2021年11月20日

『花束みたいな恋をした』ってタイトルそのものが、何よりもの名言説。

『花束みたいな恋をした』ってタイトルそのものが、何よりもの名言説。

4.「こういうコミュニケーションは頻繁にしたい方です。」



3回目のデートの後、タイミングを逃しながらもようやく彼氏彼女の関係性になった麦と絹。帰り道、お互いの苦手なタイプを(まだ)敬語で話しながらそれぞれの自宅に向かって分かれようとする二人。もどかしいなぁと思いきや、押しボタン式に気付かない赤信号で、手を絡め、キスをした後に絹がつぶやいたこの一言。

……有村架純は全男子を殺す気なの?!

“こういうコミュニケーション”って、恋愛関係である二人にとってすごくすごく大事な部分なのに、日本人特有の恥ずかしさが勝ってしまい、どうしてもすり合わせが難しいところ。付き合いはじめた直後に自身の価値観を伝えられる絹は強い。

直接的ではなく、間接的な言い方でふんわりと表現するあたり、坂元裕二様様。

5.「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたびに一生その子のことを思い出しちゃうんだって。」



旅行先で撮った写真を見返しながら、「この花ってさ、よく見るけどなんて言う花なの?」と絹に問いかける麦。答えようとした絹が言ったのが、この一言。
まるで自分の言葉かのように発した台詞は、絹が愛読していた『恋愛生存率』というブログを書いていたメイさんが言っていたことらしい。

よくよく考えると、『花束みたいな恋をした』とニアリーイコールな一言と思えてくる。恋愛全盛期で”終わり”について考える余地もない二人のはずなのに、絹はなぜこの言葉を伝えたのだろうか。絹が麦の隣にいない未来で、その花を見るたびに絹のことを思い出さないようにしてほしいだなんて1ミリも思うわけないのに。

そして、この周辺のシーンは、『花束みたいな恋をした』の真意を喚起させるナレーションがやたらと多いことにお気付きだろうか。

“そのメイさんが書くブログのテーマはいつも同じで、「始まりは、終わりの始まり。出会いは常に別れを内在し、恋愛はパーティのようにいつか終わる。だから恋する者たちは、好きなものを持ち寄ってテーブルをはさみ、おしゃべりをし、その切なさを楽しむしかないのだ。”

もちろん、ナレーションの主は絹。最終的に別れることを促進するのは絹。…これ以上あまり深いことは考えたくない。

6.「一人の寂しさより二人の寂しさのほうがよっぽど寂しいって言うし」



“現状維持”をするために就職をした麦と絹だったが、その就職という環境の変化から”現状維持”ができなくなる負のループから抜け出せなくなった。
そんな空気を察した絹の転職先の上司・加持さん(オダギリジョー)から言われたこの一言。

一人でいるときに寂しく感じるのはそれなりによくあること。でも、二人一緒にいるときに寂しいと思う相手となんて早く別れた方がいい、ろくなもんじゃない。一緒にいるのに、いないことにされているのと一緒。

なのに、当事者はその事実になかなか気付けなかったりする。だからこそ、他人が恐れずに伝えてあげる必要があるわけだ。オダジョーに言われたらそれはもう、誰でもハッと目が覚めるはず。

結局、「花束みたいな恋をした」って、どういう意味?



劇中にこれでもかというほど登場するたくさんの名言をメモして、その中から「これだ!」というものを悩みに悩みながらも6つ選定した後に、ハッとした。

『花束みたいな恋をした』ってタイトルそのものが、何よりもの名言説、ある。

過去形で終わっているということは、もうすでに花束ではない。
ちまちまと水やりをしたり、日が当たる窓際に置いてみたり、「ただいま、今日も疲れたね〜」などと話しかけてみたり。コツコツとコミュニケーションを重ねて小さな蕾が満開になったと思いきや、またたく間に枯れて、最後に色褪せたドライフラワーになる様が花の一生。

思い返してみると、こんな恋愛に心当たり、ありませんか?

消えてなくなってくれたら忘れられるかもしれないのに、花束は綺麗な思い出だけが残るドライフラワーとして残っちゃうんだからやっかいだ。



いま、花束みたいな恋をしている人がいたら、何も言わないから”今”を思う存分に楽しんでほしい。

すでに、花束みたいな恋をしてしまった人は、その経験を胸に前に進んでほしい。勿忘草の花言葉・「私を忘れないで」って心の中で思うくらいはきっと許されるのだから。

(文:桐本絵梨花)


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