<解説>映画『ジャンヌ』を読み解く4つのポイント


ポイント2:2020年代におけるジャンヌ・ダルク像とは?



すっかりSNS社会となった2020年代。大衆のアイコンとなり、一方で集団という心理的安全圏を隠れミノに揚げ足を取ったり罵声を浴びせる動きが可視化されてきた。たとえば、プロテニス選手の大坂なおみや環境活動家のグレタ・トゥーンベリが社会によって偶像化され、同時にプレーや活動に対する批判が激しくSNSで行われている。映画でもこのテーマが注目され始めている。


『ディア・エヴァン・ハンセン』 (C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

『ディア・エヴァン・ハンセン』(21)では、ある嘘をきっかけに学校中から持ち上げられる主人公であるエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)が破滅するまでを描いている。ここでは、SNSをきっかけに「私はあなたに救われました」と言われ、昔から友達だったように学校中の生徒がエヴァンに声をかけるが、破滅した途端にスッと人々が離れていくグロテスクさを強調したミュージカルとなっている。

第71回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したルーマニア映画『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』(21)では、学校の先生であるエミ(カティア・パスカリウ)のポルノ動画が流出したことで裁判が行われる内容。前半では、コロナ禍においてマスクをだらしなくつけている人々の光景が映し出される。一方で、後半の学校裁判のシーンでは関係者がお洒落なマスクと服で着飾って、一方的に持論をエミに投げつける。マスクをSNS上でのアイデンティティに見立てて、センセーショナルなアイコンとなった先生を餌に集団の影から暴言を吐く2020年代を風刺して見せた。



『ジャネット』でIgorrrの音楽を起用し、無視され続けてきたジャンヌ・ダルクの幼年期に着目することで神話から民話に落とし込んだブリュノ・デュモン。『ジャンヌ』では、ひたすら揚げ足を取られるジャンヌに眼差しを向ける。他の作品では群衆が見守る中、火刑にされるジャンヌ・ダルクを感傷的に描く一方で、群衆による火刑を中止し、遠くの丘の上で孤独に焼かれていく彼女の姿を捉え映画は終わる。

往年のジャンヌ・ダルク映画を批判し、さらに偶像化された者に対して、他者が都合よく本人と存在を利用してしまう様子に斬り込んだ。それは昨今のSNSで持ち上げられてしまう存在に対する風刺にも繋がっているといえよう。これは決して15世紀の物語ではなく2020年代と地続きな物語なのだ。

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