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『砂の器』“松本清張”の映像化作品を振り返る|戦後が生んだ日本文学の巨人


(C)1974松竹株式会社/橋本プロダクション

戦後の日本文学の巨人として、今も読み継がれる“松本清張”作品。本記事では原作小説から映像化作品まで、その軌跡を振り返ります。

※本記事では松本清張による小説「砂の器」、1974年に映画化された『砂の器』に関して記し、その中でかつてのハンセン病罹患者並びにその家族に対してあった不条理な差別、迫害について触れます。現在はこの差別と迫害が間違っていたという理解が進み、2001年には政府が謝罪と補償を行うなど問題解決に進捗が見られます。まだ道半ばの部分もありますが、本記事で取り扱うことは差別を容認することや助長を目的にするためのものではありません。

戦後、日本文学の巨人として名を残した松本清張

松本清張はミステリー小説などの方面で多くのベストセラーを産み“社会派ミステリー”というものを確立させました。また歴史小説やノンフィクション、評伝などを多く残し、「或る『小倉日記』伝」では芥川賞を受賞しています。

松本清張の基本的な姿勢としては、権力への疑義があります。

これは幼年期の貧しさやプロレタリア文芸雑誌を読んでいたことで“アカ=共産主義者”として 収監された経験によるものとされています。

1909年の生まれの松本清張が、本格的に作家としてデビューしたのは1950年代になってからです。1950年代後半から専任作家となり「ゼロの焦点」「点と線」「砂の器」などベストセラーを連発します。

映像化も早く1957年に「地方紙を買う女」がドラマ化され、同年には『顔』が映画化されています。その後もドラマ・映画で多くの作品が作られてきました。

映画は2009年の『ゼロの焦点』で止まっていますが、ドラマはコンスタントに製作され2022年も「混声の森」と「眼の壁」が放映されています。

原作を越えたと言わせた名作『砂の器』


(C)1974松竹株式会社/橋本プロダクション

多くの映像化、映画化作品のある松本清張作品中で最高傑作と言われているのが、1974年に松竹で製作された映画版『砂の器』です。

監督は野村芳太郎で、脚本は橋本忍、山田洋二という当時の実力者が揃いました。彼らは過去にすでに松本清張作品の映画化を手掛けている実績の持ち主でした。

キャストでは主演に国際派スターだった丹波哲郎、森田健作、先日亡くなった島田陽子、緒形拳、などが並び、キーパーソンの和賀英良役を加藤剛が演じました。

本作ではハンセン病に罹患したために居場所を奪われた親子が全国を放浪するさまが描かれ、これが事件の根幹に関わることになります。

1974年当時でもハンセン病に関する描写については物議を醸し「ハンセン病は、医学の進歩により特効薬もあり、現在では完全に回復し、社会復帰が続いている。それを拒むものは、まだ根強く残っている非科学的な偏見と差別のみであり、〇〇(映画の重要人物)のような患者はもうどこにもいない」という字幕が映画のラストに流されています。


『砂の器』(C)1974松竹株式会社/橋本プロダクション

物語は蒲田で扼殺死体が発見されたことから始まります。

被害者の身元が全く分からず警察は全国を転々としますが、やがて被害者が地方の巡査だったこと、そして彼がある父子と関わっていたことが明らかになります。そして、そこに“業病”と言われ多くのが差別と迫害を受けていたハンセン病が関わってきます。

近年も「砂の器」は映像化されていますが、この部分を今の時代に描くことの問題があるため違った事情に変更されています。しかし、個人的にはこの変更は物語と事件の根幹の変更になってしまい、結果として物語の重厚さ、原作の持つ本来のテーマ性を薄めことになってしまっている印象です。

ほかのいくつかの松本清張作にも言えることですが「砂の器」は昭和、しかも戦後でないと本来の形で映像化できないということになります。そしてギリギリのタイミングで公開された作品が、1974年の映画版『砂の器』でした。映画『砂の器』は大胆な脚色と、重厚な俳優陣、音楽と語りの重なりなどエモーショナルな構造となっていて、今見ても圧倒される1本です。

全国各地に渡るシーンは何と10ヶ月もかけて撮影したということで、映画を見た松本清張をして「原作を越えた」と言わしめた逸品です。

30本以上ある“清張映画”の中でずば抜けた1本であるだけでなく、日本映画史という枠組みの中で見ても非常に大きな存在と言える映画の1本でしょう。

ノンフィクション作家としての松本清張


「帝銀事件 大量殺人獄中三十二年の死刑囚」(C)松竹株式会社

多くのベストセラー小説を手掛けた松本清張は、ノンフィクションライターとしても確固たる地位を築いています。

松本清張は戦前に生まれ、戦中までに収監もされ、さらには自身も出征した経験もあります。また、朝日新聞社に勤めていたこともあります

そんな彼が動乱の昭和・戦後という時代に生きていたため、自然と題材が彼の目の前に広がったことになるのだと思います。

歴史上の人物から(当時の)近現代の人々の評伝や事件について、独自の調査と研究を重ね「日本の黒い霧」や「黒い福音」「昭和史発掘」と言った形でまとめ上げられています。

