映画コラム
「ムーンナイト」の原点?3人の監督による必見SF・社会派映画“5選”
「ムーンナイト」の原点?3人の監督による必見SF・社会派映画“5選”
「ムーンナイト」(C)2022 Marvel
現在、ディズニープラスで絶賛配信中のマーベル最新作『ムーンナイト』。このドラマには、原点となる映画があった?!
今回はシリーズの監督3名(モハメド・ディアブ、ジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッド)の過去作を大特集!!
個性豊かな各監督の作風と現在配信中の隠れた秀作5作品を紹介する。
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モハメド・ディアブ
「ムーンナイト」第1話(C)2022 Marvel
「ムーンナイト」の1・3・5・6話のメガホンを握ったモハメド・ディアブ監督は、自身のルーツであるエジプト社会をテーマにした物語を多数手がけている。
初期の脚本作『Real Dreams』では、寝ている間に犯罪者の別人格が目覚める女性の物語を展開。
「異なるアイデンティティに悩まされる主人公」というテーマは「ムーンナイト」にも通じていると言えるだろう。
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■クラッシュ/衝突(別題:護送車の中で)
カンヌ国際映画祭で上映され、世界各国でも高い評価を受けた本作は「護送車の中」というワンシチュエーションで繰り広げられるスリリングな人間ドラマだ。
大規模な反政府デモから2年後のエジプト。
ムスリム同胞団(イスラム教に基づく社会運動団体)と政府側の対立が激化する中で、同じ空間に閉じ込められた両サイドの人々から、人間の本質が浮き彫りになる展開が面白い。
アメリカ人記者の登場で出発する物語は、エジプト社会に馴染みの薄い日本人でも、すんなりと入り込みやすい。
人間関係の対立、調和、共闘といった普遍的なテーマを通過しながらも、思わぬ終着点へとたどり着く傑作となっている。
緊張感を持続させる長回しや全容が分からないまま突き進んでいく語り口、エジプト社会を描いた物語は、まさしく「ムーンナイト」の原点と言えるものなのだ。
※現在はJAIHOで配信中
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ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッド
「ムーンナイト」第2話(C)2022 Marvel
「ムーンナイト」で2・4話の監督を担当したのは、プロデューサー、役者としてマルチに活躍するジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドのコンビ。
低予算ながらも果敢にSFやファンタジーに挑戦する作風が魅力的と言える。
運命にあらがう男たちの戦いや海の怪物が鍵を握るラブストーリー、不思議なループを繰り返す村からの脱出劇など、その題材はさまざま。
現実離れした設定で普遍的な愛を描く物語を得意としている。
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■『キャビン・イン・ザ・ウッズ』
ありがちなB級ホラー映画を思わせるタイトルと、ポスターヴィジュアルからは予想だにしないクライマックスが待ち受ける初期作。
山奥の小屋で生活する薬物中毒の男と彼を更生させようとやって来た親友の男に、思わぬ出来事が待ち受ける。
ワンシュチュエーションの低予算映画ながらも、観客を飽きさせないアイデアの数々が面白い。
怪しげなカルト教団の存在や真夜中に現れる謎の女性、周辺地域に隠された多くの秘密など、彼らを襲う不可解な現象の数々。
行動を記録する情報メディア(写真、カセットテープ、ビデオテープ、フィルムなど)の存在から、男たちが“物語”という運命に抗っていくクライマックスは秀逸の一言に尽きる。
メタ構造を扱った意外性のある脚本で、映画好きこそ必見の内容と言えるだろう。
※現在はAmazon Prime ビデオ(プライムビデオ)で配信中
■『モンスター 変身する美女』
前作とは打って変わって、ラブストーリーに挑戦した監督コンビだが、ファンタジックな世界観は本作でも健在だ。
親を亡くし、自暴自棄になったことで異国へとやってきた男。彼はある女性と運命の出会いを果たすが、彼女にはある秘密があった。
色鮮やかなイタリアの街を舞台に物語はさまざまなジャンルへと変身する。
ミステリーからクリーチャー系ホラー、余命宣告ものと、一見交わらない題材が見事に溶け合った内容は唯一無二と言える。
また、前半から登場する不思議な描写の数々が後半で徐々に回収される巧みな脚本や、過激な描写やおどろおどろしいホラー演出など、大人向けの描写も魅力的。
本作の要素はまさしく、ダークな世界観の「ムーンナイト」にも通ずるものと言えるだろう。
効果的なズームを多用した長回しや、何気ないセリフからキャラクターの信頼関係が浮かび上がる会話シーンなど、技巧面での工夫も見逃せない一作となっている。
※現在はAmazon Prime ビデオ(プライムビデオ)で配信中
■アルカディア
各国の映画祭で多くの賞を獲得し、批評家からも高い評価を受けた本作は、まさしくSF版『ミッドサマー』とも言うべき異色作。
カルト教団が自治する地域“アルカディア”から抜け出した兄弟。
彼らは村から送られてきた謎のビデオテープをきっかけに村を再訪することになるが、そこには驚きの事実が隠されていた。
「The Endless」(終わりのない、輪になったなどの意味を持つ)という原題の通り、円のモチーフや円環構造が大きなカギとなる本作。
実は監督の過去作との思わぬ繋がりもあり、別作品で世界観を共有している部分はまさしくマーベル映画のようでもある。
カルト教団が自治する地域といった設定やぐるりと回る独特のカメラワークなど、「ムーンナイト」に繋がる痕跡も数多く確認することが出来る一作となっている。
※現在はAmazon Prime ビデオ(プライムビデオ)ほかで配信中
■シンクロニック
過去作と比べ予算が増えた本作では、ジャスティン・ベンソン監督が単独でメガホンを握り、VFXを駆使した映像表現にも大きな広がりが生まれた。
謎のドラッグ“シンクロニック”にまつわる怪事件にタイムトラベルというSF要素が混じり合う異色作となっている。
救急隊員が親友の失踪した娘を探すうちにたどり着く“シンクロニック”の驚くべき副作用と予想外の展開、胸に刺さる親友同士の熱い友情には圧倒されるだろう。
主演を務めたのは「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」のアンソニー・マッキ―。
「ムーンナイト」では、多数のエピソードを「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」の脚本家が執筆しており、同ドラマに繋がる小ネタも散見される。
そのため、『シンクロニック』は「ムーンナイト」での監督コンビの起用に、多大な尽力を与えた作品とも言えるのかもしれない。
※現在はAmazon Prime ビデオ(プライムビデオ)ほかで配信中
今回は、現在配信中の5作品を紹介した。
近年のマーベル作品では、実力ある多くのインディーズ映画監督(ジェームズ・ガン、タイカ・ワイティティなど)が発掘され、それぞれが大躍進を遂げるケースが多い。
その例に漏れず、3名も今後の活躍が期待されているため、今見ておいて損のない作品ばかりだろう。
また今回紹介した作品群の中には、今後の「ムーンナイト」に繋がる重要なヒントも隠されているのかもしれない。
ぜひ、そんなポイントにも注目しつつ、ドラマと合わせて鑑賞してみてはいかがだろうか。
(文:大矢哲紀)
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