
「大怪獣を倒したあとの”死体”はどうなるのか?」——特撮作品の虚を衝く映画が誕生した。三木聡監督がメガホンをとり、山田涼介が主演をつとめる『大怪獣のあとしまつ』。2022年2月4日(金)公開の本作は、国内外を巻き込んだ、大怪獣の死体処理の顛末を描きだす。
土屋太鳳が演じるヒロイン・ユキノは、環境大臣秘書官を務める自立心の高い女性。大怪獣の死体処理の責任者に任命された特務隊員であるアラタ(山田涼介)を陰ながら支える役まわりを、凛とした姿で演じる。三木聡監督との初タッグに寄せた思い、山田涼介の座長としての背中に感じたことなどを聞いた。
”愛”と”恋”の違いを体現したヒロイン像
——本作は「大怪獣を倒した後の、死体の後始末にまつわる顛末を描く」という、これまでにない題材の映画ですね。ヒロイン・ユキノを演じられた感想を教えてください。
土屋太鳳(以下、土屋):大人としての知性を持ちつつも、アラタへの思いを止められない感情的な一面もある女性だと感じます。
知性のある方は、言動や行動が落ち着いていますよね。自分が納得したうえで、しっかり行動を起こす印象があります。だけどユキノは、正論では片付けられない衝動に動かされることもある女性です。その本能的な振り幅を表現したいと思いながら演じました。

——どんな点に気をつけて演じられましたか?
土屋:『大怪獣のあとしまつ』は、ユーモアの中に一貫して社会風刺が表現されている作品です。明暗が絶妙に混ざり合う本作でヒロインを演じるとなると、その”在り方”が二分されるのでは……と私は考えています。本作で言うと、アラタを代表とする「死体処理班」の立場か、ヒーローとは違う日常にいる「一般人」の立場か。
ユキノは元特務隊の一員だったので前者の立場でもあり、濱田岳さん演じる雨音正彦と結婚して現在は一般人のため、後者の立場でもあります。そこに、愛情と恋の違いが表れていると感じていて。ひとりの女性として、その違いをしっかり表現したい気持ちも強かったです。

——土屋さん自身、特撮作品にはどんなイメージを持たれているのでしょうか。
土屋:小さな頃から特撮作品が大好きでよく見ていました。なので「倒された怪獣の後始末って、どうしてるんだろう?」って引っかかっていた部分があったんです。「あの倒されたビル、どうやって復旧するんだろう?」とか、誰もが一度は考えますよね。まさに、特撮作品の盲点をついた作品だと感じます。
山田涼介さんが他のインタビューで「今回はみんな戦ってない」と仰ってたんです。確かにその通りなんですよね。それでもみんな大真面目なのが、この作品の面白さにつながっていると感じます。

–{三木聡監督の現場で感じたこと}–
三木監督のこだわりを感じる、独特な”セリフの間”と”テンポ感”
——コミカルさとリアルさのコントラストが鮮やかで、三木聡監督らしさが炸裂した映画になっていますね。三木監督とご一緒した感想を聞かせてください。
土屋:三木監督は、セリフの間や軽快なテンポ感をとても大事にされる方なんです。監督が手がけられた「シティボーイズ」を自宅で見ながら、その”独特のテンポ感”を理解しようと努力して、撮影現場に臨みました。
——撮影の合間で印象的なやりとりはありましたか?
土屋:監督のメガネって、耳にかける部分からセリフが聞こえるようになってるんですよ。「僕のメガネ、イヤホンが付いてるんだよ〜」って教えてもらって。まさに特撮ガジェットみたいで、感動しましたね。「老眼鏡にもなってるんだ〜」って自慢されている様子がかわいらしくて、ほっこりしました。
三木監督は、演技や作品づくりに対して厳しい方ではあるんですけど、そういったお茶目な面もある方なんです。緊張感とともに、安心感も現場で感じられました。