“黒い霧”という言葉はその後、独り歩きするようになって、松本清張が手掛けていないものでも不祥事也・汚職事件に“黒い霧”という言葉を使われるようになったほどです。

令和の時代でも未解決事件や不透明な決着となった事件はありますが、戦後の動乱期には大きく社会を揺るがすような事件が未解決、または不透明な形で決着を迎えたものが多くあります。

国鉄総裁が死亡した“下山事件”、昭和の未解決事件の代表例ともいうべき“三億円事件”などを松本清張作品の題材に取り上げられています。三億円事件を取り扱った「小説三億円事件」は田村正和主演で「黒い福音」がビートたけし主演でテレビ朝日開局55周年番組としてドラマ化されています。

ドラマ化された松本清張のノンフィクションである「小説帝銀事件」は、1948年に起きた銀行強盗殺人事件で、12人の死者を出す大きな事件でした。様々な犯人像が考えられた中で1人の画家が逮捕され、死刑判決を受けましたが、執行されないまま獄死しました。松本清張は裏側に謀略の存在を感じ、1960年に書籍化しています。

そして森崎東と新藤兼人という映画監督コンビによって1980年に「帝銀事件 大量殺人獄中三十二年の死刑囚」としてドラマ化されています。

製作には『砂の器』の松竹が関わり、同作の監督でもある野村芳太郎が監修を務めています。森崎東は山田洋二と並んで野村芳太郎門下生の代表格でした。

ちなみに“金田一耕助”の生みの親である横溝正史も金田一シリーズの長編『悪魔が来りて笛を吹く』でこの事件を取り扱っています。

『砂の器』オマージュの映画作品



原作小説の「砂の器」も映画の『砂の器』も非常に強い印象を残したこともあってか、オマージュネタが他の映画で散見されます。

『砂の器』の冒頭で手がかりが「東北訛りのカメダ」という地名の話が出てきます。東北に羽後亀田という土地があること調べ上げた警察は現地に赴きますが空振りに終わります。これは実は島根の出雲方言がいわゆる東北のズーズー弁に近いという事実から、島根県の亀嵩(かめだけ)だったことが明らかになります。本シーンは『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』にて、オマージュされています。

柳葉敏郎演じる室井管理官が東北出身ということで“東北弁っぽいイントネーションのカメダ”が出てきて、実際は東京の蒲田だったというオチなのですが、蒲田と言えば『砂の器』で最初に事件が起きた場所ということで二重のオマージュです。(『踊る大捜査線』は映画の1作目でも黒澤明監督の名作ミステリー『天国と地獄』のオマージュをやっています)


(C)2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

また東野圭吾原作の映画の『祈りの幕が下りる時』からも『砂の器』を感じます。

加賀恭一郎シリーズ(映像化に関しては“新参者”シリーズ)の2本目の映画化で阿部寛主演、共演松嶋菜々子、他という重厚なミステリーですが、映像化したことでより「『砂の器』っぽさ」が際立っています。

次の松本清張映画作品は?


(C)2009 「ゼロの焦点」製作委員会

“社会派ミステリー”を確立させた松本清張は作品の時代性ゆえに、一部ではその任を終えた作品もあるように感じます。

その一方で普遍性を持った作品もあり、それゆえに現代劇として翻案しても成り立つ作品もあります。米倉涼子の松本清張三部作などがその代表例です。

全体としては重めの大人のドラマですが、それでも十分見応えがあるものばかりです。

映画は2009年の『ゼロの焦点』(広末涼子、中谷美紀、木村多江に加えて西島秀俊も!?)で止まっているこが少し惜しいところで、どこかで誰かが映画化の企画を立ててくれないかと考えてしまいます。

 (文:村松健太郎)

■『砂の器』配信サービス一覧


| 1974年 | 日本 | 143分 | (C)1974松竹株式会社/橋本プロダクション | 監督: 野村芳太郎 | 丹波哲郎/加藤剛/森田健作/島田陽子/山口果林/加藤嘉/緒形拳/佐分利信/渥美清 |

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■帝銀事件 大量殺人獄中三十二年の死刑囚


| 1980年 | 日本 | 60分 | (C)松竹株式会社 | 監督: 森崎東 | 田中邦衛 / 仲谷昇 / 橋本功 / 中谷一郎 / 木村理恵 |

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