『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の上映回数は『すずめの戸締まり』のせいで減ったと言えるのか?座席数シェアを見てみた
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11月11日(金)公開作品をめぐる、シネコンの上映編成が大きな議論になっています。
新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり(以下すずめ)』の上映回数がとんでもなく多く、同日公開の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー(以下ワカンダ)』の上映回数が減らされたのでは、という憶測がSNSで飛んでいました。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(C)Marvel Studios 2022
しかしTOHOシネマズ新宿では『ワカンダ』も1日21回上映するなど、多数上映している劇場ともあるようです。実際に『ワカンダ』の上映回数は少なかったのでしょうか?座席数シェアの数値を見てみましょう。
※映画館の座席数シェア率はプレコグ株式会社が毎週算出しており、文化通信で無料で読めます。
土日2日間に上映された「延べ座席数」(延べ上映回数×上映スクリーンの座席数)を作品ごとに計算したものです。
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『ワカンダ』は前作と比べるとシェアは増えた
11月15日(木)に公表されたデータによると、『ワカンダ』の座席シェア率は14.2%。1館/1日あたりの上映回数は7.3回で、平均座席数は188.9席でした。
2018年公開の『ブラックパンサー』の時は13.9%だったため、前作と比べて座席シェアは伸びています。
ただ『すずめ』は1作で半数超えの52.0%に達しているため、比較するとかなり圧迫されたようには感じてしまいます。1館/1日あたりの上映回数も20.4回のため、圧倒的な数字であることは確かです。
(C)2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
これまで1作でシェアの過半数を取った作品は、2020年『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の57.8%、2021年『名探偵コナン 緋色の弾丸』の59.7%のみです。『緋色の弾丸』が『無限列車編』を超えていたのは意外ですね。(参照)
ちなみに、その他大きなシェアを獲得していたのは以下の作品です。
- 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)43.4%
- 『劇場版 呪術廻戦 0』(2021)48.7%
- 『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(2022)48.6%
2022年の『ONE PIECE FILM RED(以下FILM RED)』は35.0%で数字としては案外大きくありません。(※全てプレコグ調べ)
一般的に、1作品がスクリーンの半分近くを埋める事態は2020年の『無限列車編』から始まったイメージがあります。その一方で2019年『アナと雪の女王2』が42.2%を獲得しているため、実は『無限列車編』の前から、上映編成の偏りは始まっていたと言えるかもしれません。
『ワカンダ』を2022年公開のハリウッド映画と比較
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(C)Marvel Studios 2022では『ワカンダ』は他のハリウッドメジャー映画と比較してみるとどうなるでしょうか?
主だった作品名・シェア率・1日の1館あたりの上映回数を以下に並べてみます。(※全てプレコグ調べ)
- 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』28.1%・11.3回
- 『THE BATMAN-ザ・バットマン-』18.0%・6.7回
- 『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』32.2%・10.4回
- 『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』20.8%・8.1回
- 『トップガン マーヴェリック』26.6%・8.7回
- 『ソー:ラブ&サンダー』20.8%・7.2回
- 『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』31.8%・11.1回
- 『ブレット・トレイン』14.9%・6.2回
- 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』14.2%・7.3回
座席シェアでは『ワカンダ』は2022年のハリウッドメジャー映画の中で最も少ない数字になりました。しかし上映回数は『ザ・バットマン』や『ソー:ラブ&サンダー』『ブレット・トレイン』を超えています。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(C)Marvel Studios 2022
上映回数を考える上で忘れてはいけない点は、上映時間の長さです。『ワカンダ』は2時間41分あのため、上映回数を稼ぎにくい作品だと言えます。2時間56分ある『ザ・バットマン』も上映回数は少なくなりがちだったようです。
『ワカンダ』のシェア率が伸びなかったのは、大きなスクリーンで『すずめ』が上映されていたため。大きなスクリーンであれば『ソー:ラブ&サンダー』と同レベルのシェアになったと考えられます。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(C)Marvel Studios 2022
『ワカンダ』の上映回数は、上映時間の長さと前作の結果(興行収入15.6億円)と今年のハリウッドメジャーの成績を総合すると、概ね作品の興行ポテンシャルを的確に捉えた妥当な数字ではないかと考えます。ただもう少し大きめのスクリーン、特にIMAXの上映は増やしても良かったなという印象です。
それよりも『すずめ』と『ワカンダ』以外の新作が深刻です。この2作品以外の新作のシェアは合計で5%強しかない厳しい状態でした。
- 『土を喰らう十二ヵ月』2.7%
- 『あちらにいる鬼』2.1%
- 『ドント・ウォーリー・ダーリン』1.0%
「スクリーン・ジャック」の是非
1作で過半数を占有する「スクリーン・ジャック」の是非はどう考えるべきでしょうか?
スクリーン・ジャックが効果的だったと言えるタイトルは、実はそこまで多くないように思います。それこそ『無限列車編』くらいではないでしょうか。
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(C)2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
『名探偵コナン』シリーズは、2022年の『ハロウィンの花嫁』は2021年の『緋色の弾丸』よりシェアは少ないですが、最終興行成績は上回っています。『トップガン マーヴェリック』もシェアで下回っていても、最終的には『ジュラシック・ワールド』や『ファンタスティック・ビースト』を超える成績を記録しました。
これまでの状況を踏まえると、ほとんどの作品は悪目立ちするほどスクリーンを占有するよりも、初週の公開は30%〜40%くらいで十分であり、最終的な興行成績はその後の口コミによる伸びにかかっていることではないかという気もします。
©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会
実際に『すずめ』は52%を占有して、35%の『FILM RED』に初週の興行収入で負けています。『FILM RED』は2日で22億円を稼いでいる一方で『すずめ』は3日で18億円台にとどまりました。新海誠監督の作品としては最高のスタートですが、占有率を考えると少し物足りない気がします。
ただ問題は、有力タイトルの本数です。コロナ禍で映画館は苦境に陥りました。上映タイトルの数、特にハリウッドメジャーの数はいまだにコロナ前に戻ってはいません。ディズニーのように配信に舵を切った会社もあるため、完全には戻らない可能性もあります。
コロナ禍の状況的に他作品でスクリーンを埋める必要あるため、注目のタイトルにスクリーンが集中するのはある程度仕方ないことだと筆者個人的には考えます。
1作品への集中を避けるには、ハリウッド映画の穴を埋められるジャンルの開拓も考える必要があるでしょう。個人的には『RRR』のようなインド映画や『犯罪都市 THE ROUNDUP』のような韓国映画がもっと大きなヒットになってくると、シネコンの編成も多彩になると思います。
今回、議論の対象になった2作『すずめ』と『ワカンダ』はともに評判も上々でどこまで成績が伸びるか楽しみです。近年の興行は公開前の宣伝と同じくらい、公開後の評判が大事であるため、両作品ともここからが勝負です。
(文:杉本穂高)
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