『フラ・フラダンス』の3つの魅力!「青春スポ根」と「仕事」へ誠実に向き合う物語になった理由がある
2:現役ダンサーの動きを取り入れたスタッフのこだわり
本作で総監督を務めた水島精二は、周防正行監督(1992年の『シコふんじゃった。』など)や矢口史靖監督(2001年の『ウォーターボーイズ』など)が作るような青春映画をアニメーションで作りたいという夢を、本作で達成できたと語っている。水島精二の過去の監督作『夏色キセキ』や『アイカツ!』で描いてきた「音楽」「青春」、さらには「アイドル」という要素も今回の『フラ・フラダンス』にはあり、その作家としての経験が存分に活かされたのも間違いない。その水島総監督の構想と、後述するプロジェクトの「応援する」大きなテーマをまとめたのは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズや映画『若おかみは小学生!』の吉田玲子による脚本だった。王道のスポ根を盛り上げる基本を押さえつつ、主人公と姉の関係を説明しすぎないように「余白」を生かして示すなど、その手腕は今回も存分に発揮されていた。
さらには、現実のフラダンスの滑らかさをアニメで再現するため、現役ダンサーの動きをモーションキャプチャーで撮って3Dで描くと言う手法が取られている。ダンスシーンは3Dの制作チームに演出を任せながらも、水島総監督の過去作のアニメ映画『楽園追放』や、『D4DJ』というメディアミックスプロジェクトで、3Dアニメを経験してきたことも活かされているそうだ。その他にも、現実にあるビーチシアターをアニメでそっくりそのまま完全再現するこだわりもある。
また、水島総監督だけでなく、綿田慎也監督、キャラクターデザインのやぐちひろこなど、『アイカツ!』に関わったスタッフが多いこともあって、その『アイカツ!』にオマージュを捧げている(であろう)シーンもある。3Dで描くフラダンスの細やかな動きだけでなく、中盤のアイドルのライブシーンなどでも、スタッフの培った経験が活かされているのだろう。
3:綿密な取材に基づく、「仕事」に誠実に向き合う物語
水島総監督は何度も舞台であるいわき市街、スパリゾートハワイアンズを訪れ、新人ダンサー、引退した元ダンサー、スパリゾートハワイアンズのスタッフに取材を重ね、自身が「面白い」「興味深い」と思ったことを脚本に反映させていった。プロのダンサーと聞くとアスリートのようなイメージがあるかもしれないが、実際のスパリゾートハワイアンズのダンサーたちは「就職してダンサーになる」「地場産業で働いている」という意識を持たれている方が多いと感じたのだそうだ。本作が青春スポコンものというだけでなく、「仕事」に対しても誠実に向き合った作品になったのも、やはり現実に基づいて物語が作られているためなのだろう。中盤の憧れの先輩社員の言葉からは、劇中のフラガールだけに限っていない、あらゆる仕事に携わる人々へエールを送る精神性も大いに見て取れた。
また、『フラ・フラダンス』は東日本大震災で被災した東北3県を舞台とするアニメ作品のプロジェクト「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の1つだ。すでに2021年4月から6月まで『バクテン!!』が放送され、8月には映画『岬のマヨイガ』も公開されていた。今回の『フラ・フラダンス』の主人公である夏凪日羽はいわき市観光応援キャラクターにも就任しており(公式Twitterも開設)、被災地を応援する目的もあって作られている作品なのだ。
そして、劇中の震災への向き合い方は「悲劇は過去にあったが、重くなりすぎないように描く」というバランスだ。しかも、過去への悲劇をも、良い意味での「戸惑い」をも含めたコメディに昇華することで、「これから元気に生きていってほしい」という、未来へ向けた尊く誠実にメッセージも受け取ることができた。それは、震災に限らず、今の困難な時代に生きる全ての人にとってのエールにもなるだろう。
最後に余談だが、本作は現在も口コミによりロングラン上映中のアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』との共通点が多い。主人公のボイスキャストが福原遥かつおとなしい性格の少女を熱演していること、女の子同士の関係性が尊いこと、物語に「みんなを幸せにしたい」という尊い想いが込められていること、さらにはしおん(詩音)という名前のキャラがいるなど、複数のシンクロニシティがあるのが面白い。ぜひ、そちらと合わせて劇場でご覧になってほしい。
(文:ヒナタカ)
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