「舞いあがれ!」第35回:うまくできた設定。五島に行ったついでに福岡の母に会いに行く久留美
2022年10月3日より放映スタートしたNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」。
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第35回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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久留美と母の再会
舞(福原遥)と幼馴染の貴司(赤楚衛二)と久留美(山下美月)と、父母・めぐみ(永作博美)と浩太(高橋克典)と祖母・祥子(高畑淳子)は五島で、それぞれの過去に決着をつけたり、未来に向かったりします。ここでいったん区切りをつけて、舞の航空学校編のはじまりになります。舞の岩倉家は、祥子がめぐみと浩太のことをゆるし、めぐみは舞が航空学校に行くことを認め……と順風満帆です。
久留美は、舞や貴司のことを見ながら、自分も母との確執に決着をつけようと思ったようで、母・松下久子(小牧芽美)のいる福岡に立ち寄ります。五島に一緒に来たのは、福岡に行く理由をつけたかったのかもしれません。ちょうど東大阪と五島の途中に寄れる場所ですから。
久留美の母は誕生日にカードを送ってくれていましたが、対面で話すのは出ていったとき以来のようで、なぜ、出て行ったかようやく語ります。
第34回、祥子が舞に、めぐみと祥子の喧嘩別れの話をしたこともそうで、子供のときには話せなかったことも大人になったら話せるときが来るのです。母や祖母の気持ちが理解できる年頃になったと言うことです。
久子の話を聞くと、佳晴(松尾諭)は怪我がショックとはいえ困った人だなあと思いますが、そんな父を久留美は選んだのです。というか、「いけへん、私、お父ちゃんとおる」と言うことで、母が考え直してくれるのではと思ったら、お母さんはそのまま行ってしまったという哀しいすれ違いでした。
久子は当時、久留美が佳晴を選んだと思いこみショックだった様子。視聴者としてここでショックだったのは、久子が部屋を覗いたときに寝ている佳晴に久留美が覆いかぶさっている画。すぐに久留美だとわかるとはいえ、一瞬、佳晴は浮気をしていたの? と焦りました。
へんな勘違いをする己の汚れた心を恥じる一方で、言い訳もしたい。なぜなら寝ている父にしがみつく背中から振り返って久留美の顔という、フラッシュフォワード的なカットが思わせぶり過ぎて、第32回の、行方不明になった貴司に電話したら、崖の上にケータイが乗っている画だけ映して不安をかきたてるものに近いように感じたのです。
あとで、もう一回、久留美が「いけへん、私、お父ちゃんとおる」としがみつく、時間軸に沿ったカットが出てくるのです。この「いけへん、私、お父ちゃんとおる」が大事なのだから、そこから見せてもいいはずなのに〜。まあ冷静に見ていれば女児の背中なので、久留美だとわかりますから、やっぱり筆者の目が汚れているのでしょう。熊野CP の取材会で聞いたら思いもよらない話のように笑われてしまいました。「舞いあがれ!」にはドロドロはないそうです。
あるいは、お父ちゃんが倒れていて、久留美がしがみついているようにも見えますし、とにかく不安感を煽ってどうなるの〜? と気にさせる演出です。基本、淡々とゆったりしているから、この手の俗っぽい演出はそぐわないようにも感じます。
それはともかく、久留美の久は久子の久からとったのでしょうし、久留美は母の仕事と同じ看護師を目指していることから、離れていてもつながっていることが感じられます。ここは、祥子とめぐみの和解ともリンクして見えます。
さて、貴司は東大阪にいったん戻り「旅しながらその土地で働いて自分の居場所を探したい」と父母・勝(山口智充)と雪乃(くわばたりえ)に気持ちを吐き出します。そんなことなかなか理解できない雪乃、勝は広く受け止めます。これは父母の違いですね。
浩太、勝はよくできた父で、佳晴だけ少しうまくいってない父。めぐみと雪乃は心配症の溺愛母で久子は子を育てることよりも夫との関係に絶望して去った母、久留美だけ親に恵まれていない感じで、すこし気の毒になります。
【朝ドラ辞典 初恋(はつこい)】初恋は甘酸っぱい経験。朝ドラでは初恋は実らないことが多い。一度失恋して、そのあとであった人と結ばれる。初恋は人生の過渡期。「舞いあがれ!」では舞はまだ初恋を知らないが、五島の一太(若林元太)が舞に初恋して、でもその思いは実らないところを担っているように見える。
(文:木俣冬)
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