史実を基に、身分の異なる師弟の絆を描いた感動の歴史映画です。
1801年、熱心なカトリック教徒であったがゆえに最果ての黒山島へ流刑となった天才学者の丁若銓(チョン・ヤクション)に『シルミド』(03)『殺人者の記憶法』(17)など韓国映画界が誇る名優ソル・ギョング、島の若き漁夫・張昌大(チャン・チャンデ)にインディーズ映画界のスターとして注目され、日本映画『太陽は動かない』(21)にも出演している若手スターのピョン・ヨハン。
両者は身分の違いを越えて、固い友情と師弟の絆で結ばれていきます。
監督は『王の男』(05)などの名匠で『金子文子と朴烈』(17)で日本との関係性も深いイ・ジュニク。
ここでは一転して静謐な佇まいを一貫させながら、島の生活などを活写しつつ、ヤクションが人々に馴染んでいく様や、チャンデがはじめは“西洋の邪教”を信仰するヤクションに反発しつつ、次第に惹かれていく様が躍動的に描かれていきます。
『パラサイト 半地下の家族』(19)の家政婦役でおなじみイ・ジョンウンが島でヤクションの面倒を見る未亡人カゴ役を好演するなど(「種だけ良くても畑が良くなければ、良い作物は育たない」とヤクションたちを諫めるくだりは秀逸)、島の人々も魅力的に活写。
素晴らしいのはモノクロームを駆使した映像美で、まるで水墨画のように質素ながらも気品高い効果をもたらすとともに、人間そのもののの品格まで高めてくれているように映えわたっています。
第57回百想芸術大賞の映画部門大賞を受賞という冠に疑念の余地など微塵もない秀作。
ヤクションが学問を、チャンデが海の生物のことを、互いに教え合いながら、そして時に反目し合いながら交流を深めていく関係性は、単なる師弟関係の図式から逸脱した麗しき友情みたいなものまでうかがえるのも、本作の美徳のように感じられました。
(文:増當竜也)
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