映画コラム

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2022年11月19日

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』音楽から紐解く“母性の物語”

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』音楽から紐解く“母性の物語”


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世界興行収入13億ドルを突破し、アメコミ映画として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされるなど、大きな成功を収めた『ブラックパンサー』(2018)。

だがその続編となる『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022)の製作は、苦難を極めた。ご存知の通り、主人公ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが、闘病の末2020年にロサンゼルスの自宅で逝去してしまったからだ。彼が大腸癌を患っていたことは、ほとんどの関係者に知らされていなかった。

前作に引き続き監督・脚本を務めたライアン・クーグラーは、すでに続編のシナリオを書き上げていたものの、大幅なプロットの修正を余儀なくされる。彼自身も、そしてマーベルスタジオも、チャドウィック・ボーズマンの代理を立てることは想像できなかった。

彼がこの世を去ってしまったなら、ブラックパンサーことティ・チャラもこの世を去らなければならない。本作はヒーロー不在という異常事態のなか、製作が進められたのである。

※本記事は『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

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MCU史上、最も女性キャラクターが活躍する作品


かくして完成した『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、MCU史上最も女性キャラクターが活躍する作品となった。ワカンダを守り抜くために戦うのは、ラモンダ(アンジェラ・バセット)、シュリ(レティーシャ・ライト)、ナキア(ルピタ・ニョンゴ)、オコエ(ダナイ・グリラ)といった女性たち。

ジャバリ族リーダーのエムバク(ウィンストン・デューク)が唯一といっていいくらい孤軍奮闘するものの、ティ・チャラや高僧ズリ(フォレスト・ウィテカー)はすでにこの世を去り、ボーダー族リーダーだったウカビ(ダニエル・カルーヤ)は一切登場しない(おそらく、キルモンガーを王に担ぎ上げた罪を問われて追放されたのだろう)。男性キャラクターが活躍する場はほとんどないのである。

さらに言えば本作は、母が子を慈しむ“母性の物語”としても構築されている。象徴的なのが、亡きティ・チャラに代わって女王の座に就いたラモンダ。彼女は「ヴィブラニウムを分け与えよ!」という欧米諸国からのプレッシャーをはねのけて毅然たる態度を示し、女王たる風格を漂わせている。(まるで『極道の妻たち』の岩下志麻のような貫禄ナリ!)

だが愛娘シュリが謎の海底帝国にさらわれたと聞くや、ボディガードを任じられていたオコエを激しく叱責し、国王親衛隊隊長の任を解く。そして、夫と息子を失った自分の境遇を嘆くのだ。

この怒りの感情は、女王ではなく一人の女性、一人の母親としての感情をぶちまけたものと言えるだろう。そして彼女は、リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)を助けようとする母性が引き金となって、自ら命を落とすのである。


ポスト・クレジットシーンで、ナキアはティ・チャラとの間に息子をもうけていたことを告白する。戦士オコエにも、(おそらくウカビとの間に出来たのであろう)子どもがいることが明かされる。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、何よりもまず母親の物語、母性の物語として認知すべき作品なのだ。

「Lift Me Up」「No Woman, No Cry」楽曲に込められた想い



“母性”というテーマは、本作の主題歌「Lift Me Up」にも如実に表れている。このナンバーは、リアーナが約6年ぶりに発表した新曲。「チャドウィック・ボーズマンに哀悼の意を捧げたい」という気持ちから、今回のオファーを快諾したという。

「Lift me up, hold me down, keep me close, safe and sound(私を気分良くさせて、私を抱きしめて、近くにいて、安全で健全に)」と、子守唄のように優しく、包み込むかのように歌われるリリックは、今はもう会えない人を想ったもの。

彼女は今年5月に、ラッパーのエイサップ・ロッキーとの間にできた子供を出産したばかり。カリブ海の小さな島国バルバドスで生まれ育ち、やがて世界を世界を代表する歌姫となったリアーナが、母親となって初めてリリースした楽曲がこの「Lift Me Up」なのである。

それは小さな国ワカンダで生まれ育ち、祖国のため、子供のために戦う母親たちと大きく共振するテーマ。本作の音楽を務め、楽曲制作にも関わったルドウィグ・ゴランソンは、インタビューでこんなコメントをしている。

「この映画は、基本的に母性について描いたものだ。彼女(リアーナ)のキャリアや私生活の状況とつながっているんだよ」(ルドウィグ・ゴランソンへのインタビューより抜粋)

https://screenrant.com/black-panther-wakanda-forever-ludwig-gransson-interview/

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』にはもう1曲、興味深いナンバーが使われている。ボブ・マーリーが1974年に発表した名曲「No Woman, No Cry」のカバーだ。歌っているのはナイジェリア出身のR&Bシンガー、テムズ。



直訳すると「泣かない女性はいない」だが、元々この曲はジャマイカ英語っぽく「No Woman, Nuh Cry」というタイトルで、「愛する君よ、泣かないでくれ」というニュアンスに近い。女性を鼓舞するアンセム・ソングとしての役割を果たしているのだ。


リアーナの「Lift Me Up」の共同作詞を手がけ「No Woman, No Cry」をカバーすることを提案したのは、他ならぬライアン・クーグラー監督自身。

間違いなく作品に込められた想いが、そのまま楽曲に受け継がれている。“母性”という想いが。

(文:竹島ルイ)

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