<貞子の呪い>日本が世界に誇るホラーアイコンの30年をチェック


(C)2022「貞子DX」製作委員会

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2019年、ニューズウィーク日本版にて「世界が尊敬する日本人」の一人にイチローや草間彌生らと共に選ばれたのが“貞子”。もはや説明不要、言わずと知れた日本が世界に誇るホラーアイコンです。

映画は見たことがなくてもビジュアルはわかるという人も多いのではないでしょうか?そんな“貞子”の最新映画『貞子DX』がついに公開されました。本作で国内外合わせて通算13本目の映画となります。

今回小説「リング」で日本のエンタメ界に登場してから30年が経つ貞子の歴史を改めて振り返ってみます。

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静かな呪いの始まり



全ての原作である鈴木光司の小説「リング」が発表されたのは1991年のこと。しかし、当時としてはほとんど話題にならず、知る人ぞ知るホラー小説と言った立ち位置でした。続編小説「らせん」が1995年の発売なので、“次”までに4年も空いていたことになります。このことを考えると小説「リング」は盛り上がりという点では静かなものだったことがうかがえます。

ただ、この1995年に初の映像化作品となる高橋克典主演、原田芳雄共演でスペシャルドラマが放映されたのは後から考えると大きな一歩と言えるかもしれません。

基本設定はいわゆる“不幸の手紙”の現代版アップデートで、呪いにかかったものはある一定期間内に“あることをしないと”死んでしまうというもの。映像化の際にはその期間が多少前後します。

現代版アップデートと言っても原作発表当時の主流映像保存メディアだったVHSビデオは令和の今では完全に過去の遺物。そのため最近では、リサイクルショップでビデオデッキを買うシーンが盛り込まれていたり、ネット動画に変更されていたりするなどしています。



まだまだ静かなモノだったこの原作小説シリーズの流れとは別にして1996年に中田秀夫監督&高橋洋脚本で『女優霊』というホラー映画が公開されます。

小規模な公開規模で、“知る人ぞ知る”映画ではありましたが「とにかく恐い」という噂が口コミで広がりレンタルで高稼働を見せます。

この2人に「実は面白いホラー小説があるよ」という形で持ち込まれたのが「リング」でした。

ごく一部の例を除いて“怪談噺”ではない和製ホラー映画はヒットしないと言われていた頃ですが、この監督&脚本家コンビなら悪くないのではないかという流れになり、『らせん』との2本立て興行という形で1998年の1月に公開されました。

2本立て興行ではありましたが、強烈なインパクトを残したのは『リング』でした。特に、原作にはなかったテレビから這いずりだし、人間のモノとは思えない眼を見開く“貞子”のインパクトは凄まじく、「白いワンピースと黒髪ロング」の立ち姿とともに、多くの人の記憶に刻まれました。

拡散される貞子の呪い



映画『リング』と『らせん』の大ヒットを受けて、すぐに続編企画が進むことになりました。なんと『リング』の続編は脚本を一般公募するという驚きの企画でしたが、結果として高橋洋が『らせん』とパラレルな世界観の映画オリジナルの続編脚本を手掛けます。監督は引き続き中田秀夫。

そして公開された『リング2』は『事故物件 恐い間取り』に興行収入を抜かれるまでJホラー最大のヒット作となりました。

並行して国内では連続ドラマ「リング~最終章~」が放映され(のちに「らせん」もドラマ化)、さらに韓国でのリメイク場『リング・ウィルス』が製作されました。韓国版で貞子に当たるパク・ウソンを演じたのは、後に是枝裕和監督作品にも出演する演技派女優のペ・ドゥナ。本作が映画デビュー作でした。



その後、中田監督から離れて『リング0 バースデイ』が公開、時代を遡って“貞子が貞子となる”物語が描かれました。本作で貞子を演じたのはブレイク直前の仲間由紀恵でした。

1998年から2000年の間に『リング』『らせん』『リング2』『リング0 バースデイ』と量産された貞子とリングはいよいよ海を渡ります。



後に『パイレーツ・オブ・カリビアン』を手掛けるゴア・ヴァービンスキーによって撮られた『ザ・リング』は公開初週の全米ランキング1位を獲得。本作で「Jホラーのリメイク企画はイケる!」と踏んだハリウッドは続々とリメイク作品を発表していきます。

軽く挙げるだけでも、以下のように多くありました。

・『THE JUON/呪怨』(『呪怨』)
・『ダーク・ウォーター』(『仄暗い水の底から』)
・『ワン・ミス・コール』(『着信アリ』)
・『パルス』(『回路』)