——三木監督の奥様である、ふせえりさんとの共演シーンも多かったですね。
土屋:仕事を通じて関係を深めるお二人の様子が、まさにアラタとユキノみたいだなと思いました。
ふせさんとは、朝ドラ「まれ」(2015)で共演させてもらっていますが、当時とはまったく雰囲気が違うお芝居をされていて、とにかく笑いをこらえっぱなしでした。ふせさん演じる環境大臣に「クレバーなあなたならわかるでしょ?」と言われるシーンがあるんですが、その「クレバー」の言い方も面白くって。
尊敬する皆さんと一緒の現場だったので、変に自分を飾らなくてもいいんだと思えるようになりました。思わず「ちゃんとした作品になるんだろうか?」と思ってしまうくらい、皆さんがワタワタするシーンもあるんですけど。
——たとえば、どのシーンですか?
土屋:西田敏行さん演じる総理大臣をはじめ、各大臣が集まって大怪獣の死体処理について話し合うシーンです。軽快なやりとりの中に、「実際にこういう方々もいそうだな」と思えるリアリティもあって。改めて皆さんのバランス感覚を尊敬しました。

見た全員が好きになるヒーロー像
——主演の山田さんとは「スクール革命!」(日テレ)などのバラエティ番組では共演されていますが、映画での共演は初めてですね。印象の違いはありましたか?
土屋:バラエティでも演技の場でも変わらず、立ち振る舞いが穏やかで、とても素敵な方です。座長として作品全体を引っ張っていくのは難しいことだと思いますが、山田さんの存在自体が現場を柔らかくしていて、自然と「この人についていこう」と思えました。

——バラエティの現場でのギャップは感じましたか?
土屋:バラエティでも映画でも、それぞれの現場での立居振る舞いを心得ていらっしゃるんだと思います。カットの前後で人柄がガラッと変わることもないですし、日常の中に本番がある方。本作の撮影現場でもユキノとして現場に立てる、自然な呼吸を作ってくださいました。
山田さん演じるアラタは、彼がその場にいることによって、周りの人が大切なものを思い出せる存在なんです。きっとこの作品を見た方は皆さん、アラタを好きになると思います。

——大怪獣の様子も含め、ほとんどがグリーンバックでの撮影ですよね。山田さんも土屋さんもご経験が深いとはいえ、演技をするのが難しいシーンも多かったのではないでしょうか?
土屋:人生で初めてグリーンバックでの撮影を経験したとき、演技指導の方に「大袈裟に(演技を)しないと、映像の力に負けちゃうよ」と言われたのを思い出しました。ご指導いただいた方への恩返しのつもりで演じましたね。その気持ちが映像にも表れていればいいなと思います。

——まるで目の前に本当に大怪獣が寝そべっているようなリアルさを感じました。
土屋:私自身も、仕上がった映像を見て「なんじゃこりゃ!」と驚きました。大怪獣のリアルさ、生々しさが、観客の皆さまにも伝わればいいなと思います。この作品は、思わずクスッと笑えてしまう要素があるからこそ、リアリティを感じる作品になっているはず。その空気感も含めて、ぜひ楽しんでいただきたいです。
(スタイリスト:津野真吾(impiger) 、ヘアメイク:石川ユウキ(Three PEACE)、撮影:小山志麻、取材・文:北村有)
<衣装協力>Creat Clair、ma chere Cosette?
–{『大怪獣のあとしまつ』作品情報}–
『大怪獣のあとしまつ』作品情報
■タイトル:『大怪獣のあとしまつ』
■監督・脚本:三木聡
■出演:山田涼介 土屋太鳳
濱田岳 眞島秀和 ふせえり
六角精児 矢柴俊博 有薗芳記 SUMIRE 笠兼三 MEGUMI
岩松了 田中要次 銀粉蝶 嶋田久作 笹野高史
菊地凛子 二階堂ふみ 染谷将太 松重豊
オダギリジョー 西田敏行
■VFXスーパーバイザー:野口光一(『男たちの大和/YAMATO』)
■特撮監督:佛田洋(『仮面ライダー』シリーズ)
■怪獣造形:若狭新一(『平成ゴジラ』シリーズ)
■企画・配給:松竹 東映
■制作スケジュール:撮影① 2020年3月10日~3月末 / 撮影② 2021年1月末~3月上旬
■公式HP:daikaijyu-atoshimatsu.jp
■公式Twitter/Instagram:@daikaijyu_movie