続・朝ドライフ

SPECIAL

2023年07月11日

「らんまん」万太郎は「やりてえ やりてえバカ」<第72回>

「らんまん」万太郎は「やりてえ やりてえバカ」<第72回>

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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第72回を紐解いていく。

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「八犬伝の犬士みたいに」

恋愛と結婚は違うもの。結婚してみたら、思っていたのと違うということがあります。
万太郎(神木隆之介)が植物図鑑を作るため、印刷工場に再び通い詰めることになり、寿恵子(浜辺美波)の寂しさが募ります。

「八犬伝の犬士みたいにふたりでいるから強くなれる」

寿恵子は八犬伝の犬塚信乃と犬飼現八のように同志的なものに憧れていましたが、いざ結婚したら、自分は生活を守ることばかりにかまけてしまう。それが寿恵子には物足りない。

一緒に戦いたい。女の子が一度は抱く願望です。

「だって私、あんな大きな人の妻になったんですから」

と万太郎を過大評価する寿恵子に、クサ長屋の住人・福治(池田鉄洋)

「別に万ちゃんなんて立派なやつじゃねえからさ」とばっさり。
「(好きなことだけ)やりてえ やりてえバカ」なだけと散々な言いようです。

いや、過大評価ではなく、モデルの牧野富太郎は大物になるわけで、万太郎もそうなのでしょうから、寿恵子は人を見る目があるのですが、この時点では、周囲のほとんどは万太郎の未来を予想だにしていません。

これまで、名優・池田鉄洋さんが演じているにしては、出番少なめだった福治が、突如、長台詞を語りだしました。それは彼の過去ーー妻に逃げられた理由でした。

「棒手振」という魚の干物を売る仕事が福治は好きだったが、妻は、自分の店を持つなど、もっと野心を持ってほしいと願っていたようで、価値観が合わなくて出て行ってしまった。子供も置いて。それで福治は今で言う、シングルファーザーに。

突然の過去語りブッコミはドラマあるあるで、視聴者的には若干違和感を覚えるものですが、なかには、思い当たるふしを感じて、しんみりする視聴者もいるでしょう。出世しないといけないのか、有名にならないといけないのか、年収を増やさないといけないのか、投資をしないといけないのか……等々と。そして、その人がすごい仕事をするから好きなのか、何もしなくてもその人そのものが好きなのか問題。

でもこの場面の真なる狙いは、寿恵子の大望を際立たせることです。

自身の経験から「身の丈に合わない望みは不幸になる」と福治は助言しますが、寿恵子の選択はーー。

福治は、身の丈を自覚して、小さくまとまって生きていくことを幸せとする人物代表で(ずっとひっそり目立たなかった理由はそこかもしれません)、寿恵子は万太郎と同じく大望を抱いて邁進していく人物です。

寿恵子は大畑印刷所にやって来て、万太郎の仕事を熱心に観察し、その結果、とんでもなくでっかいことを思いつきます。

寿恵子も万太郎もでっかい夢をもっていますが、福治のような人生もドラマでは否定するようには描かれていません。また、大畑印刷所では、大畑(奥田瑛二)の妻イチ(鶴田真由)も、ひとつの理想として描かれているように見えます。

イチは、あくまで家を守る仕事をしていて、職人たちの食事を用意したりしていますが、明るく場を盛り上げるムードメーカーになっているし、ちゃきちゃきしていて、実は大畑をお尻に敷いているようにも見えます。

食事のシーンで、万太郎が箸を2膳とって、寿恵子に渡すのが、旦那さまって感じでした。また、イチが、本を作る資金を峰屋に頼ればーーと言い出したとき、大畑がさりげなくたしなめるのも(酒蔵事情を慮って)、旦那さまって感じでした。2組のいい夫婦が描かれていました。


(文:木俣冬)

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