「舞いあがれ!」第56回:「気持ち伝えなくていいの?」と聞かれる吉田学生の切なさ
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第56回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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内定はもらったけれど
第12週「翼を休める島」(脚本:桑原亮子 演出:小谷高義)は舞(福原遥)が就職活動をはじめて内定をもらうところからはじまります。就活に苦戦したようですがそこはナレーションでさくっと済ませ、やっと内定がとれた喜びを中心に描くところが令和的と感じます。しんどいところを描かない、それが近年の傾向です。柏木(目黒蓮)が海外留学に行くことになり、舞と遠距離恋愛になりますが、そこもかなりあっさり。従来の物語だったら遠く離れることにくよくよする時間を割きますが、柏木と舞はかなりドライです。ところが内定や遠距離よりももっとしんどいことが起こります。リーマンショックです。
リーマンショックによって舞の実家の工場の経営が危なくなって……。IWAKURAのボーナスは3万円……。
視聴者は現実のリーマンショックを知っているのでいやな予感しかしません。朝ドラで描かれる喪失感はこれまで「戦争」が多く、最近、「震災」が加わり、「コロナ禍」も……という状況ですが、「リーマンショック」ーー「金融危機」を題材にすることは新機軸です。戦争や震災や疫病による喪失から立ち上がっていくことだけでなく、貧しさからも立ち上がっていく、とても”今”を感じます。
舞にもさだまさしさんの不穏なナレーションがかかります。
航空学校の仲間が居酒屋で飲み会をしていると、水島(佐野弘樹)がやってきます。舞たちはいま仙台校にいて、水島は北関東の大手スーパーの御曹司設定だから、きっと立ち寄りやすいところにいたのでしょう。スーパーの惣菜をもってきて、持ち込みいいですか?と一応聞いていたけれど、注文した品数がやけに質素ななかで惣菜が目立っていて、不思議な気持ちになりました。
この居酒屋の雰囲気がお好み焼き・うめづに似ています。たぶん、セットの建物をそのまま使って内装だけ変えたのではないかという気がします。テーブル席も小上がりにして。
そのあと、うめづも出てきますが、この回は店の奥の座敷でIWAKURAの飲み会が行われます。舞たちの居酒屋とうめづの印象がアングル的に似てしまわないための工夫ではないかと勝手に想像しました(根拠はなく勝手な感想です)。
美術で思ったのは、舞たちの宿舎です。宮崎のときは倫子(山崎紘菜)がさきに窓側をとってましたが、仙台では舞が窓側。きっと不公平にならないようにしているのでしょう。
さて。居酒屋で、倫子が吉田(醍醐虎汰朗)に「気持ち、伝えなくていいの?」と聞いていました。舞と柏木がつきあっていることをおそらくみんな知っているだろうに(居酒屋でも途中、ふたりだけ席を離れて座ります)、そんなこと酷ではないでしょうか。それに、いままで吉田の気持ち描写、ほっとんど描かれてなかったですし。スピンオフ用にとってあるのでしょうか。
失恋、それも喪失感のひとつです。吉田学生にもひそやかに喪失がありました。
【朝ドラ辞典 喪失感(そうしつかん)】朝ドラは喪失感を乗り越える物語が多い。代表的な題材は戦争。そこに震災が加わってきた。朝ドラの初期に、戦争中の物語が多かったからか、喪失感が物語には必要と思ったからか、順番はわからない。普遍的なテーマであることは確かである。
(文:木俣冬)
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