『ザ・リング2』や『THE JUON/呪怨』などではオリジナルの監督である中田秀夫監督や清水崇がハリウッドデビュー―を飾るに至りました。

貞子、ホラーアイコンとして帰還


(C)2012「貞子3D」製作委員会

本筋と離れますが、ホラー映画には“スクリーミング・クイーン”という役回りが定石となっています。

※スクリーミング・クイーン:ホラー映画において、悲鳴や絶叫の演技を得意とする女優。

定石に則り、日本でもホラー映画が作られ続けますが、ここでAKB48を筆頭とするグループアイドルブームと重なることになります。ビジネス的に見ればキャスティングとして手堅いチョイスでした。一定のファンの動員は確約されることで予算面も逆算しやすく、パッケージ化しやすく、さらに演技面での経験不足も補えると良いこと尽くしの様な気もします。

しかし、徐々にアイドルをキャスティングだけで終わってしまう作品も多く、結果としてJホラーは粗製乱造の様相を呈してきます。その間、“リング”関連タイトルは休眠状態に入り、日本の貞子の映画としては実に12年ぶり、直近のハリウッド作品『ザ・リング2』からも7年の空白期間があります。


(C)2012「貞子3D」製作委員会

そんな中で『貞子3D』が公開されました。

主演は石原さとみ、共演に瀬戸康史、橋本愛といった面々が並んでいましたが、宣伝展開は徹底した“貞子推し”でした。映画の空白期間中に独り立ちした“貞子”はアトラクションになり、ゲームになり、パチンコになり、ラッピングトレーラーになり、大群が渋谷のスクランブル交差点をジャックし、プロ野球の始球式までやりました。



今回の『貞子DX』に合わせたイベントでは7人に増殖した貞子が三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEの主題歌に合わせてキレキレのダンスを披露するに至り、一連のPR活動では主演の小芝風花の存在を上回るほどです。



もはや“貞子”はゴジラやピカチュウと共に日本発信の映画キャラクターとしてすっかり定着し、ホラー映画界ではジェイソンやフレディと同列に語られるホラーアイコン化したと言えるでしょう。

今ではYouTubeチャンネルを持ち、Instagramアカウントも開設、2022年に10月には片岡愛之助による「日本怪談歌舞伎(Jホラー歌舞伎)貞子×皿屋敷『時超輪廻古井処』」でとうとう歌舞伎界に進出してしまいました。

もともとホラー映画はシリーズ化する際に、洋画・邦画を問わずに人間側の登場人物の多くが1作限りで退場するというストーリーの構造が宿命づけられている部分もあるので、モンスターの側だけが継続して登場し続けるというのは、自然な流れといえば自然な流れではあるのですが……。

タイトルの変遷で“リング”という言葉がいつの間にか消えてしまい、『貞子3D』『貞子3D2』と続き、『呪怨』とのまさかの交流企画『貞子VS伽椰子』、さらに中田監督が還ってきた『貞子』と“貞子”が軸になっていくことがわかります。

“呪い”はどんどん身近でお手軽に



先述した通り、最初の貞子の呪いを媒介するものはVHSのビデオテープでした。しかし、今となってはVHSビデオの現物を見たこともない世代もいるのではないかというほど、古めかしいメディアです。

その後徐々に媒介するものがアップデートされ、最近はネット動画が主戦場となっています。その結果より一層見やすくなり、身近で気軽に“貞子の呪い”に触れられるようになりました。

最新作『貞子DX』では“貞子ウィルス”という言葉が登場。コロナ禍と重なる部分があって、より現代的に身近な形になりました。



呪いの期間も最初は7日間でしたが、気が付けば2日間になっていて、とうとう今回の『貞子DX』は24時間以内に“あること”をしないと死んでしまいます。設定は毎作変わるため、今回の設定が次回以降も採用されるかは不明ですが、貞子の呪いがどんどん身近になっていくことは今後も続きそうです。

今回の『貞子DX』では久しぶりに3D仕様4DX仕様にもなっているため、体感でもより近い“貞子体験”を味わえることでしょう。

全ては『リング』と“貞子”から


(C)2022「貞子DX」製作委員会

『呪怨』の清水監督もホラーヒロインの伽椰子と『呪怨』の造形についても『リング』の影響が大きく、何処を模倣して、どのポイントは逆に置くのかを考えたと話しています。

2012年の『キャビン』というハリウッド映画では、世界各地の怪異はすべて“ある組織”が壮大な目的のために仕組まれたものだと設定でした。一方で日本での怪異は「白いワンピースで黒髪ロングヘア―の女性」になっていました。

これからも日本発信のホラーアイコン“貞子”はさらに広く深く、確実に我々の世界に侵食していくことでしょう。

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